戦記7「ドラゴニア内乱」
ついに戦闘開始。
ドラゴニア編終了まで、あと少し。
書き溜めが尽きるのも、あと少し。
戦記7「ドラゴニア内乱」
ユウ竜が脱出の準備にかかる頃、
ただでさえ深けていた夜はさらに濃さを増し、ドラゴニアの内戦の全貌を覆い隠すように広がっていた。
ドラゴニア反逆部隊の第一陣は、城の手前…城下町と城との間に盛り上がる丘の上に飛空艇で着陸、布陣し、突撃をしかけてきた。
率いるは、ドン竜。
巨人族の血を引く巨漢が操る武器は、巨大な棒。金属でこしらえただけの棒ではあるが、大人二人分の身の丈を持つドン竜が振う棒は、ドラゴンの尾撃の如しと謳われる。
一打、二打…
少数の兵で守らねばならぬ城門守備隊は外に出てこれを撃退することもできず、弓を射かけるも反逆部隊の守備兵たちに阻まれやはり止められない。
三打、四打…
固い城門は攻撃を受けるたびに軋み、間もなく突入を許そうとしていた。
反逆部隊の第二陣は、空門への襲来。
率いるは、エルフ族のホウ竜。
どんな戦場でも冷静沈着な男は、今日もまた淡々と相手方の隙を作り、着実に発着場へと船をつけ、兵士を次々と下し、ついには自身も下船した。
そしてすぐさま陣形を整え、後陣を招き入れる準備を整えていく。
同時に目指すは、大扉…空門の開門と、突撃である。
第三陣は、城の周辺を戦闘機タイプの飛空艇で散会。母船との間を往復しながら補給を行いつつ、爆撃と銃撃を行う。
率いるは、ドク竜。
劇物、毒物のエキスパートである女竜の部下達は、味方を巻き込まない戦闘を行うため単独行動を好む。同時に、命令への忠実さと、遂行能力の高さを合わせて持っている。
その特性を生かし、或いは防衛側の飛空艇を打ち沈め、また或いは空門や城門の戦いに乱入しては引いていく、独立した遊撃隊として機能している。
第四陣は、城下町を取り囲むように布陣。
率いるは、妖怪族…中でも強力無双を誇る鬼族であるヨウ竜。
作戦には参加しながらも、乗り気というわけではない彼女は、他国への逃亡を企てる者の捕縛や、混乱に乗じて悪行に走る兵や市民を取り締まるための役目に収まった。
ゴウ竜の戦いに積極的には賛成できず、かといって表だって反対を表明することもできなかった兵たちの多くもここに編成された。
そして最後の第五陣。
率いるは、反逆の首謀者であるゴウ竜。
キョウ王下七竜で最強とも言われる男のいる本陣は、空門と城門が見える位置に陣取り、今か今かと突撃の瞬間を狙っていた。
手には、神が封じたといわれる洞窟から、当人が持ち帰ってきた秘宝にして国宝『剛剣無明』が黒く怪しげなぬめりを見せる。
それら五竜を相手に防衛を繰り広げるのは、剣姫。
城門には腹心の部下を置き、本人は空門で指揮を執り、手持ちの兵力でできる最大限の采配で時間を稼いでいた。
内訳は、以下の通り。
兵のおよそ半分が空門、
四分の一が城門、
残りが空戦や伝令など。
数でいっても質でいっても負けると分かっている戦い。
そんな戦いに望む兵士は、みな剣姫と同じく死を覚悟して戦列に加わっている。
王を慕ってか、
姫を慕ってか、
或いは両方か、
または他の理由か…
一人一人の真意を除くことはできないが、いずにれしろそこに上下はない。
『不退転』
その言葉を胸に臨む。
ただ、それだけだ。
(―それでいい。一時でも長く、王が王としていられるなら)
その気迫は凄まじく、戦略的にも戦術的にも押し込まれている戦況を膠着に持ち込んでいた。
が、いつまでも続くわけがない。
空門を守るため発着場に展開している隊列の一部に亀裂が入り、敵兵がなだれ込む。
目指すは、空門…大扉を開く開閉スイッチのある管理所。
「させるか!」
最前線の指揮を副官に預け、管理所を守る最終防衛ラインへと自ら加わる剣姫。
王から与えられた名が象徴する鋭い剣技は、国宝の長剣と相まって、瞬時に敵兵を切り殺すに至る。が、そもそもの数に違いがある。切ってもなお亀裂からは敵が押し寄せる。埋めねばならぬ。が、その手勢がない。
(―せめてあと一個竜隊…いや、一竜いてくれれば)
その一竜の顔を思い浮かべようとした自分を律して、剣を振る。
その一竜が、自分の隊にいた頃から知っている。
その一竜は、やがて自らが王となるために巣立つ子竜であり、ここに残る竜ではないことを。
(―それでいい)
初めはそんなこと夢にも思わなかった。
だが、今は違う。
キョウ王から、いつか王となる男になるといわれても信じられなかった。
王の右腕を奪った男だと恨んだこともあった。
だが、今は違う。
(―お前は、よく私と王に尽くしてくれた)
病床の王に何をしていいのか分からず涙するだけだった自分の代わりに薬を手配してくれた。
頭の固い自分に代わり、裏に表に行動し、その手と名前を汚してくれた。
師となった私の名誉に傷がつかぬようにと、朝も夜もなくその力を研いでくれた。
お前の気持ちに気づかないようにしている私に合わせて言わないでいてくれた。
そして何より、
(―最後の時まで、キョウ王の剣姫たることを尊重してくれた)
だから、願おう。
言葉も届かぬこの戦場から、せめて願いだけでも送ろう。
無事にここを抜け出し、そしていつの日か誠の王となることを。
(―三妃、七竜、一三宝を揃え王となることを)
その姿を想像すると…
自分でない三妃、自分のいない七竜と共にいる姿を思うと、陰らざるを、揺らがざるを得ないが、それでもそれが、この道を選んだ自分の誇りなのだ。だけどもし願うなら…
王となったその時、
男の戦記に、どんな役だろうと自分の名前が刻まれていたら、
(―それで十分)
男をまねて一度だけ笑う。
それだけで影が潜み、揺るぎは消えた。
姿なくとも、物語は今も共にある。
彼女の戦記の中に。
「数に気圧されるな! 一刃は一刃でもって、一殺には一殺にて応じよ!!」
『応!!』
剣姫の檄と応じた兵達の声にたたらを踏む敵兵。
元々作戦を聞かされていたゴウ竜忠臣の兵ばかりならともかく、反逆した竜についている兵の多くは一般の兵だ。船に乗り込み作戦を聞かされるまでは味方であった兵だ。
死を厭わず臨む守備兵とは、その士気において雲泥の差があるといっても過言ではない。
そしてそんな弱点を突かぬ手はない。
「逆賊に向ける背はドラゴニアの兵にないと知れ!」
責められ、攻められ、動揺の走る反逆の兵。
が、下がらぬ兵もいる。
そんな兵の一団が、剣姫めがけて押し寄せた。
(―さすがホウ竜。短い間にも兵の意思を観とり隊を分けて運用するか…が、それでいい)
自分に精鋭が集まれば集まるほど、味方の兵は戦いやすくなる。
王の時は稼ぎやすくなる。
そしてあの男は逃げやすくなる。
(―きっと今頃)
「脱出してるとでも思いました?」
キィン、と。精鋭の剣を剣で受け止め、弾き、返す刃で首を切り落とす男の姿。
声は軽く、
身のこなしも軽く、
ここが戦場とわかっていないかのようなその男、
その男が誰かをはっきりと理解し…剣姫が男の名を呼ぶ。
「ユウ竜!」
普段とは違い、鎧姿に剣を持つユウ竜。
腰には、祝いの折りに剣姫が贈った腰袋。
手には、国宝とまではいかないが、それなりに業のある剣を一振り。
そして顔には、いつもとかわらぬ笑みが一つ。
「ちょいと野暮用で遅れました。御咎めは?」
「…構わん、許す!」
「ありがたき」
襲い来る敵兵を前に、剣を振りながらも朗らかに…
剣筋と声色に力を気力を取り戻しつつ、剣姫、
「死にに来たのか?」
剣を振りながらも冷静に…
周りを見渡し戦況を把握しつつ、ユウ竜、
「いえ、お別れの挨拶に参りました」
剣を振りあいながらも楽しげに、
辺りを切り急ぐ剣とユウ。
息を飲むほど美しくも恐ろしい二人の緩急揃った剣撃に、しかし恐れきるのはまだ早い。
「剣姫様」
敵が足を踏み出すを躊躇ったがために生まれた一瞬の間に、竜が求む。
応えて、姫が与える。
「禍い穿つ銀の剣、喜び奮えその牙を写せ。我ら、万難を好み、万難を排す者らなり。『銀写万牙鏡』」
姫の祝詞に、国宝たる銀の長剣が震える。
震えは光を生み、光は増え、増えた光がユウ竜の剣を包み、あたかも二振りの銀の長剣の如くなる。
これすなわち、銀の長剣に宿りし力。
銀の長剣の真の持ち主として選ばれた剣姫のみが繰り出せる力。
銀の剣をもう一振り生み出す力。
元の銀の剣と写しの銀の剣を、その持ち主らを繋ぐ力。
剣姫が認めた相手だけが繋がることを許される力。
そしてその力から繰り出される技が、
「「万禍不侵陣の形」」
元々合っている二人の呼吸だが、銀の長剣の力と繰り出された技は、それを異様な域へと高める。
相手の一挙手一投足が、
相手の思考と視界が、
もしかしたらその心内まで分かり合っているのではないかと思えるほどの連携と連撃。
見えない位置にいるはずの敵を打ち、飛来する矢を切り落とし、入れ代わり立ち代わり立ち回り視線を絡ませ、たった二人であるというのに、陣を組んでるかのように回転し飲み込んでは、無慈悲に全てを切り裂く竜巻の如く、二人の回りに死体が積みあがる。
禍となる者、たとえ万であろうと侵せない領域、万禍不侵陣の形。
現ドラゴニアにおいて…いや、現世において、今この瞬間は、この二人にしか扱えない、二人だけの形。
「「仕舞」」
キィン、と甲高い音と共に二人の剣の輝きが消え、それぞれの剣へと姿を戻す。
そして、姫は言った。
「寂しくなるな」
姫の頬に赤みがさしているのは、何も敵兵の血が降りかかっているからというだけではなかろうが…
ユウ竜は返した。
「また心にもないことを」
「いや、本心だ」
即答し辛うじて息の合った敵にとどめをさす姫に、頬を掻きながらユウ竜、
「やっぱ、剣姫様一緒に来ません?」
「ま…またお前は、そうやって心にもないことを…」
「いや、本心ですよ?」
「猶更断る!!」
「ま、ですよね?」
巨漢の兵士を二人で同時に切り落とし、背中を合わせて言葉重ねる。
鎧越しだというのに温もりを感じたのは、はたして姫か竜かどちらもか…
「というわけで、お別れの時間です。置き土産に、可能な限り時間を稼いできます。独断での戦闘の許可を」
「いまさら竜に命令を与えるほどの権限は私には―」
「御命令を、剣姫様」
もし銀の長剣に、本当に相手の心の内を明かしあう力があったなら、姫には聞こえただろう。
(―王と姫の絆を尊重したいというのなら、せめて姫の竜のままで)
そう、聞こえただろう。
いや、もしかしたら、そんな力なくとも姫には聞こえたのかもしれない。
いや、聞こえたはずだ。
いや、聞こえていてほしい。
「許可する…好きにやれ、ユウ竜!」
「承知!」
振り向きざまにそれぞれ敵をうち、顔を見合す竜と姫。
そして竜は姫の後ろの敵を突き殺し、
そのまま姫の唇を奪ってみせた。
(―は?)
竜姫のそれとは違い、しっかりと相手に刻むように唇を重ねると、竜は笑って距離を取り、華麗に一礼せしめ背を向けた。
「…きさまぁ! きさまきさまきさまきさまきさまきさま!」
「さて姫様は今、何回貴様といったでしょーか?」
「きさまぁ!!!」
「まぁ、退職金がわりってことで…せいぜい頑張るのでお許しを」
「ほざけぇぇ!」
「あ、あと骨姫様とキスできたら、キョウ王三妃の唇コンプリートだ。がんばって狙ってみようかね?」
「しねぇぇぇぇぇぇ!」
怒声と共に敵を切り、片手で唇をぬぐおうとした頃には、竜は敵の波の中。
波の中寄ったのは、自分ではなく竜の右腕。
右腕が寄ったのを見て、姫は一度だけ…一瞬だけ、戦場で自ら目を瞑るという愚行を犯し、言葉を送った。
(―武運を、ユウ竜)
別れも、感謝もいらぬ、その言葉で全てが足り、そして姫が唇を拭うこともなかった。
後の戦記にそう記述される、竜と姫の別れの場面である。
今回もお読みいただきありがとうございます。
必殺技とか、
呪文とか、
最近? 一時期? 基本事項? として、必殺技名とか呪文とか戦闘シーンを短くっていう教えを観たのですが、やっぱり好きなんですよねぇ、そういうの。
武器の名前とか考えるのも好きです。
これからも呪文と必殺技と武器の名前を出すためにアップしていくのでよろしくお願いします。
あ、女の子も好きですよ? あとおっさん。