第11話 何の為
「では、いきまーす!」
庭で木剣を構えるナオキ。
何故かお父様とメイドのマノンもその様子を見守っている。
「いつでも来い!」
私も木剣を構えた。
ナオキの打ち込みを軽くいなしながら剣筋を観察する。
数手合わせただけで素人であることが解る。
少し前の私なら、優しく指南したかもしれない。
だが今の私はそんな気にはさらさらなれなかった。
ナオキの剣撃を払い、胴を一閃する。
「いってえええええええええええええ!!!」
ある程度は手加減をしているものの、木剣とは言え相当痛いはずである。
無礼者には良い薬だろう。
「まだやりますか?」
「いつつ・・・。勿論!」
そんな掛け合いが数回繰り返される。
いつまでやる気なのやら・・・。
そう思っていたが違和感を覚え始める。
おかしい。
何度か木剣を受けているのだ。
普通なら動きが鈍くなっていくというものだ。
それなのに、次第にナオキの剣撃は鋭さを増していた。
まるでダメージなど無いかのように。
次第に焦りが生まれていく。
次の瞬間、私の剣はナオキのみぞおちを捉えていた。
「ごふっ!!!」
崩れ落ち悶絶するナオキを見て我に返る。
「す、すまん!つい本気に・・・。今日はここまでにしよう。」
「い、いや・・・まだお願いします。」
よろりと立ち上がり構えるナオキ。
気付いたら私はずっと本気で剣を振るっていた。
何度も急所に当ててしまい、その度にナオキは悶絶する。
しかし、何度剣を受けてもこの男は再び構える。
何度も何度も何度も何度も。
理解ができなかった。
何度剣を合わせても私はこの男に負けない。
一体何故・・・。
「・・・何故だ!」
「はい?」
「何故ナオキは何度も剣を構えるのだ!?
私にはどうやったって勝てないのが解らないのか!?」
「いや、勝てないでしょうよ。そんなん誰が見てもわかるじゃないですか。」
「だったら何故また構えるのだ!!」
気付いたら私は叫んでしまっていた。
ナオキは一瞬きょとんとして。
クスクスと笑い出した。
「何がおかしいのだ!!」
「いや、別に勝つのが目的じゃないですし。」
当たり前のように言い放つ。
なら一体何を目的としているのか。
「なら何故!剣を振るうのか!」
「そんなん決まってるじゃないですか。
誰かを守るために強くなりたい。
だから剣を振るうのです。
だから稽古するのでしょう?」
「あ・・・。」
私は茫然とした。
私は稽古をしていたのだ。
それなのに熱くなって、無礼者を軽く叩きのめしてやろうと考え、稽古に臨んでいた。
気付いたら本気で剣を振るっていた。
剣士としての力量なら負ける要素なんてない。
しかし、剣士としての気構えなら。
私はこの男に、完全に負けているのかもしれない。
そう思った瞬間、自分を物凄く恥じた。
剣の腕を上げたい、そう思っていたはずなのに別の目的を持ってしまっていた自分を。
「・・・今日はもう終わりだ!」
いたたまれなくなり、私は自室へ向かった。
敗北感に包まれながら。
「大丈夫ですかな?未熟な娘で申し訳ない。」
「いえいえ、中々ご立派な娘さんじゃないですか。」
申し訳なさそうな伯爵を前に、ナオキはにっこりと微笑んだ。
「しかし、なんで貴方の様な方が稽古を?見たところ本気じゃなかったようですが・・・。」
「自力だとあんなもんですよ。体力とか基礎とかが全く無いので稽古で身に着けないと。」
「ご謙遜を・・・。盗賊狩りの勇者様が本気になればうちの娘なんて相手にもなりますまい。
しかし、うちの娘も色々得るものがあったようですな。」
伯爵は自分の娘を不安に思っていた。
ルナは負けん気の強さからか剣の腕を上げた半面、プライドも高くなっていた。
高すぎるプライドは目を曇らせるし、マイナスにしかならない。
噂の猛者が娘のプライドを折ってくれたらと思い見守っていたのだが、
この男は剣の実力ではない部分で娘のプライドを折ったのだ。
「・・・俺がエムだったらこれ以上無いご褒美だったんだけどノーマルだからなあ・・・。」
美女に叩きのめされたナオキは空を見上げ、伯爵には聞こえない声で呟いた。




