戦記3「ドラゴニア上空にて」
やったね、ユウちゃん読者が増えたよ。
あと女性キャラ。
というわけで、気分が乗っているうちに書き溜め書き溜めしてるぶんをアップ。
戦記3「ドラゴニア上空にて」
飛空艇で空をゆく途中、遠くに数匹のドラゴンが空中で戯れているのを視界に収めつつ、国土を見下ろす。
天丘国家ドラゴニア。
キョウ王が収める、高い丘の上にあるこの国は、昔から竜と人が共存し、世に七大国と呼ばれるほどに力を持った強国だ。
地形的に有利な位置、竜を使役するというアドバンテージ、キョウ王になってからの軍備拡張により戦力は更に高まり、その戦力を背景にした…ぶっちゃけてしまえば侵略と恐喝により、国庫も潤いを増した。
戦において有利な地形的位置は、商業的にみれば流通の阻害であり、防衛力の高さは他の国と技術交換が行われないという弊害があった。それをキョウ王はとっぱらったのだ。つくづく強引にではあったが。
そしてオレもこの数年、役回りは変わりつつも、強引な国家運営に携わってきた。
危ないこと? したよ。
悪いこと? したよ。
人殺しも? したよ。
そこらへんについて悩んだことも、考えたこともあったけど、今はいうほどどうこう思ってはない。今後変わることもあるかもしれないが、現状、落ち着いたり割り切ったりしてる。
悲しいけどこれ、現実なのよね? だっけ? 違うかもしれないが、そういうことだ。
少なくとも、王やオレがそういうことしたからこそのドラゴニアという部分もある。
(―そういうもんだろう?)
と答える者のない問いをしていると、
「うわ…」
と、ボウが溜息と共に、反対側の窓に視線を向けた。
窓たって、ここは空の上なわけで、すぐ向こうに見えるとしたら鳥か雲かドラゴンかってわけで、みるとやっぱりそれはドラゴンだった。ただし、半分だけ。ちなみに、真っ二つとか切断面的な意味ではない。
「邪魔するぞ」
凛とした声で飛空艇へと入ってきたのは、ドラゴンハーフ…ドラゴンと人間の間に生まれた竜人の美女。
それも、並の美女ではない。剣姫も美女ではあるが、あれはあくまで人間的な美しさである。薄手の服というよりは霞か何かをまとっているかのような姿は、扇情的よりも芸術的のほうが勝り、美術品に近い神秘性が漂う。
切れ長の目、細い指先に、くびれの目立つ身体に実った暴力的な胸元、仕事というものから遠いことをにおわす立ち居振る舞い…それら外見も去ることながら、ドラゴンの特性なのか、話しているだけで辺りに甘い香りが満ちてくる。その香りは、人はおろか種を越えて動物すら色香を覚えるという。
そんな、キョウ王の三人いる妻…三妃のうちの一人が、このお方、竜姫様。なお、魔術と占術のスペシャリストで、場合によってはキョウ王よりも偉い人でもある。
「お久しぶりです、竜姫様」
俺に続き、ボウが恭しく首を垂れる。
竜姫はぽんぽんと、友好のあかしとして下げたオレの頭をなで、顔をあげさせる。
「久しいな、ユウ。一年ほどぶりか?」
「かと思います」
これまたドラゴンの血の成す技か、竜姫は半生の大半を寝て過ごしている。一年に一度数日起きていればよく起きている方で、酷い時は十年単位で寝ているというので、実際の年齢は聞いてはいけない。死ぬ。冗談抜きで。何代か前の王がそれで死んでると、史実にある。げに怖きは女性に年の話をすることぞ。
「ここに来る前にチラリと城下が見えた。前に比べて栄えている。お主の功じゃな。褒めて使わす」
「ありがたき」
「うむ。そうじゃな、褒美もくれてやろう。何ぞ望みはあるか?」
「えー…では竜姫様が欲しいといったらどうでしょう?」
「よいぞ? お主が夫を下し、この国の王となればな。できぬならもう少し程度を弁えた物をねだるのじゃな」
くっくっくと、楽しそうに…オレの発言が本気だろうが冗談であろうが意に介してない、圧倒的高みにいる者の笑い声。
まぁ、実際高みの人なのだ。寝て起きて寝て起きて、代々このドラゴニアを収める王の妻として君臨し続けるので、王よりもこの方を崇拝する者は少なくない。宗教的なものもずいぶんと昔から立ち上がっているので、この国においては神といっても差し支えなかろう。
「して、竜姫様。何かご用命でも?」
「そうそう、胸騒ぎがして目覚めたところ、夫は色事に忙しそうでな。代わりにお主にでも伝えておくことにした」
占術に長けたこの方がいう『胸騒ぎ』がただの気のせいであるはずがない。
珍しく自分でも緊張しながら、姫に問う。
「拝聴いたします。して、その胸騒ぎとは?」
「うむ。おそらくじゃが、夫な。アレ、先は長くない」
「キョウ王が…ですか?」
「他に妾の夫がおるか?」
「しかし、今日も侍女と元気溢れるほど戯れておりましたが…」
「といいながら、思い当たる節があるであろう? むしろ、剣の奴から聞いてるよりも、悪化しておるはずじゃぞ」
この方に隠し事はそうそうできないとはいえ…いや、できないからこそ、オレに告げにきたのか。
泣いてキョウ王の病気を案じた剣姫様に、薬を届け続けることを約束したオレに。
「どこまでご存じで?」
「存知とは、主と剣の逢い引きか? というほどのことはしておらんようだがな。せいぜい、口づけ程度じゃろ?」
「そこまで存じて居られれば、だいたい知られているようですね」
仕方なし、と割り切り、今朝方ボウからもらったメモを取り出す。そこには、闇商人から取り寄せている薬の名前が書かれている。竜姫はそれを一瞥すると、こちらの問いを察し答えた。
「強い薬ではある。病状を抑える程度には効くじゃろうが完治は無理じゃ。そもそも普通に買える程度の薬でどうにかなるなら、妾がとうにどうにかしておる」
ま、ですよね。
「そういうわけじゃ。終わりがいつかまでは読めなかったが、なんなりと準備はしておけ」
「お言葉ですが、まだ御健在なうちから、そのようなことは」
「たわけ、葬式のことなどではない。次の王を選ぶ準備のことじゃ。お前にしろ他の奴にしろ、いざとなってから動いたのでは国が揺らぐ」
では伝えたぞ、と、姫は魔力の翼をはためかせ、城下街へと降りて行った。
別にオレに王になれともなるなとも言わず…単に王の病状を知る竜がオレだったから…それだけなのだろう。
今の王にも、次の王にも、おそらくは前の王にも興味はなく、国の神として王の妻となり、この国を守り大事にする女性。それが、竜姫様。オレが、芸術品的な…調度品のような美女と感じる一番の理由。
「…戻りますか?」
「いや、あの言い方だと、今日明日でなくなるというわけでもないだろうし、今日は予定通りいくとしよう、ただ」
「はい。薬は可能な限り強いものを手配します」
「ん、頼む」
ガラス窓の向こうに、あの日王と会った洞窟が見えた。
後で知った。あれは、ほんのお遊びのようなものであったこと。
遊びで命を取られた元クラスメイト達には同情の念を禁じ得ないが、まぁ、オレは生き残った。生き残った上、ドラゴニアにきて、そこで『ユウ』という文字…新しい名前と『竜』という地位と仕事を与えられた。
ユウ竜の主な仕事は、万の軍を率いた戦ではない。
交友、外遊、たまの遊撃。
支配地や同盟国との間柄を良好に保ち、外遊という名の視察や商売の種を作り、軍の編成から独立した部隊として時折戦争に参加する。
それ以外は、キョウ王の遊び相手であり、話し相手であり…不遜な言い方をするなら、朋友のような役目…
まぁ、そのような感じだ。
そして今日もそのような仕事だ。
「…三妃、七竜、一三宝。三つの柱を揃えし王は、この世で誠の王となる」
あの日口にして思い描いたモノは、まだ捨てたわけではない。
でも今しばらくは…この世界での生き方と生きる道をくれた王の元にいるべきだろうと思っている。
侵略で溜め込んだ病や怪我や疲れ…癒えることのない傷を負っていた王が、今しばらくあの玉座でふんぞり返り、侍女をはべらしていられるように…そう思っている。
そんな矢先のことであった。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
今はまだあれですが、戦記ものとかチームものて回を重ねれば重ねるほどに敵味方キャラがふえてきて処理が面倒―生かし方にやりごたえを感じていくと思う今日この頃。
はたして誰が残され(メタ的に)、誰が消えるのか(メタ的に)…
答えは次回以降をお楽しみに。




