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戦記4「ドラゴニアへ」

 とりあえず第一部というかドラゴニア編というか、読み物的に切りのいいところまでは毎日アップしたいと続けている昨今。シンとかマとかゴウとかリュウとかケンとかなんかいろいろ出てきてシンマゴウリュウケンな感じで空の旅をお楽しみください。あ、マはでてきてないや。

戦記4「ドラゴニアへ」


 ドラゴニアと同盟を結ぶ商業都市の市長との会談も終わりに差し掛かった時のこと。

 市長が押さえてくれた高級料亭の奥まった個室に、ドラゴアニから緊急を伝える兵士がやってきた。


「ご会談のところ申し訳ございません、剣姫様よりお伝えごとが…」


 剣姫様、と聞き嫌な予感が浮かぶ。

 まさか竜姫様のいっていた胸騒ぎがこんなに早く?

 とも思ったが、どうもそういうニュアンスとはものを伝令役から感じる。

 表面的には落ち着いた様子を見せる伝令役を下がらせ、会談を閉めにかかる。


「申し訳ございませんが市長…」

「分かっております。こんな時期に申し出を聞いてご会談頂いたのです。感謝こそすれ、悪しく思うはずもございません。どうぞ剣姫様のご心労を和らげておいでください」

「いやいや、私なんかが帰ったところで、心配の足しになるどころか、貞淑を狙われないか不安になるだけでしょう」

「相変わらずそのような御冗談を…もうユウ竜様には騙されませんよ?」

「では次に会う時までに、違うネタでも考えておきましょう」


 市長からきっちりとお土産の骨董品…国宝とまではいかなくてもそれなりに値と見栄えの立つ置物を頂き、会談の席を後にする。会場のすぐ外には、伝令役とボウが並び、すぐ目に入る所に飛空艇を呼び待ち構えていた。

 通常、多少の広さがあったとしても、町のど真ん中に飛空艇を待機させるようなことはしない。

 …どうも、竜姫の胸騒ぎ以上の事が起こっているような気がしてならない。


「ボウ、例の物は?」

「手配済みです。伝令役の飛空艇も接続完了しております。いつでも出れます」


 みると、オレたちがのってきたカーゴタイプの屋根部分に1人乗りの飛空艇が取り付けられていた。この場で話をするのも惜しい、そういうことだろう。


「わかった。出るぞ」


 いつもよりやや粗い起動で、飛空艇が空へと舞う。

 どれだけ話しても地上に声が届かないところまできて、伝令は取り繕っていた表面を崩し、伝えた。


「謀反です」


 は?


「ゴウ竜様を筆頭に、作戦行動にでていた五竜様、一斉に謀反。兵を率いてドラゴニアへと迫っております!」

「…ボウ」

「すみません、現状コチラに情報はありません」


 ボウの情報網をかいくぐった…これだけ大規模な作戦なのに?


「…そのための遠征と、引き返しか」


 おそらくは、ゴウ竜を含め幹部クラスの何人にのみ作戦が伝わっていた。そしてある程度の距離まで離れたところで、全体に通達。反対した者は置き去りに、または処分して、賛同者と共に取って返し、王城を占領。といったところか。


「にしても、ゴウ竜はともかく、五竜全員? 情報に間違いは?」

「間違いなどありません! 剣姫様が忍ばせたものが、命からがら戻ってきた情報です!」

「いえ、それはおそらく間違いです。命からがら、戻らせたのでしょう」


 ボウの意見に、同意する。


「作戦の中心はゴウ竜だろう? ならやりたいのは、ドラゴニアの滅亡ではなく転覆…自分が王になること。そのために与えられた準備時間だろうな」


 伝令が戻れば、準備をする。関係のない国民を逃がしたり、大臣たちが逃亡したり、ゴウ竜にすり寄るために協力する者も出る。それが一番無駄なく国を頂ける…でなければ、あの強欲ゴウ竜がスパイを取り逃がすなどするわけがない。


(―利に聡いからこそ、大胆でかつ神経質…ほんと面倒な奴)


「迎撃の状態は?」

「伝令に向かう時点では、剣姫様が守備兵をまとめて対峙するとだけ」

「カイ竜は?」


 城に残っていたもう一人の竜…オレと同じく、戦闘向けではないため作戦に参加していなかったのがカイ竜…サイエンティストだ。頭にややマッドがつくタイプの。興味の範囲は幅広く、武器や防具の開発、飛空艇の改良、浄水施設の建造や遊具、あと爆弾や爆弾や爆弾の開発など、ドラゴニアはこいつの発明品であふれている。もちろんオレも世話になってる。


「情報は何も。ただ、キョウ王様と何かお話をするとのことでしたが」

「…暇の交渉でしょうね」

「だろうな」


 なにせ好き勝手発明する条件で竜になった奴だ。自分の開発したいことに専念できる環境があれば万事それでよいし、ないならテコでもダメである。なおその環境とやらには、カイ竜の精神環境も含まれている。そしてカイ竜はゴウ竜を親の仇の如く嫌っている。理由は、カイ竜の開発に無駄が多いから。その無駄をゴウ竜が常日頃邪見にしているから。

 そんなゴウ竜が王となれば、当然カイ竜のやりたい開発はできない…どころか命を狙われかねない。構造物や武器防具の弱点のようなものがカイ竜の頭の中には詰まっているのだ。それらがカイ竜ごと敵に渡ったら? と考えるのは、まぁ当然といえば当然の思考だ。なら仲良くすればいいじゃないか、って思うけど、それができないから戦争なんてものがなくならないわけだ。


「このままぶつかったらキョウ王が負けると読んでの行動ですね」

「ボウ様は、キョウ王様が負けるというのですか!?」

「私はそう思います。ユウ竜様がどうかは知りませんが」


 期待のこもった伝令の目には申し訳ないが…正直辛い。

 普段なら…せめてゴウ竜がドラゴニアの竜でない、単なる侵略者であれば…

 あるいは、キョウ王の病状が竜姫に伝わってなければ、負けるはずがないと言えたのだが…いや、オレとカイ竜が共闘すればあるいは?


(…ないな)


 この状況でカイ竜が手を貸すとは思えない。

 国外…同盟国に助けを求める案も浮かぶが、他国からの侵略ではなく、国内の革命や蜂起に…それも竜レベルのそれで軍を向けるとは思えないし、向けてくれたところで時間が足りない。

 反逆者の数は、全部で五個竜隊…隊の人数にはばらつきがあるとはいえ、竜や武装などの合計戦力でみると、いずれも一隊いれば大規模な戦闘が起こせるというのが、一個竜隊。それが、五つ。

 対して城の守備兵はおそらくかき集めても一個竜隊ほどだろう。まともにやれば半日と持たない。


「…全部、織り込み済みの作戦だな」


 竜姫が起きたタイミングから考えて、ゴウ竜が病状を知ったのは竜姫様からではない。スパイかまたは観察眼からか、王の現状を把握した。その上で、竜姫が国の為なら、今の夫すら二の次にすることを踏まえ、計画を実行した。剣姫様とオレ程度が抗ったところで無駄である、と結論付けて…まぁ、そんなところだろう。


「作戦中に、ゴウ竜様の政治力をそぐ作戦、無駄になりましたね」


 大規模作戦に会えていかず城内に残り、外交実績を積むため会談にまで出向いたのだが…一手どころか数手も向こうが早かった。

 一時的に国力を落としてでも、自分の評判を下げてでも確実に王になる方法をとってきたわけだ。


(―もっと強欲に望んでくると思ったんだけど…手堅く実利を取ってきたか)


 読み間違えた点は主に三つ、

 一、五竜全員が揃うとは考えていなかった

 二、竜姫様が中立に回るとは考えていなかった

 三、他国への軍事作戦中に謀反するとは考えていなかった


 このうちのどれか一つでも欠けていれば、謀反は成功しない。

 そしてそれぞれが起きる確率は、時期にもよるが五十はもとより三十や十あったかも怪しいぐらいだ。

 まあ、その時期を揃えて起こしてきたわけだ…


(―ゴウ竜…ではなく、最近仕官した副官達の仕業だろうな)


 大胆で神経質、ただし圧倒的に他人の気持ちとやらに無頓着なあの男が、他の竜の説得などできるはずがない。まだまだ旨味を蓄えられるこの時期に打って出るはずがない。故に考えられるのは、今回の功労者は、竜本人ではなく、奴の副官たち…将軍の地位についている者たちだ。


(―けどまぁ…竜たる者、部下の良さもまた竜の良さ、なんですよねぇ)


 竜の心得として、剣姫様より…俺が姫の隊に所属していた『部下』の時に聞かされた言葉だ。

 その言葉を放った姫と姫が慕う王には、今どれだけの部下がいるのだろうか?

 窓から城がみえる位置まで来ると、かなりの数が大小違いはあれど荷物を持ち、丘を下っていく姿が見えた。1人1人誰かがわかるほど目はよくないが、人の動きや集まり方から察するに、大臣などの要職持ちも何人か逃げているだろう。

 ここまでくると、城の中で内乱や手引きがないかの不安になるが…


(―あぁ、それを見越して追い出したのか)


 逃げたい奴は止めない。

 残る者は逃げた者の姿を見て、戦意を高める。

 また、残った者が少なくなれば、紛れ込んだスパイや仕掛け人を発見、処罰しやすくなる。

 さすが剣姫様。最前線を離れたとはいえ、元竜の経験値はオレなんかと比べるべきもない。となれば、もうすっかり準備も終えているだろう。

 普段あれだけ可愛く慌てふためくくせに、どうしてこう戦闘のことに関してだけは適格なのか…大勢の兵士がギャップ萌えするわけである。自分含む。


「間もなく到着ですが…いかがなさいますか、ユウ竜様?」


 飛空艇が高度を落とし空門に近づくと同時に、伝令役が空門にいる係りにサインを送る。

 敵味方の識別用のサインであろうその動作が終わると、飛空艇が係りの誘導に従い着陸態勢に入った。


「ユウ竜様…お時間です。お決めください」


 魔法動力の音が着陸音に変わったのを聞きながらボウの目を見る。

 いつもと変わらぬ…これから俺が何を決めようと、いつもと同じようにするだけです、という目でこちらを見ている。


「…分かってくれすぎる副官も考え物だな」

「贅沢な悩みですね。自分を理解して欲しいと嘆く人の方が多いのが世の常だというのに」

「確かにな…今しばらく、この贅沢を味わいたいのだけど、いいかねボウ君?」

「そういう約束ですから」

「じゃぁついでに、ボウ自身も味わっていい?」

「キモチワルイ…」


 あ、なんか一言だけって結構ズッシリ心に刺さる。

 あとその目やめて、ほんと、ね、なんかこう、洗濯物を娘が一緒に洗ってくれないお父さんのような気持ちになってくる。

 とかやってるうちに、飛空艇が着陸を完了。

 起動音が収まる。


「御命令を、ユウ竜様」

「ボウは部屋の処理を。オレは王の元にいく」

「承知」

「伝令、ご苦労。任務に戻ってくれ」

「はっ!」


 伝え、扉が開くと同時に各々が駆け足にゆく。空門から見渡せる空に、今はまだ飛空艇の姿はない。が、あとしばらくもしないうちに、覆い尽くされるだろう。王を襲う逆賊の姿で。


 今回もお読みいただきありがとうございます。このあとは、個人的に大好きな、でも書くとなるといろいろ悩む、戦闘が待ち構えております。楽しみなような不安なような…塩梅は、もう少しあと、本編でご確認頂けると幸い。ボクが。

 

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