3話 夢? それとも……
「おい、お前替わるなら早く来いよ。それとも、足が震えてこれないか?」覆面を被った男が、少し笑って問いかけてくる……
今、悟は銀行強盗に巻き込まれている。犯人は一人で今現在警察に囲まれているため、銀行にいた人達を人質にとり立てこもっている。
犯人は、警察と逃げるための交渉をするため一人の少女を人質の代表としてそばにおいていた……
少女は、母親と思われる人物と一緒に来ており、母親の方は、声には出さず泣き崩れている。
悟は母親に頼まれお使いとしてお金を引き出しにきただけだったのに、災難に巻き込まれた感じだ。
「そ、そんなわけな、ないだろ……」強がりなのは足が震えていたので誰見てもわかる。
だが、親の教えが〈かわいい女の子には優しく振る舞え、そうではない娘には、相応に優しく〉だったからか、優しくという意味を間違って解釈した悟は、少女に優しくする(を守る)ため少女と人質を替わると言った。
そこで最初に戻る……
少年が犯人に近づき側に着くと、犯人は少女を離して母親のもとへと返した。
泣き崩れていた母親と少女は抱き合って泣いていた。
状況打開するため、少年は側にいながらに考えるが、なにも思い付かない。現段階の情報が不足しており、今、外がどうなっているかわからないのでは判断しようがない。
唯一わかっているのが、回りを警察が囲んでいることだけだ。
この状況になってから1時間経つが、警察が動く気配はない。人質をとられ、マスコミなどから中継されて主だった行動ができないのだろうか……。
どちらにしろ現段階では、できることが少ないと考えた少年は犯人に和平案を出すことにした。最も可能性があったし、犠牲が回りに少ないと思ったからだ。
「ねぇ、どうしてこんなことをしてるの?」少年が犯人に問いかける。
「こんなこと? あぁ、強盗のことか。金が目的に決まってんだろ」犯人が的の外れた回答をする。少年が聞きたかったのは目的ではなく何を理由にそうしたのか? だったからだ。
「じゃあ、その目的の理由は何? 見たところ好きでやってそうにないし、強盗の人が、人質の言うことを聞くなんておかしいと思うけど」とさっきまでおどけていた少年が、冷静に犯人を見据えて問いかける。
「当たり前だろ。誰もこんなこと好きでやってねぇーよ。人質としてとってはいるが、殺す気はないから、少しは交渉に応じてやってるだけだ。理由はな……坊主はまだ早いからおしえられねー。大人の事情だからな……」犯人である二十代後半と見られる男性は自嘲ぎみに答える。
「やっぱりですか。道理で人質に優しすぎると思った。理由は、サラ金、もしくは友人、家族に騙されて借金を担がされたとかですね?」少年が言った言葉に犯人が激しく反応する。
「まぁ、サラ金であってるよ……。坊主すごいな、まぁ、俺の嫁といざこざがあってなサラ金に金を借りたらこの様さ、笑えるだろ。いっそのこと死んだ方がましだと考えたが、死ねなかった。私には娘がいたからな。娘のことを考えるとしねなかったんだよ。」
「だから、娘さんのために銀行強盗をしたと?」少年が問いかけるが犯人は答えない。
「あなたはそうかもしれませんが娘さんはどうなんですか! 父親は世界に一人しかいない。その父親が私のために犯罪者となって投獄されてる何てことになったら娘さんはこれからどうするんですか? 娘さんと貴方はただ一緒にいればいいじゃないですか……、なんでこんなクソガキに諭されるまで気付かない? 娘の為に今できることはなに? はっきりいってみろその口で!」少年は犯人を睨み付け、驚きを隠せないでいる犯人に告げた。
端からみたら、少年に叱られている大人〈犯人〉にしか見えなかったようで、回りの人質達も黙って聞いていた。
もちろん助けた親子もこっちを見ている。
少したってから犯人が口を開いた。
「自首するよ。坊主ありがとな。まさか、銀行強盗にきてこんな少年に諭されるまで気付かないとは自分が情けなくなってくるよ。」犯人がまた自嘲気味に言うと続けて「ここにいる人質の皆さん、さっきも言いましたが、私は自首します。なので、ここで待ってもらえませんか。少年は、一緒に来てもらってもいい?」と言った。
少年は無言で首を縦に振ると出口へ向かう犯人に付いていった。
「坊主、名前は何て言うんだ。」犯人が、笑って問いかけてくる。
「神崎 悟だよ。どうして名前を聞くのかは知らないけど一応言っておくからさ、貴方も聞かせてよ」悟はさっきまでとは違い、落ち着いている。
「私は、椎名 正人だ。名前を聞いた理由はまぁ、できた男の子だと思ったから、娘をまかせられる将来の相手にと思ってね。」犯人は真剣な眼差しをこちらへ向けてくる。
「まだ、大人の事情はわからないです。」少年がめんどくさそうに返す。
「娘は、将来美人になると思う。こっちからいかなくても、悟君の方から来るさ。」正人は、遠くを見つめ楽しそうに話している。
「おっと、そろそろ出口だな、改めてだが、ありがとな、もし少年がいなかったら大事なものまで失うところだった。本当にありがとう」
「僕は、自分を守るためにしただけですよ」内心少年は、和平案のつもりだったのに、こんなことになるとは思ってなかったので、とりあえず助かったので安心していた。
「まぁ、そうしておくよ。また、挨拶にいくかもしれない。それが何年先になるかわからないが、そのときは頼む。そして、改めてお礼を言いたい。」悟は正人言ったことを誠実に受け止め、首を縦に振った。それを見た犯人は笑顔で振り返り出口へ向かう。
悟は、犯人とは反対に向かい助かったと報告をするため他の人質達のもとへと向かった。
そして、その向かう途中で聞こえたのは、一発の銃声だった……
少年が急いで正人のところへいくと、大量の血を流して倒れている正人がいた。
「あ、あ、あ"ぁ"ぁぁー」悟は叫びながら正人に駆け寄る。
回りは銃を構えている警察だらけだ。空には、ヘリコプターが飛んでおり、中継されている様子だ。
そこに、少女が、近づいてきた。警察に止められる様子もないままこちらに向かってくる。
「お父さん? 起きて、こんなところで寝ていたら風邪引いちゃうよ? ねぇ、お父さん」少女は正人に起きるように言うが、起きる様子がないと変に思ったのか、こちらへ顔を向け「お父さんを起こすのを手伝って」といってきた。
少年はもう正人は息をしていないことに気づいていたが、娘と思われる少女の前で無粋なことができなかった。
五分ほどして後ろの方から、足音が聞こえる。しびれを切らした人質がこちらにきたらしい。
警察が、こちらの方へ急いで近寄ると、人質達を保護していった。
しかし、保護される直前に見てしまった。一人の警官が正人の死体を見て笑い、そのあと上官と思われる人と一緒に、楽しげに笑って「あいつも地獄で楽しんでいるでしょう。」
「これが報酬だ。この事は他言無用だぞ。情報統制はこちらがしておく」言っていたのを……
回りは騒音がうるさかったが、声が聞こえた瞬間だけ、少年は、その声だけが聞こえた。
(お、お前らが、お前らが正人を殺したのかぁーーーー)心に声にならない怒りの声が木霊する。
そのまま少年は、なにもできずただ保護され事情聴取を受けた後に自宅へ帰るのだった。
「は! ……くそ、久しぶりだなこの夢、いつ見ても胸くそ悪い夢だ。」悟は、回りの風景を見ると夢であったことに気づき怒りを露にする。
「異世界に来てから、もう7日か、明日ダンジョンにいくのか、行けるのか? ……
まぁ、悩んでても仕方ないか。」悟は、そう寝ぼけて言うと、再び眠りについた。