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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第一章 イザーダの世界
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第五十五話 孤高のモーリス家

 翌日、ジュンは転移で王都コンバルのギルドに着く。

 ギルド転移陣に常駐している係員に、出入国の手続きをしてもらうためである。

 ギルド島からどの国に行くにも、船が使えないので、王都のギルドには係員がいる。

 国をまたいで転移した場合は国境を通らないので、ギルドか門で手続きをしなければならない。

 

 ギルド長のアンドリューが会議中だと聞いて、自宅にあいさつに伺うと伝言を頼んでギルドを出る。

 

 久しぶりの王都コンバルの白い建物に、懐かしさを感じながら、向かったのは、ハサミの看板が下がっている、エルモの散髪屋。

「ジュンじゃないか! 久しぶりだね」

「エルモさん。ご無沙汰しています」


 平日の開店したばかりの時間帯は客もなく、ジュンはすぐに椅子に座る。

「髪をナイフで切ったってぇ!? お馬鹿!」

「あはっ。すみません。ガサツな子で……」


(僕はいつからドナの親になったんだか……)


 エルモは中途半端な髪を整え、その扱い方を教えてくれた。

「たまには整えにいらっしゃいよ」

「はい。助かりました。ありがとうございます」


 エルモの店を出て、ジュンは城に到着した。

 門番に面会の申請場所を聞いて、係員に近衛騎士団の、カルロかホリスかエイデンとの面会を申し込むと、カルロがいるようで取り次いでもらう。

 待合室には兵士の家族だろうか、荷物を持った人たちが数人、木のベンチに座っていた。

 

 足早に近づいて来たカルロは、満面の笑みを浮かべてジュンを見る。

「ジュン殿。あの節はお世話になりました。ご活躍は耳にしております。お元気そうで何よりです」

 

「はい。元気にしています。方々に心配を掛けたみたいですが……。それで今度ギルド島に行く事になりまして、その前にリチャード王子殿下と、お話ができないか聞きにきたんです。護衛の手配とか、僕のせいでお手を煩わすのも気が引けるので、陣を作って来ました。これを置いて魔力を流してくれた場所に僕が行きます。石ころの置ける場所だと助かります」


 カルロは腹を抱えて笑い出し、キョトンとしているジュンに告げる。

「ジュン殿。門番に国籍証を出して、リチャード様に面会を申し込んでも、大丈夫ですよ。すぐに会えなければ、会える時間を教えてくれます。ご友人でしょ?」

「でも、僕はただの平民ですよ?」


 カルロはニッコリと笑って告げる。

「世界中の王家とつながりのある方を、ただの平民とは申しませんよ。ただ、陣はお届けいたしましょう。リチャード様が喜びそうな面会方法です。ただ、きっとすぐに呼ばれるので、このままお連れする方が早いのですがね」


 カルロはそう言って戻って行く。

(なんだよ。城の中を歩くのって緊張するでしょ? 分かってないなぁ)


 ジュンはそのまま城の外に出た。カルロの言う通り、すぐに陣が発動される。


「ジュン! 会いたかった。良く来てくれたね」

「お久しぶりです。リック、お元気でしたか? えぇと……。ここは?」

「私の部屋だよ。部屋の外にはカルロがいるから大丈夫だけど、石ころテントに入りたいな」

 ジュンはうなずくと石ころテントを出す。

 

「懐かしいね。聞きたい事が山のようにあるよ。王会議でジュンの話が出ると、父上が私にだけ話してくださる」

 ジュンはレオの友人でもあるリックに、話して問題がなさそうな所を聞かれるままに話していく。

 

「あの時はね。内密に卒業試験を受けた罰として、ゼクセン国に剣術の修行に出された所だったんだよ。そうでなければ私も一緒に行けたのに、残念でならないよ」

「成人になったら、各国の王様にあいさつをする旅に行けるんでしょ?」

「あぁ。護衛の訓練も兼ねているからね。三番目の私は船を使うんだよ。第一あんな物は旅とは言わないよ。座っているだけなんて、退屈でしかないじゃないか」


 ジュンの出した果実水を飲みながら、パイをほお張り愚痴を言っているリックは、酔っ払いを見ているかのようでジュンは笑う。

 

「ギルド本部で特務隊に入るんだろ? エリートじゃないか」

「え? そんな話は聞いていませんよ? 総長と前総長には、職員の食堂に空きがないか、聞いただけですしね」


「……ジュン。賭けても良い。食堂だけはいくら仕事がしたくても無理だよ」

「そうかぁ。どこかで修行しなければ無理かなぁ。下働きから頼んでみるよ」

 リックは諦めたようにため息をつく。

 

 リックは急に思い出したように顔を上げる。

「そう言えば、さっきの話だよ。この部屋にも来る事ができるのかい? 私の部屋にも訪ねて来てほしいよ。夜会でもなければ夜は退屈なんだ」


「うん。来て良いなら、一度行った場所には行けるから、手紙をくれたら来るよ」

「きっと書くよ」

 リックはうれしそうに笑った。

 

 カルロがそろそろ時間だと部屋に入って来たので、ジュンは別れを告げて城の外に転移する。

 日が傾いた街の様子を楽しみながら、向かった先はモーリス家。


 モナに笑顔で迎え入れられ、以前使った客間で皆の帰りを待つ事にする。

 お茶を持って来てくれたのは、少しはにかんだクレアだった。


「ジュン様。おかえりなさいませ」

「ただいま。クレア。これお土産だよ。気に入ってくれると良いけど」

 テーブルの上に魔道具店で買った、お土産を乗せる。

 

「いつもありがとうございます。開けてもよろしいでしょうか?」

「もちろん。どうぞ。あぁ、ごめん」

 ジュンは慌てて、立ち上がり椅子を引いてクレアを座らせる。

 

 クレアは包みを開けて笑顔でジュンの顔を見る。

「すてき! ありがとうございます。大切にいたします」

「良かった。いつも僕の好みを押し付けているようで、気にしていたんですよ」

「見てください。全部大切に身につけております」

「ありがとう。よく似合っている」


 見てくれと言った本人に赤面されて、ジュンは少し困った顔で笑う。

「ギルドの本部で働く事が決まったんですよ。それで今日はごあいさつに寄らせてもらったんです」

 

「ジュン様。お住まいは本邸になるのでしょうか? お手紙を頂いても、お返事ができなかったんです。本邸に送ってもよろしいでしょうか?」

 クレアは表情を明るくして尋ねる。

 

「クレアが手紙をくれるの? それは楽しみですね」

 ジュンは倉庫の中から、手の平サイズの皮を二枚取り出し、魔法陣を描く。

「この皮に魔力を少し流して?」

 クレアは出された皮に魔力を流して、ジュンの顔を見る。

 

 ジュンは笑顔でうなずいてから、皮の一枚をクレアに渡しながら伝えた。

「クレアの机の上にでも置いてくれる? 片方は僕が持っているからね? 手紙を乗せて魔力を少し流せば、僕の元に届くよ。二人だけの転送陣です」

 クレアはうれしそうに小さくうなずいた。


 その夜。モーリス家の皆と食事を終えて、ジュンはギルド島に行く事を話した。

「そうか! ジュンが自分で見つけた道だ。頑張れよ。俺は応援するぞ」

(母さんは喜んでいるだろうなぁ。本当はすぐに入れたかったようだしな)

 アンドリューはうれしそうにジュンを見つめた。

 

「近衛の連中が世話になったな。ホリスとは学生時代からの付き合いでな、助けてくれて感謝している。馬が大好きな変わり者のあいつが、自分より変わっている人だと言っていたがジュン、何をしたんだ?」

 長男のカミルが、騎士団に所属しているのは知っていたが、ホリスの名前が出てきて、ジュンは驚いた。

 

「え? 何もしていませんよ? 多分?」

(世間は狭いよね。いろいろありすぎて分からない……。あれかなぁ。どれだろう?)


「兄さん。ジュンはたくさんありすぎて、きっと、どれの事だか分からないんですよ。ひと月も一緒に暮らしていたんだから想像がつくでしょう?」

 セインの言葉にカミルが笑う。

「まあな。まぁ無事に旅が終わって良かったな。モーリスの名前も消えずに済む」


 カミルの言葉にジュンが首をかたげた。

「え? モーリスの名前が消えるって、どういう事ですか?」

「母さんは全く……。説明もしていないのか」

 そう言うと、アンドリューは説明を始める。

 

「歴史があるのにモーリス家には親戚が少ないだろう?」

「そういえばミゲル様とジェンナ様とケームリアンのエリック様しか知りません」

 アンドリューは苦笑して続ける。

 

「エリックは俺のいとこだが、モーリスじゃない。モーリスを名乗れるのは全種持ちとその子供だけなんだ。俺には妹が二人しかいないからな。俺は六種しか使えないから、母さんがモーリス家の最後の全種使いだったんだ。セインとカミルは結婚と同時にモーリスから外れる」


「なぜそんな事を言うんですか?」

 ジュンの質問にアンドリューは答える。

 

「ギルドのためだよ。どの国にも、どんな人にも屈しない。身内を人質にされない為なんだ。カイ様の三人の息子、シオン様とタクト様は全種使いだった。だが、ショウ様は六種使いだった。彼は聡明な人でギルドの基盤を作ったが、生涯独身でいたのは、モーリスを一番愛していたからだと言われている」


 ジュンは少々不快な顔をしてアンドリューを見る。

「カイ様が決めた事なんですか?」

「いいや。決めたのはショウ様だよ」


(カイじゃなくて良かった……。それにしても何て事を……)

「結婚したって親子ですよね? ひどくないですか?」

 アンドリューは優しく笑って首を振る。

 

 そこでセインが口を開いた。

「モーリス家は平民なんだよ。昔からずっとね。私も兄さんもモーリスと名乗った事はないんだ。学生時代も就職してからもね。家名が欲しければ、自分の力で名を上げれば良いんだからね。モーリスは家名というより職業って感じかなぁ」


 アンドリュー夫婦以外はミゲル様と会った事もないと聞いて、ジュンは複雑な気持ちになる。

(親戚が少ない訳じゃない。あえて血縁関係を避けているんだ。祖父母や親戚に囲まれて育ったカイは、そんな事は決して望んではいないはずだよ)


 夜も更け、部屋に戻ったジュン。

 明日はギルド島に向かうというのに、なかなか眠気は訪れなかった。


 




 



 

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