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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第一章 イザーダの世界
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第四十五話 僕の剣

 ウーリーはジュンを見て、少々困った顔をして笑う。

 

「ジュンには一度ならず二度までも、我が家を助けてもらった事になるな。心から感謝をする。今、王から正式に依頼が届いた。ジュン、アダマンティウムを持っているのか?」

「はい。妖精からお礼にもらいました」

 ジュンはアダマンティウムの入った袋を、マジックボックスに見せかけた、ただの革かばんから取り出す。

 

「鉱山の出入りはエルトロアの問題が解決するまで、完全に閉鎖する事になったと伝言を頼まれた。王家の鉱山なので、国民に影響はないから安心して良い」

「良かった。けが人や死者が出るのが心配でした」

 ジュンが穏やかにほほ笑む様子を見て、ウーリーの表情も緩む。

 

「王はジュンの勇気に感謝をして、王子とジュンの(きずな)を現した剣を、作るように言われた。このアダマンティウムは剣にする気なのだろう?」

「コールに、安くお願いしようかと思っていました」

 そう言うとジュンは、いたずらっ子のように笑う。

 

 ウーリーは驚いたように目を見開いた後、ゆっくり息子を見据える。

「コール。ジュンの気持ちを受け取れるか?」

「え?」

「ジュンはお前に、経験の機会をくれると言っているんだ」

 

 ジュンは小さく笑ってコールを見る。

「そんな恩着せがましい事は、思っていないですよ? でもコールが僕のために打ってくれたら、うれしいなぁって思ったんです。実は僕の剣は、もらいものなんです。初めて持つ自分の剣だからこそ、コールに打って欲しいと思いました」

 コールはジュンを黙って見つめる。

 

 ウーリーはそれを見てコールに告げる。

「王子の成人の儀など、そうあるものではない。王子の剣には触れさせる事ができないが、命の恩人であるジュンの剣を打たせてもらえ。これは三度目の恩だぞ。鍛冶師として、しっかりと恩を形にして返せ」


「はい!」

 ウーリーがうなずいたのを見て、コールはジュンを見る。

 ジュンも満面の笑みを浮かべて、大きくうなずいた。

 

 既に渡されていた、王子のための剣のデザインから、ジュンのデザインが起こされたようで、ジュンは希望を聞かれたが、剣に詳しくないジュンは柄の部分に、こだわりなどはない。

 

 柔らかな粘度を握らされ、手の大きさや、長さを測られると、コールの方がはるかにジュンの戦闘に詳しくて驚かされる。

 ジュンが剣でいつも練習をしている型を流して見せると、剣身の形が決められていく。

 鉄でできた、同じ形の剣で試し切りをしてみると、驚く程使いやすい。

 

(見本の剣なんだけど、これでも十分なんだよね。言えないけど……)

 

 昼からは、(さや)()が急いで駆け付けてきて、二本の剣になった経緯を聞くと、目を輝かせて言う。

 

「父から受け継いで、二度目の成人の儀。私の最後の仕事に実にふさわしい。あぁ、心が震えるよ。鞘師なら思いの籠もった剣を包み込む鞘に、命を削りたいものだからな」

 希望を聞く鞘師に、ジュンは任せるとだけ伝えると、彼は上機嫌でうなずく。

 

(そんな話を聞かされたら、何の変哲もない地味仕様が良いとは、絶対に言えないよ。柄頭と鍔に石が入るんだよ? 鞘が地味じゃなきゃ恥ずかしいよぉ)


 明日から三日三晩、ウーリーとコールは特別な鍛冶場に籠もり、水しか口にしないらしい。

 鍛冶場の各責任者に、その間の仕事を割り振ると、宴会が始まるようだ。

 ジュンは倉庫から酒だるを出し、頭を下げる。

 

「僕のせいで仕事を増やしてしまって、すみません。よろしくお願いいたします」


 静かになった土間で、コールが小さく笑う。

「ジュン。このたるは空になっても良いんだね?」

「もちろんだよ。皆さんはお酒が好きだって知っています。だからこそ飲んでもらいたいんですから」


 ウーリーは、うれしそうに笑って皆に告げる。

「皆! 聞いた通りだ! 上等な酒は乾杯の酒だ。最初に飲もう」


 それぞれが酒を満たしたコップを手にする。

「明日からの仕事の糧として、提供してくれたジュンに感謝を!」

 皆の感謝の言葉に、ジュンも笑顔で返して、土間はにぎやかになる。

 

 ジュンはコニーの元に集まった、各家の主婦たちの手伝いをしながら、料理を運んだり食べたりしながら宴会を楽しむ。

「ジュンはお客様なんだから、本当は座っていてもいいのよ。でもありがとう、すごく助かったわ」

 コニーの言葉にうれしそうにジュンがうなずく。


「僕は宴会が初めてなんですよ。すごく楽しいですね」

 その言葉を聞いていた一番年配の主婦が言う。


「ドワーフは、うれしくても悲しくても、酒を飲むと思ったかい?」

「えぇ。違うんですか?」

「あぁ違うともよ。正解は何もなくても飲む! だよ」

 

 他の主婦もからかうように笑いながら、女性たちの宴会も始まる。ジュンは女性たちに熱々の茶わん蒸しを提供して、会話を楽しむ。

 ドワーフは男も女も子供も酒を飲む。

 その小さな体のどこに酒は入るのだろうと思うほどに。

 そしてジュンが驚いたのは酒の場を提供されたら、奇麗にして帰る事だった。


 夜更けに、ジュンは借りてきた鍛冶の本を読んでいた。

「ジュン。少しいい?」

 やってきたのはコール。


「寝なくていいの?」

「今回は三日だけだからね? 本当は一振りに五日は掛かるんだよ」

「鉱石だったらもっと掛かるの?」


「十日は掛かるよ。家に来る前にも工程があるからね。その後は鞘師が仕事に入って、完成したら王の元へ届けられる。ジュンの剣はその後に戻ってくるんだ」

「すぐ剣にできるとは思っていなかったから、おとなしく待っていますよ」

 いつもと変わらないジュンを見て、コールの顔が少し穏やかになる。


 ジュンは鉱山で出会った爺さんに、少し感謝をして笑う。

 コールは穏やかな性格の持ち主だったが、それでもさまざまな感情に押されて眠れないようなので、ジュンは闇の魔法を少し掛けてコールを眠らせると、部屋に運んで酒を抜く。

 

「おやすみコール。明日から頑張ってね」


 次の日の朝。

 ウーリーとコールは鍛冶場の特別室に入った。

 ジュンはコニーに、彼らが出て来る頃には、戻ると伝えて家を出る。

 

 モロミ汁やマメキジの作り方をコニーに教わり、ジュンには気が付いた事があるようだ。

(豆腐もマメキジも豆乳から作るけど、婆ちゃんと作った豆乳とは濃さが違う気がするんだよね)

 

 ジュンは大豆を大量に買い、布や苦りも手に入れたが、今日一番の目的は他にある。コニーからゆでた大豆を砕く魔道具を見せてもらい、ドワーフ族の家では珍しい物ではないと聞かされたのである。

 コニーに教えられた店には、その魔道具がたくさんあったので、さっそくジュンは購入する事にしたようだ。

 

(これフードプロセッサーなんだよ。欲しかったんだ。解体後の肉の切れ端って大量に出るからね。すごく丈夫そうな刃だから細めの骨なら平気かも。難点は中が見えない事だけかなぁ)


 ちなみにこの魔道具は、露店の果実水を作るのに使われているミキサーでもあり、果実により織り目の違う布で絞って果実水は売られている。

 果実水が好きなジュンの手間は、これで大きく軽減される事になるだろう。


 門に向かう途中で数枚の金網を手に入れる。欲しかった大きなフライパンなどは、業務用の店がある、この国で買うのが一番だと思い、それも購入を決める。

 

 王都の門を潜るとジュンは大きく深呼吸をする。

 金属を扱う街なので仕方がないのだが、どうしても空気の臭いが気になる。

 半日程移動して、木々の茂った川のある場所を見つけると、早速罠を仕掛けて、石ころテントを展開する。

 

 大量の大豆を水に入れ、時間の魔法を使いながら豆乳を作り、豆乳を飲用に取り分けるとマメキジを作った。

 それから油を二種類温めて、大量の油揚げを作る。

 

 米を主食にしない所で、受け入れられるとは思えないが、いなり寿司を作る。

 貯蔵に大量の酢を消費する世界では、酢の種類も豊富で、特に果物の酢が多く、米酢は見つけられなかったが、玄米や麦の酢はある。

 森須家のいなり寿司は五目だったので、ジュンは酢飯にきのこを煮て混ぜ込んだり、肉そぼろといり卵を入れたりしながら作って置く。

 

 豆腐のみそ汁といなり寿司を食べながらジュンは小さく笑う。

「婆ちゃんの味だなぁ。あれ? 浅漬けって一番簡単にできる定番なのに、忘れていたよ」


 ちなみにジュンは、いなり寿司より巻き寿司の方が好みで、豆腐や油揚げが大好物だったりした事はない。

 

 翌日は川の仕掛けが大漁だった。

 海が近いため、産卵で登って来たサケに近い魚の腹には魚卵がある。

 ジュンは早速、湯でバラコを作るとモロミ汁に漬ける。卵を持った魚の身は味が落ちるので、すり身にして保存する。

 

 小魚は甘露煮より南蛮漬けがジュンは好きで、こだわりがないようでいて、なかなかうるさい。

「小魚を揚げながら、さつま揚げもどきを作ってみたけど熱々はおいしい。あぁ、もっと料理の勉強をしておくべきだったよ。婆ちゃんの料理しか知らないとか、ひどいよね。死んだら何があるか分からないから、料理の勉強はしておくべきだよ」


 誰への忠告か分からないが、その後も魚を取りながら、のんびり休養を取ってジュンはつぶやく。

 

「僕のために剣を作ってくれているのに、のん気でごめんねコール。でもあそこに居てもコニーさんの手を煩わすだけだから……」


 







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