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戦記2「天丘国家ドラゴニア」

新キャラ登場。もちろん今度は女の子。

ようやく比率的に男女比が半々に。

薄いのと厚いのはどちらがお好きですか?

戦記2「天丘国家ドラゴニア」



「ユウ竜様、お時間です」


 定例の呼びかけで、目を覚ます。

 この声で呼ばれたら…小さく控え目ながらも、針に糸を通すような過不足の無い声がかかったら起きなくてはいけないと習慣化されている。

 だから先に、耳が起きる。

 耳に遅れ、靄がかかったような視界と思考から抜け出すと、ようやく声をかけた少女に目をやれる。

 小柄で細身、黒ずんだ青のショートヘア、眼帯、そして胸平さん。


「おはようボウ。今日もスッキリとしたいい朝だ…ね?」

「そこは胸であって顔ではありません。胸をみながらスッキリとかセクハラです、成長期なのでお気遣いなく」


 せっかちなのか、淀みなく言葉を紡ぐボウ。

 今日も刺繍の施されたワンピースのようなブラウスのような服がよく似合う。ハーフパンツ気味のズボンから伸びるすらっとした足も更なり、などと思いながら、自分も似たようなシャツとズボンへと着替える。下着? いまさら見られて照れたり慌てるような間柄じゃありません。どこまでの意味かはご想像に委ねる。


「今日は日差しが強いな」

「もう昼ですから」


 時計を見ると、確かに朝よりは昼に近かった。

 窓に寄ってカーテンを大きく開くと、太陽がより強く部屋に差し込んだ。唯でさえ平地に比べて太陽に近い場所にあるせいか、一瞬目が白むほどだ。

 日差しから背けるように視線をずらすと、サイドテーブルにサンドイッチと紅茶…『ありがとう』と声をかけつつボウが用意してくれたであろうモーニングセットを口にする。卵が好きです。


「今日の予定は?」

「夕刻に、商業都市の市長と会談、その前後で今度の茶会で披露する美術品の選定と購入です」

「了解。んじゃぁ」

「会談前に街でウインドウショッピング、会談後に美術品の購入…でよろしいですね?」


 理由も行動も先読みしてくれる優秀な秘書というか参謀というかのおかげで、非常に楽である。

 街で品を探す⇒その情報が市長に届く⇒市長がお勧めの品をもってきてくれる、という一連の流れを頭に描きつつ、姿見で衣服の乱れやらを確認する。


「年とったなぁ」


 さすがのボウにも意味が理解できなかったのか、顔に?を浮かべている。


「コッチに来た時のことを夢に見た」

「左様で」


 その一言で片付けてくれるにはいろいろありすぎた五年だが、別に昔語りや自慢話をしたいわけではない。

 三行程度にまとめると、

 一、異世界からきた少年が王様の右腕切り落として気にいられて将軍(竜)になる。

 二、ユウ竜と呼ばれることになった少年、世界のことを勉強しながら仕事する。

 三、部下や同僚や先輩に嫌われたり好かれたりしながら気が付くと五歳ほど年取ってた。

 で、ある。

 …こう書くと一はともかく二、三あたりは誰にでも当てはまりそうなことで、確かに気に留めるほどのことではないきもしてくるから不思議だ。


「オッサンは?」

「玉座でふんぞり返ってるのでは?」

「正確には玉座で乳繰り合ってるだろ」

「分かってるなら聞かないで下さい」

「たまにエロくないこともしてるだろう、仮にも王なんだし」

「八割方エロですよ。残りは戦闘」

「じゃぁ、出かける前にエロ戦闘狂に挨拶でもしておくか」

「それがよろしいかと」


 家臣と家臣の部下とは思えないやり取りをかわしつつ、私室を出る。

 城の一角に与えられた私室から玉座までは少し歩く。

 上空からみると、翼を開いた左右対称のドラゴンのような形の城の、今いるところは右の羽あたり。羽から胴体へと向かい、そこから頭の方に向かう途中に玉座のある広間へとぶつかる。

 なお、今の説明からいうと城の出入り口は尻となる。

 そして、出入口には門がある。

 だからどうしたということはない。


「ユウ竜様、いつものです」


 歩きつつ、真隣より半歩下がった位置をついていくるボウからメモを受け取り目を通す。

 そこには、仕事に関するアレコレや、集められた情報などがまとめられている。日刊ボウ。

 今日のトピックスできになったのは、先ほどの予定の中にあえてボウが組み込まなかった部分…オレが商談中に、とあるものを取りに行くというもの。

 どこで誰が聞いているかわからない…今は訳あって城にいる兵士は極端に少ないとはいえ、用心に越したことはない…ことを前提に、目だけで抜かりなく進めるよう伝え、メモをポケットにしまい込むのと、横方向から声をかけられたのはほぼ同時だった。


「おい、ユウ竜」


 少々ドキリとしたものの、城内でオレの役職的に敬称を付けず呼べる人間は、そう多くない。

 上司である王、王の部下であり同列の他の六人の竜、それと大臣などの国政を動かす高官、そして最後に王の妻である三人の王妃。

 今声をかけてきたのは、その王妃のうちの一人、長い銀髪を持ち、王妃でありながら活動的な軽鎧に身を包んだ『国宝、銀の長剣』の使い手…あの日『蹂躙せよ』の言葉を言い放った、


「おはようございます、剣姫様」

「またこの時間まで寝てたのか…私の隊員だったら、懲罰ものだぞ」

「いやぁ、正式な竜になって一番よかったのは、剣姫様のしごきから逃げられたことだと実感してます」


 王に気に入られてドラゴニアにきたオレが、兵士として訓練を積んだのが剣姫様の部隊だった。一応は竜の位につけられたとはいえ、一介の高校生が戦力になるはずもなく、修行しろ、とのお達しでぶちこまれたのだ。が、そりゃぁもう、厳しい人だった。

 竜ということもあり、名目こそ副将とか参謀扱いだったが、実際には一平卒とかわりない日々。怒鳴れ、ぶん殴られ、罵倒され、兵士としての訓練を終えると、今度は竜としての作法や知識の積み込みの為に、怒鳴られ、ぶん殴られ、罵倒され、そろそろ違う何かに目覚めかけた時に、ようやく剣姫様の指導期間が終わりを告げた。

 まぁそのあとは王にくっついての罵倒と修行と悪行の日々だったので、どっちがいいかといわれると美しい女性の側にいられたぶん、剣姫様の方がましだったかもしれないが、それは別の話である。

 というわけで剣姫様はオレにとってかつての上官であり、師匠であり、上司の嫁であり、この世界で初めて遭遇した美女でありと諸々属性が多すぎて、なんにせよ頭の上がらない方であるわけだ。


「王への挨拶はすませたのか?」

「これからです。ちょうど広間へ行こうとしてるところに、姫様とばったり」

「ふむ…では、街へ降りるのもこれからだな?」

「そうですが、何か?」

「いや、うむ、その、な…」


 言いたいことはあるが、言い出しにくい…

 相変わらず隠すとか、心理戦とかいった類にはめっぽう弱い姫様に、ボウと一緒に溜息をつきながら…もっともオレのそれはボウと違って、もう可愛いなこの野郎! という気持ちが交じっているのだが…姫と竜の会話する距離からぐいっと近寄り、姫にのみ聞こえるように告げる。


「手配はしてます。ご心配なく」


 本当か!? と声を出す前に、内緒にするように、と口元に指をあてる。慌てたように声を飲み頷いた姫に、やっぱりかわいいなこんちくしょう! とか思いながら距離を取り直す。


「お土産は、明日の朝食には間に合うように持ってまいります」

「助かる…ありがとう」

「いえいえ、これも約束ですしね」

「うっ…ん、まぁ、そう、だな」


 顔を赤くした姫様に別れを告げ、歩みを進める。

 背後から「頼むぞ!」という念押しに手を振りこたえると、姫の姿がみえなくなったところでボウが隣まで体を寄せてきた。そして一言、


「おさかんですね」


 人を盛りの付いた動物か何かのようにいうボウ。

 オレは名誉のために、きっちりと反論しておいた。


「最後までは至っていない」


 だからどうしたというボウの表情だが、よく、よく考えてほしい。あれだけの美女ともなれば、目に入っただけで興味を引くのは仕方ないわけで、それが上官と副官、先生と生徒、上司の奥さんと部下っていう関係上長時間一緒にいたら、手を握るくらいはもうなんていうかしょうがないっていうか


「手を握るまでで終わったんですか?」

「もうちょっとだけ頑張った」


 ボウのオレを見る目が、心なしか冷たくなった気がする。おかしいな、同期の兵士や同僚の竜の何人かは勇者を称えるかのごとく賞賛してくれるのに?


「その性癖、ほんとどうかにした方がいいですよ」


 今度オレの性癖をどう思ってるのかじっくり聞く必要があるなと思いつつ、広間へ到着。

 衛兵が扉を開けると、側面にガラスをふんだんに使われ、天井には国の象徴たるドラゴンが掘り込まれた意匠のある広間が目の前に広がる。そして奥には、玉座とそこに座る大男がいた。なおその周りには、人によっては『それ着る意味あるの?』と言われそうな服を着た美女の侍女が数名戯れていた。

 ちなみに俺は服を着るからこそ意味がある場面は確実に存在すると確信しているが、全裸の良さもまた承知しているので、いずれも死角はない。


「おはようございます、キョウ王」

「おぅ、ユウ竜。相変わらず寝起きの悪い奴だな。ワシなど、日が昇る頃には起きておったぞ」

「それ年ですよ。年取ると朝早くなるって言うし」

「殺すぞ?」

「逃げるぞ?」

「逃げるな、近寄れ」

「御意」


 一国の王とそれに使える竜にしては砕け過ぎたやり取りだが、あの日からこれは変わっていない。

 一度、国営会(国会みたいな会議の場だ)で俺の言葉づかいその他諸々問題になったが、当のキョウ王が反対派をぶん殴って解決してからは平穏なものである。表面的には。

 まあ、そりゃ右腕ぶんどった右も左も分からない男が王様と偉そうに口きいてる上に、その王様からおもいっきりひいきにしてるの見せられればねぇ…


「どうした、珍しくコレがきになるか? いつもは女の胸ばかりきにしてる小僧が」

「みているのは胸ではなく鎖骨です。あとくびれ」


 コレ、といって王は右腕をオレに向けた。

 右腕…といったが、そこにあるのは十本ぐらいの触手だ。あの日オレが切り落とした右腕は魔法でもくっつかず再生もしなかった。おそらくは、国宝の竜一文字に宿る魔力の影響だろう…とは、この国の偉い人の言葉だ。

 切り落とされたこと自体はどうでもよかったが、不自由さに苛立ったのか、王は触手を右腕に宿した。なんでもどこかの国が所有していた国宝だったとかで、奪ったはいいが使い道もなく宝物庫に眠ってたものだとか。

 さすがに原因を作った俺としては『触手プレイできるようになってよかったですね』とは言えなかった。いつか言いたいとは思ってるけど。


「触手プレイできるようになってよかったですね」

「うむ、その点はお主には感謝せねばならんな」


 やったね、念願のセリフをいったら喜ばれたよ!

 もっとも、端に控えてる大臣はコメカミ引きつかせてるけどね?


「で…どうして、コレをきにする?」

「あぁー、久しぶりに、あの日の夢をみましてね」


 うねうねとした右腕で、侍女の尻揉みエンジョイしてる王に言う。


「そろそろ五年経つからですかね?」

「五年も経つというのに、相変わらず使えんな。この穀潰しが」

「ほんと自分でもびっくり。せめてお使いぐらいはこなしてくるのでお許しを」

「おお、おお、せいぜい切り捨てられんうちに行ってこい。こいつらへの土産を忘れるなよ」


 侍女達の熱い視線(物欲)と王に見送られ、広間を後にする。

 向かったのは、城の左羽…飛空艇の発着場がある『空門』だ。

 中と外を区切る重たい鉄の扉を開け…ることなく、脇にある通用口をくぐる。扉開けるの大変だからね。開けるのは大軍を通す時とか、物資を出入りさせるときとかそういう時。

 なので普段はこのように通用口を通り、中庭のように開けた場所…空門へと出る。

 空門は大きく『受付』『格納庫』『発着場』と別れている。

 さて…と見渡したところで、見慣れた係り員が片手をあげ近づいてきた。


「御公務お疲れ様です、ユウ竜さま。ボウ様より運転手つきのカーゴタイプで申請されておりますが、間違いないでしょうか?」

「あぁ、間違いない。用途は道中の打ち合わせと、帰りは美術品を運び込む」

「変更なし…と。畏まりました。それでは準備は済んでおりますので、発着場へお進みください」


 係りがボードに書き込み笛を鳴らし三十秒…発着場へと移動したオレとボウの前にやってきたのは、ドラゴンをモチーフにした飛空艇。荒削りに伝えると、ワゴンタイプの車に竜の羽と頭をくっつけたような形で、最初観た時は幼稚園バスを一回り小さくしてかっこよくしたもの、と思った。

 胴体部分に乗客や荷物が乗り、外側…竜の頭から首の部分に、運転手が戦闘機の運転席のような感じで潜り込むように座る。

 なお、この他にも戦闘機のような一人のりタイプや、輸送目的の大型船タイプなど、用途に合わせていくつかの種類がある。


「にしても、この戦況でよくカーゴタイプが残ってたな」


 オレが1人のんびりしているだけで、ドラゴニアは現在も他国と戦争中だ。特に今は、オレともう一人の竜を除いた五竜での大規模作戦中で、船も兵も大半が出払っている。輸送用にしても用兵用としても大小関係なく飛空艇は重要な乗り物だ。数はソコソコあるとはいえ、カーゴクラスなら出払っていてもおかしくないはずなのだが…


「ユウ竜様が使うだろうからと、一機だけ整備中の名目で残しておいてくれたんですよ」


 ボウの発言が本当かどうかを問うために視線を係へ向けると、係りは半分慌て、半分笑いながらそれを肯定した。


「気を使わせたか…ありがとう。ゴウ竜がうるさかったんじゃないか?」

「いえ、まぁ…ユウ竜様にはお世話になっておりますので」


 どうもこの様子だとゴウ竜…竜の中でも特に血気盛んな将軍が、いろいろしでかしてそうだ。特に今回は作戦の責任者に名乗り出たほどだし、なおさらだろうなぁ…特にオレ、目の敵にされてるし。


「今日のお土産、少し奮発するか」

「それがよろしいかと」


 係りに礼をいいながら乗り込むと、中と運転席との間を隔てた衝撃耐性の強いガラスを運転手がノックした。そのまま運転手が親指を立てたのを確認し、こちらも親指を立て返すと、飛空艇は魔力を推進力に変え、空へと舞った。

 今回もお読みいただきありがとうございます。

 五年の月日が流れたとはいっても、人間さして性格に違いなどでやしません。せいぜい子供だったことがわかる程度に大人になるだけのことです。

 それはそうと、解説が多くなってしまう自分のくせを何とかしたい今日この頃。えぇ、そうです、私は設定厨。反省して五年たっても、せいぜい自分の文章が若いなと思うだけであまり変わらないと思うのでで諦めていきましょう。

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