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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第一章 イザーダの世界
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第三十五話 距離と事情

 ミーナはレオとジュンの居場所を、いつも確かめてから行動している。

 それでもハンナと四人で行動する事が多くなると、ようやくハンナに気を許すようになり、つたない言葉でも話し掛けるようになってきていた。

 

 ヘルネー城のドナもそれは一緒だったのだが、ハンナにはより気持ちを伝えようとするそぶりが見受けられるのは、同種族の安心感があるのかもしれない。

 もちろん、ミーナのペースを崩す事なく、さり気なく誘導する、賢明なハンナの、努力の成果である事には違いないのだが、まずは第一目標は達成したのである。

 

 ジュンとレオとハンナは話し合って、目標と計画を立てたようだ。

 まずは、ミーナがハンナに、なつく事。

 それが出来たら、次はミーナが自室で眠る事。

 

 これはオードリーのノートに、ミーナが三歳の誕生日から、一人で寝るようになったと記されていたからである。

 それができたら少しずつ、ジュンとレオはミーナとの接触時間を減らし、距離を取りながら帰る計画になっているようである。


 二つ目の一番困難だと思われた目標は、あっけなくクリアした。

 ミーナが自室で寝る事を決めたのだ。ハンナのベッドでの読み聞かせが上手な事もあって、本が好きなミーナは、ジュンとレオにあいさつを済ませると、ハンナと隣の部屋に向かったのである。

 

「ミーナ、夜中に戻って来るかな?」

「来たら受け入れて、安心をさせればいいですよ。取りあえず、行ったり来たりしながらでも、あちら側に行かせる事が目標ですしね。レオ、寂しいの?」

 ジュンのからかいの言葉に、レオは真顔で答える。

 

「あん? まぁ否定はしない。あれのかわいさは特別だろう? でもよぉ、なんか違う気がするんだ。ハンナになつくのはいいけどよ、ミーナに親兄弟はいないだろう? 長との距離が遠すぎるだろう? 飯の時だって、ミーナは首を振るだけで、声はださねぇしよう」


 無意識なのだろうが、ミーナは心を開いた相手にしか、言葉を口にしない事に、ジュンとレオは気が付いていたのだ。

 

「長の仕事にめどがたったら、ミーナとの時間も取れるんじゃないでしょうか。そこは僕たちが立ち入ると、深みにはまりそうな気がしますよ。まぁそれ以前に、他種族の未成年者に話してくれるとも思えませんが」

 レオはしばらくだまり込んで、ジュンを見る。

 

「話してくれないなら、何が起きているのか調べればいいだろう? 手伝えない物なのか、手伝える物なのかを調べたら、長がどうしてあんなに忙しいのか、ミーナといつになったら、関わる事ができるのかが分かるだろう? 俺たちだって安心できるんじゃないか?」

 ジュンは返事をせずに考えるように目を閉じた。


(全くレオは……。待ち望んだ孫が来ても、そばにいられない程、忙しいんだよ? 面倒事に決まっているでしょうが。単純思考回路にも困ったものですよね)


「どうやって調べるんです? レオに知り合いでもいるのですか?」

「いねぇ。俺、剣一筋だったから、エルフ族の学友はいなかったんだよ」


(まさかの脳筋自慢? ここは絶対に話に乗るべきではないと、僕の中の誰かが叫んでいますけどね)


「あそう。じゃあ無理ですね」

「いや、友はなくとも、口がある! 教えてくれる人に出会うまで聞き回る!」

 ジュンはレオの言葉に、あきれた顔をしてから肩の力を抜く。

 

(たたき上げの刑事なの? ミーナの引き継ぎが終わる前に、たたき出されても知らないからね)


 それから幾日もしない内に、ジュンはルチアーノの執務室にいた。

「レオナルド王子から聞かせていただきました。実は、私たちエルフの四長会議で、今回の件をギルドの特務隊に調査依頼として、出そうと言う提案があったのです。ただ、エルフ族の問題を自分たちで解決できずに、他種族に依頼するのは恥であると主張する方がいらして、そのまま解決のめどもつかずにおります。私は長の中でも最年少で、強く主張もできないので困っていたのです」

 

 ルチアーノが話し終えると、レオが得意気に続ける。

「それで、俺が提案したんだ。ギルドから配信された、例の調査はジュンがしただろう? ジュンに頼んで取りあえず何が原因かを突き止めれば、解決は長たちがやれる物かどうかの判断が付くってな」


(何それ? ってか口があって、聞き回るんじゃなかったの? 直球過ぎない? もぅそれはいいけどね)


 見つめる長の視線を受けて、ジュンは静かに尋ねる。

「僕でよろしければ、原因を突き止めるお手伝いをいたしますが、現在の状況を教えていただく事は可能でしょうか?」


 エルフの森が、周りの未知領域から影響を受けないのは、不可侵の結界があるからだけではないようで、この森の結界内では、魔素が調整されているらしい。

 森の樹木や大地の魔素を妖精湖が吸い取りその水を世界樹が吸収して魔素を一定の濃度で出しているようで、それが凶暴な魔物の侵入を防いでいるのだと言う。

 

 世界樹の木の葉が薬草として貴重なのは、その過程で葉に蓄積される魔素による物らしい。妖精湖の水と世界樹の葉で作られた薬が貴重なのは、この環境でしか手に入れる事ができないからだと説明を受ける。

 

 その世界樹の木が元気を失い、枯れかかっているらしい。それと同時に透き通った美しい妖精湖が濁り出したようだ。森の魔物たちも凶暴性を増し、狩人たちにもけが人が多く出るようになったと言う。

 

「私たち、長の家系の特徴は、魔法が多い者でも、水と土と風の三種しか使えないのですが、魔力が六種使いの方以上にある事なのです。それで世界樹に交代で魔力を流して、何とか進行を抑えているのが今の状況です」


 ルチアーノの言葉に驚いたジュンが尋ねる。

「原因が分からずに魔力を流し続けていては、永遠に終わらない可能性がありますよね。原因に心当たりはないのでしょうか?」

「誰もがないようなのです」


 あまりにも受動的な長たちの行動に、ジュンは首をかしげる。

「ちなみに、秘密は厳守しますので、教えていただきたいのです。ギルドの調査に反対されている長はどなたですか?」


 ルチアーノはとっさに口ごもる。

「そ、それは……」

「約束は守ります。調査をする上でその方に知られて、後で問題になっても困りますから、できれば避けて調査をしようと思います」

 それだけは聞いておかなければ、動けないとジュンはルチアーノを見る。

 

「エルノー様が依頼の提案者でした。私は賛成いたしました。オクレール様が反対されたものですから、アルロー様は保留になさいました。アルロー様の領地から、糸を出す魔物が急に減少して、オクレール様の領地の森をお借りしているせいだと思うのですが……」


「立ち入った事をお聞きしたにもかかわらず、お答えくださった事に感謝します。ご期待に応えられるかどうかは分かりませんが、取りあえず湖まで行って調査してみようと思います」


「湖の周りには警備員がおります。各領の敷地内を見回っておりますので、こちらをお持ち下さい。私が立ち入りを許可した証明です」

 ジュンはそれを有り難く借りて、自室に戻った。

 

「な? 聞き出せただろう?」

「な? じゃないでしょう? まぁ問題は分かりましたけどね」


 レオの性格を考えれば、こうなる事は想像できたはず。

 ジュンはうかつだった自分に、小さく息を吐き出す。

 

「今度は、俺も行くからな! 一人で抜けがけするなよ?」

「ミーナはどうする気なんですか?」

 やる気満々のレオに、少し引いてジュンが聞く。

 

「ハンナに任せるに決まっているだろ。ヘルネーの時だって、ジュンが仕事だって言ったら待っていたろう? 今は前と違ってハンナがいるから大丈夫だって」

「もし、ミーナが不安がって泣いたら、交代で留守番ですよ?」

 ここは認識を合わせる必要があるとジュンはレオを見る。

 

「あぁ。そうなったらしょうがないな。でもな、これでミーナが納得したら、俺たちの役割は終わりだと思うぜ?」

「確かにそうですね。少しずつ距離を置くのが次の目標でしたからね」


(さて、妖精湖と世界樹を拝みに行きますかね。水質汚染の原因は人か魔物かどちらかなんだろうけど、できれば魔物でお願いしたいよね)









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