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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第一章 イザーダの世界
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第四十六話 その剣の力

 その日、ジュンは鍛冶場の前で、皆と一緒に扉が開くのを待っていた。


 出てきた二人の顔を見て、ジュンは慌てて回復魔法を掛ける。

「ありがとうジュン。入って見て来てよ……」

 感情の制御ができないかのように、涙をこぼすコール。

 

 その肩に手を置いて、ウーリーがほほ笑む。

「ジュン、見てやってくれ。どこに出したって恥ずかしい物じゃないぞ」

「はい。コールを信じていました。拝見します」


 王に見せるまで、触れる事はできないが、その剣は生まれたばかりで、まだ眠っている兄弟のようにそこに横たわっている。

 二本の剣は暗い銀色に、青紫色の光が不規則に入っている。

 持ち主が魔力を通して、完成になる剣だと聞かされたが、ジュンはその剣の美しさにただ見ほれた。

 

「すごい! 素晴らしいよコール! ありがとう」

 ジュンはコールの手を取って感謝を伝える。

 

 入れ替わるように、大量の荷物を持って入った鞘師が、中で上げる雄たけびに、周りの皆が始まったとばかりに笑う。

 ウーリーとコールが眠った後は、皆が仕事に戻って行った。

 

 土間のテーブルでは、主婦たちが剣を収めた後の、宴会の料理の打ち合わせ中。

 ジュンは、いなり寿司と南蛮漬けを出してみる。酢漬けの魚はあるようだが、魚を揚げて、たくさんの野菜と漬ける事はなかったようで、主婦たちが味見を始める。

 

「魚の酢漬けは子供が嫌うけど、これなら食べられるねぇ。忙しい時には、日持ちする物はありがたいよ」

「マメキジ揚げに卵汁や野菜を入れて煮るのは、どこの家もするけどねぇ。米は初めてだよ」

「米を入れて煮たんじゃなさそうだね」

 主婦たちはそれぞれ、ジュンに感想を告げる。

 


 米を主食にしない世界なので、いなり寿司は誰も食べようとはしない。

 コニーはジュンのために勇気をだしたのだろう、手に取って迷わずに口に入れる。

 皆がコニーに注目していたが、コニーはジュンに笑顔で伝える。

「あら? おいしいわ。鍛冶場が忙しい時は、作って置けるし便利ねぇ」


 コニーの一言でいぶかし気に見ていた主婦たちも、口に入れると目を見合わせてうなずく。

 気に入ってもらえたようで作り方を聞かれ、メニューに加わるようだった。南蛮漬けは大量にあるので、ジュンが提供する事に決まった。

 

 コニーの腸詰めは皆においしいと人気があり、今回も担当になると聞いて、ジュンは解体をした時に出るクズ肉が、結構な量になるので、手伝いながら教わりたいと言うと、コニーはうれしそうに引き受けた。

 北にあるこの国はウルフが多く、その肉を使うと言うので、授業料だと言いながら、ジュンは倉庫に大量にある肉を出す。

 

「肉の臭みは、コショウだけで消すと後口が苦いのよね。でもどうしてもハーブは口にあたるでしょ? だからね、乾燥した物を粉にして使うのよ? 我が家は昔から三種類使うの」


 コニーは実に楽しそうにジュンに料理を教える。

 ジュンは母親と兄嫁を思い出したのか小さく笑う。

(コールの所も嫁と姑は問題がなさそうだな……)

 

 その日。鞘が出来上がった。

 一本につき儀礼用と通常用の二本の鞘。

 儀礼用の鞘はダンの物は金でジュンの物は銀。見事な細工が施されているが、中はもちろん、木が使われている。

 コイクチに近い部分には自分の瞳の色、コジリに近い部分には相手の瞳と同色の石が入っている。ダンは黒い石でジュンは赤い石が使われていた。

 

 通常用は二人共ほぼ同じデザイン。

 木に黒竜の皮を巻き付けた物で、コイクチとコジリには儀礼用と同じく金と銀がそれぞれ巻かれていて、それをつなぐように模様が付き中央に赤い色の石が付いている。

 

 儀礼用も通常用も鞘は豪華だったが、落ち着いた品のある物で、ジュンは自分の鞘が銀であった事もあり、うれしそうな笑顔を見せる。

 

 ジュンが驚いたのは、その後に来た近衛騎士団の様子だった。

 鍛えているであろう彼らが四人がかりでようやく、剣が収められている立派な箱を持ち上げて馬車に乗せている。

 

(あれをどうやって一人で打ったんだろう? 今回は二人だったけど。鞘を作るに至るや絶対に無理でしょう?)


 不思議な顔をするジュンの横でコールが笑う。

「鍛冶師や鞘師は代々、羽の布を受け継ぐんだよ。その布は金属の重さを軽くしてくれるんだ。ジュンがアダマンティウムを入れてきた袋もそうだよ? あれがなければ、あの剣と同じであれだけの石は持ち上がらない。剣は魔力を通したら完成になると言ったでしょ? それは重さも含めてだからね」

 

 ジュンは袋を鑑定しようとは思いもしなかったので、狐につままれたような顔をしてうなずく。

(そうだよね。考えてみればあの量の石を片手で持てたのは不思議だよね)


 剣を見送ると、歓声が上がる。

 その後の宴会は前回以上の盛り上がりで、料理が所狭しと並べられている。

 成る程、テーブルが大きい訳だとジュンは感心する。

 ドワーフたちは、他人のコップに酒を注ぐ事はない。飲めない者に酒を勧める事もしない。不思議に思ってジュンはそれをコールに尋ねる。

 

「ボクたちは世界で一番酒が強いし、好きだろう? 昔は他種族の者が、随分と亡くなったらしいよ。後味が悪いので、勧めなくなったと言っているけどね、多分、自分の飲み分が減るのが嫌なんだと、ボクは思っているよ。ドワーフは胃袋の横に酒袋があるからね」


 コールの言葉でジュンは目を丸くする。

「え? 本当?」

「本当な訳ないよ。そう言われている程、酒を飲むって事」

 コールは笑いながら、ジュンのいなり寿司が気に入ったと言って食べた。

 

 それから三日後。

 剣は王子からの手紙を添えて戻って来た。

 皆が見守る中で、ジュンは剣を握り集中して魔力を注ぐように込めていく。

 

 青紫の光が生き物のように、自分の居場所を探して移動するのが見える。

 剣は中央の樋の部分が黒っぽく、外側に向かうにつれて色が薄くなり、青紫色が入り、きれいなグラデーションになっていく。

 

 そして最後に柄から剣先に向かって光が走り、剣先だけが金色に光る。剣から薄青色のオーラが出ると、その剣は落ち着いたように静かになった。

 

 誰も口を開かない。

 

 ジュンはそのままその剣で型を流す。

 剣はどの剣よりも軽くまるで腕の延長のようだったが、振る音は重く鋭い。

 その音はまるで空気を切り裂いているかのように、静まり返ったその場に響いている。

 剣先が止まる度に出番を待つように雷が顔を出す。最後に遠くの石に雷を放つと石は真っ二つに割れた。

 

 ジュンはつぶやく。

「ガーディアンだ。守りし者の剣だ」

(スプリガンは妖精を守りし者。彼がくれた石の力?)

 

「すごいな……。コール、ジュンは何者なんだ?」

 少し(ちゆう)(ちよ)して、コールはウーリーに答える。

 

「ジュンはジュン・モーリス。ヘルネーのギルドマスターが内緒で教えてくれたんだけど、全種使いで次期総長に一番近いと言われているって……。でもね父さん。ボクはジュンにそんな者にはなって欲しくないんだ。少しとぼけていて、人懐っこくて優しい彼とは、行き来のできる友人でいて欲しいって……。我が儘だよな」

 

 コールの言葉に、ウーリーは優しくほほ笑む。

「どんな立場になったって。どこの国に住んでいたって、あの剣はお前が打った剣だ。ジュンがお前を忘れる事はないだろうよ。お前を助けてくれた、気の優しいジュン。それだけで充分だろう? 俺もお前もな」

 コールは父親の顔を見て、恥ずかしそうにうなずいた。

 

 それから二日後。ジュンはスミス家に別れを告げた。

 テンダルのギルドに寄ると、本部の総長宛てに剣の事を書いた、緊急の手紙を送ってもらう。

 その後はスミス家で入力した本をたよりに、いつか槍を作ってみたいと、足りない材料を買いながら、夜になるまでの時間を潰す。

 

 ダンからの手紙には、二日後の夜に来いと書いてあったので、ジュンは物陰に一度身を隠してから転移する。

 

「ようジュン」

 転移したダンの部屋には、王子の姿で満面の笑みを浮かべているレオ。


「なんでぇ? どうして?」

 ジュンの言葉にレオは笑う。

「気付けよなぁ。俺とダンは同じ年だぜ? 王子が行く学校なんて、コンバルしかないんだから当然だろう?」


「そうなの?」

 ジュンはダンに聞く。

 

「本当に私も驚いたよ。剣の話をレオにしたら、そいつはジュンという名前じゃないかって聞くんだからね」

「あぁ、城はどこも落ち着かねぇ。ジュンあれを出してくれよ。外の護衛には言っておくからよ」

 レオが護衛に何かを話して、中庭に面するバルコニーを開ける。

 

 彼は辺りを見回して、バルコニーの片隅を指差して言う。

「ジュン、ここで良いんじゃねぇか?」

 レオの言葉に、ダンが不思議そうに首をかしげる。


「ダンの大切な家に僕を入れてくれたから、今度は僕のテントに案内するよ」

 バルコニーに現れた扉に驚いたダンを連れて、三人はテントの中に移動する。


「これは? ここは? ……。何なんだい?」

 ダンの言葉に一番喜んだのは、なぜかレオ。

 

「ジュンのテントだ。靴は脱ぐんだぞ? 俺もリックに言われたんだがな?」

 かつてリックがしたように、レオも得意気な表情をして告げた。







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