第3話 エンカウント
意気揚々と歩き出したものの、30分ぐらい歩いて僕は休まざるを得なくなった。
運動部でもなんでもない僕が森の中を30分も歩けただけで奇跡だと思う。
コンクリートの道みたいに整備されていて歩きやすい道ではないのだ。
コンバースのスニーカーは森の中を歩くために作られてない気がする。
まずは村とか湖とか川とか探さないと脱水症状で死ぬぞコレは。
森の中なんだから野生の獣とかいるかもしれない。
最悪の場合、獣の血を飲んだりすれば大丈夫そうではある。
僕の読んだ漫画の中に、熊を殺して血を摂取する描写があった。
でも・・・。
「肉を焼いて食べるならともかく、生肉や血はやだなぁ・・・。」
そう、僕は日本人なのだ。
紛争地域に生きるゲリラでも、国の隊士でもない。
普通の高校生だったのだ。
いきなり「喉乾いたから熊の血すすっちゃうぞー!」なんて思えない。
・・・最悪の場合が来ないことを祈ろう・・・。
木にもたれ掛かりながら体力を回復させる。
野宿は嫌だからせめて人里へ行かないと・・・。
人里さえ行けばきっとなんとかなる。
そう、そのための「治癒能力」なのだ。
勿論、奴隷に治療が必要な場合を想定したからこその治癒能力である。
しかし、用途はそれだけではないのだ。
人里で病に苦しんでいる人々が居たら治療する。
もしかしたらそれで1日くらいお世話になれるかもしれない。
本当は二つ目の能力は時間を操作する能力ではなく、なんでも生成できる能力にしようと思っていた。
でも神様のいい加減さを見て方向転換したのである。
有益な能力よりも、戦闘における最強の能力にしたのだ。
今はそのツケを払っている状態だが、誤魔化しやすく強力な力を得るためには仕方ないツケだと思う。
人里にさえ辿り着ければなんとなかなる。
辿り着ければ・・・。
もし辿り着けなかったら詰むのだが・・・
考えないようにしよう。
「せめてどっかの町とか神殿とかに飛ばしてくれよ・・・なんでスタート地点が森の中なんだよ・・・。」
答えはきっと「そんなん深く考えず適当に飛ばした」に違いないのだが。
どおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!
「!?」
悪態をついていたら大きな音が響き渡る。
音からして結構近そうだ。
爆音っぽい音だったしトラブルの匂いしかしないが、背に腹は代えられない。
フラグは回収するものなのだ。
僕は音のした方へ向かい走り出した。
「にーちゃん、そろそろ観念しな。」
ガラの悪そうなチンピラ5人と、青年1人が対峙している。
青年の顔は見るからに青い。
「ど、どうか命だけは!死ぬわけにはいかないのです!」
「知らねーよ。若い女ならともかく、男には使い道ないからな。
奴隷にするにもずっと大人しくしてる保証なんざねーし。」
ぎゃははは!!、と男たちは笑う。
青年は神に祈った。
そうか、どうかお助けください。
私がここで死ぬと残された家族はどう生きれば・・・!
妻は・・・!娘は・・・!
「すみまっせーん、ちょっといいですかね?」
その時、場に見合わない軽い声が響いた。
「ああ!?なんだてめえは!」
「いやー名乗る程のモンじゃないんすけど。これって今どういう状況なのかなーって。」
ヘラヘラと笑う少年をチンピラ達が睨む。
「簡単だよ。俺らに身ぐるみ剥されて殺されるんだ。こいつも、お前もな。」
青年の絶望は晴れなかった。
どう見ても強そうに見えない少年。
神は自分を見捨てたのだと思った。
しかし、少年の返答は意外な内容だった。
「へえ。じゃあアンタらは盗賊、野盗って感じの人らで、悪くておっかない人達ってことですかね?」
「物分かりが良いじゃねーか。自分の運の悪さを恨むんだな。」
青年は不思議に思った。
一見強そうに見えない少年の態度に。
少年は怯えた様子どころか、自信にみなぎっているように見えるのである。
「おっけー。じゃあ俺の答えは1つだ。」
少年はそう言いながら腰に下げている剣のようなものに手を当て、中腰姿勢になり叫んだ。
「全員纏めてかかって来な!!!」
野盗達は各々武器を手に取り、魔法を詠唱し、少年に襲い掛かった。
次の瞬間、少年が無残に殺されるのをイメージしていた青年は驚愕した。
少年は野盗達の横を「通り抜けた。」
ただ、通り抜けた。
それだけのように見えた。
しかし、次の瞬間、5人の野盗は全員崩れ落ちた。
いつのまに抜いたのだろうか、少年は剣を鞘に仕舞いながらこちらに笑顔を向けた。
「すみませーん、野盗って突き出すとお金とか貰えたりするんすかー?」