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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第二章 ギルド島
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第六十四話 ジュンの執事

 ジュンは特務隊の自室に転移すると、部屋を掃除して人形の目にスライムを貼り付けた。これで留守中の伝言は映像と共にジュンの手元に届く。

 カリーナが丁寧に耳に付けてくれた、ボタンのピアスは小さかったが、テントで作ったスピーカーの陣を入れ、手元のスライムで、音量を調節しながらそれもまた取り付けた。


「ジュン二号! ここは君に任せた。期待している」

 人形はただ笑っているだけなのは仕方がない。ジュンは人形に留守を任せて隊長室に向かった。


 ジュンは隊長室で、昨日の報告書を見せられた。

「ご苦労だった。ポーラは加害者として、その母親は共犯者として、警備隊のろう屋に入ったが、母親の衰弱がひどくて、今は治療師がついている。母親はこの日を予期していたようで、常に剣を手元に置いていたようだ」

「孫を殺すためにですか?」

「魔物として討伐をされたくはなかったようだ」


(僕は娼館の窓から、静かに彼の命が消えるのを見ていたんだ。僕だけが先に帰されたのは、コナー副隊長の優しさ。黒組の皆も後味が悪かっただろうな。本当に僕は甘い……)


 ジュンは気持ちを切り替えるかのように、首を振りベルホルトを見る。

「隊長。階段下の部屋を使わせていただく事にしました。それで、名札を頂きたいのですが」

「あぁ。用意してある。これだな」

 ベルホルトは名札と首から提げる認識票を二つ、机の中から取りだす。


「これに血液を付け魔力を流せ。熱くなったら召集が掛かっているので、すぐにこちらに来る事。任務中の場合はこちらが把握しているので、呼ぶ事はない。そしてそれは、所持者の魔力が消えると発光する。そこにボードがあるだろう?」


 ベルホルトの示す場所には、名前が書いてあり、認識票が掛けてある。


「これは、二個組で、隊員の認識票が光るとそのボードの認識票も光るのだ。危険な仕事もあるからな」


 ジュンは血液と魔力を登録して、一つをボードにかけ、もう一つは首からぶら下げた。

 ジュンはベルホルトに部屋にある人形の事を話す。


「それは便利だな。青と黒の隊員は組で家を持っている。ただ、移動が面倒なので、ほとんどがここで暮らしている。ジュンは組に所属している訳ではない。呼ばれるまで、隊にくる必要もないし、人形で要件が済むのなら、チェイスもコナーも時間を無駄にしなくて済む。調査が一日で済む事などないからな。早く仕事を片付けるには人数が必要だ。早急に仕事に挑める体制を作る事だ」

「はい」


 返事をしたのはいいが、知り合いは王子ばかりなのだ。

(そんな忍者みたいな事をしてくれる、知り合いなんていないよ)


 ジュンは本邸に戻ると、コラードにジェンナの予定を尋ねた。

「先程本部より戻られました。伺ってまいります」


 ジェンナはすぐに会ってくれるというので、ジュンは執務室に足を運んだ。

 

 ジュンは仲間を集め、拠点を設けなければならない事を伝えた。


 ジェンナは全てを聞き終えてジュンに告げた。

「知っているよ。私とミゲル様とでジュンの部署を決めたからね。この島は知られていないが、四つに分かれている。この屋敷のある場所はカイ様の土地。ギルド総長の屋敷だねぇ。山に区切られた二つのうち一つはショウ様の土地でギルド本部がある場所。タクト様の土地は職員が暮らす場所。そして、シオン様の土地は誰も足を踏み入れた事がない」


「なぜですか?」


「カイ様がいらした神界に行かれたからさ。怒りを買いたくはない。無断で入ったまま戻らなかった者もいたらしい。未知領域なのだから、想像はつくがね。シオン様の土地はジュンが好きにするといい」


(たたり? ばち? シオン様は魔物にやられたと言わなかったカイが悪いよね)


「テント暮らしでいいですけど、仲間の拠点なら作るべきでしょうね。ジェンナ様、仲間ってどうやって探すんですか? 雇用ギルドでしょうか?」


 ジェンナは声を上げて笑い。コラードとジーノは目を細める。


「ジュン。仲間を集めて、その者たちをまとめ上げ、仕事をさせて、給金を払う。それが一人でできるかねぇ。みんなの身の回り、掃除、洗濯、料理。人を雇ってジュンは指示をだせるかい?」


「絶対に無理です。僕、初給料もまだいただいていませんので、雇うお金もないです。第一、人を使った事もない。明日隊長に断って食堂に行かせてもらいます」


 ジュンはそれが名案だとでもいうように、自分にうなずく。


「そろそろ食堂から離れな。一人じゃできないよ。長く生きている私ですら、ジーノに屋敷を任せているから仕事ができている。ミゲル様にも亡くなったが、優秀な方がついていたんだよ」


 ジュンはジェンナやミゲルとは、立場が違うのだと言わんばかりに伝える。


「でも、僕は新入社員ですよ? 立派な方なんて雇えません。第一、僕みたいなへなちょこと一緒に苦労するなんて気の毒過ぎる……」


「金なら使い切れない程あるだろう?」

「へ? 少しはありますよ。魔物を倒して稼いだ分ですから、たかが知れていますが。将来は結婚とかお金が必要でしょ?」


 ジェンナはあきれた顔をして言う。

「どこの王族をもらう気だ……。違うわ! 全く。世界中の王から感謝の印が届いただろう? 来てない国は一つもないさね」

「そんなに菓子はいりませんよ。おいしいうちに配りましょう。ジェンナ様」

 ジュンにとってお礼とは菓子折りのようである。


「ジュン、お前は何を言っておるのだ?」

 コラードが見かねて、ジュンのそばまでくると小声で告げる。

「ジュン様。感謝の印とはお金のことでございます」


「えぇ! お菓子じゃなかったのぉ!」

 ジーノとコラードは優しくほほ笑むが、ジェンナは大きくため息をつく。


「王族が自分の息子の命を救ってもらって、お菓子で感謝を表すか? その方が余程おかしいねぇ」

「そうかなぁ? 菓子で十分気持ちは伝わるけど、ミゲル様にも喜んでもらえる」


 ジェンナは話を進める事にしたようだ。


「とりあえず、金と土地はあるのが分かったかい? それでだ。信用のできる人間をその年で探すのには、無理がある。私はここにいるコラードを押すよ」


 ジュンは慌ててジェンナに告げる。

「ジェンナ様。コラードはすごい人だって僕にだって分かります。僕なんかに付いちゃ、もったいないでしょ? 引く手あまただと思いますよ。もっと偉くて立派な人がいいに決まっています。むちゃを言っては駄目ですよ? 気の毒です」


 そこでコラードがジュンの前で礼をする。

「ジュン様。どうぞ私におそばでお手伝いをさせてください。私は多大な富や地位のある主に興味がございません。そのような方は私である必要もないのです。ジュン様はまだ歩き出されたばかりでございます。微力ではございますが、誠心誠意お仕えしたいと存じます」


 ジュンはうれしそうに、コラードを見つめた。

「いいの? 後悔しない? 本当に? コラードなら僕はすごくうれしい」

 コラードはジュンに優しく目を細めてうなずく。

「後悔などいたしません。よろしくお願いいたします」

 

 ジュンは立ち上がると頭を下げた。

「僕の方こそ、よろしくお願いします」

 ジェンナは小さく笑う。

「やれやれ、ジュン。後はコラードに相談して決めな。私よりそちらの道は詳しいからね」


 そこで、ジーノは魔導具を取り出した。

「コラード。ジュン様を生涯裏切らず、忠誠を誓うとここに誓いなさい」

「はい」

 コラードが小さな剣を出したその腕を、ジュンが止めた。


「待って! それに反したらどうなるんですか?」

 ジーノが答える。

「命で償います」


「そんな誓いは絶対にしないでコラード。僕が嫌になったら辞めてもいい。裏切ってもいい。コラードの命はコラードの物。約束して欲しい。自分の命を誰よりも優先すると。愛想を尽かされないように僕は頑張るから、お願いコラード」


「ありがとうございます。ジュン様」

 コラードはそう言うとジーノを見る。

 ジーノはうなずいて魔導具を片付けた。


 ジュンとコラードが部屋を出るとジェンナが口を開いた。


「やれやれ。どこまでも変わっている子だよ」

「お優しいのでございましょう。あの目であのように言われましたら、裏切る事はできませんね。どんな誓いより神聖な気持ちになりました。しかし、ジェンナ様ご安心下さい。後ほど、誓いはさせますので」

「必要ない。あの二人は互いに裏切る事などないだろうねぇ。主従関係が皆、あのようだといいねぇ」


 ジーノは黙ってうなずいた。


(孫であるコラードが継いだのは、モーリス家の執事の地位ではありません。息子たちも孫たちも執事として、立派に努めておりますが、後継者にふさわしいのはコラードだけでした。カイ様のご子息、ショウ様が作られた『闇蜘蛛』という組織を私は率いておりました。どこかの前王が亡くなり次代からは手を引かせました。今の特務隊隊長はジェンナ様の弟君。私たちはただ傍観をしておりました。そこに突然現れたのがジュン様です。どうやら、闇蜘蛛が本来の姿に戻る日がきたようです。お待ちしておりました、ジュン様。あなた様こそが主にふさわしい。私は今しがたそれを見せて頂きました。蜘蛛たちをよろしくお願いいたします)

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