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戦記11「ドラゴニアの兵と竜」

 やぁ、画面の前の良い子のみんな。

 作者の(自称)お兄さんだよ。

 いいかいみんな、小説を見るときは部屋を暗くして、現実から離れてみるんだ。

 でないと大変さ!

 この前、親友のスティーブンが明かるい部屋でついうっかり現実にかえっちまった時なんて

戦記11「ドラゴニアの兵と竜」


 空門での乱戦は、いまだ続いていた。

 ゴウ竜、ホウ竜、ドク竜の三竜、そして剣姫もすでに城内へ移動しているものの、現場を任された副官たちと兵達が戦うことを辞めない。

 そんな戦場にある、ドーム型の闇に覆われた一角。

 ホウ竜の放った魔法…一区画を闇で覆うブラックアウトカーテンが解除されるのを…正しくは、ドク竜の放った毒の効果が消えるのをじっと待つボウ。


(―魔力の流れからして、きっともう間もなく)


 ボウは、現状魔法を扱う力はない。魔法の習得には才能、感覚、経験、研究、様々な要素が絡んでくる。

 ユウ竜に買われるまで…今でこそ副官として活躍しているが、元は単純労働と性的なニュアンスを含む奉仕作業に従事させられていた奴隷であったボウには、魔法を扱うために必要な時間や学びの場が決定的に足りなかった。

 だが、才能と感覚はあった。

 魔力の流れを見る目、威力や効果を感じる能力、相手が保有し、または操れるであろう魔力の量。

 見ることしかできないからこそ、ボウのそれは磨かれたといえる。実際、ボウが予測を付けたのと数秒の誤差で魔法の効力が消え、倒れたユウ竜とヨウ竜の姿が見えた。

 重力場も毒のフィールドも消滅している。


「時間ね。あとは任せたわ」


 ゴウ竜から後を任された細身の剣を操る女副官は、二人の始末を隊長に任せると自身は王宮へと…おそらくはゴウ竜の元へと駈けていった。


(―そうだと思いましたよ)


 ユウ竜は知らないだろうが、ボウは副官のことをよく知っていた。

 竜の副官として自分を見下げつつもライバル視するかのように接してくる女のことをよく知っている。

 女はいうなら、万能型。

 ボウはいうなら、特化型。

 卓越した竜のために、卓越した者になろうとした女。

 足りないところのある竜の為に、補う者になろうとしたボウ。

 それゆえ、特定分野において女は絶対にボウに叶わない。

 同じく、特定分野以外においてボウは女に叶わない。


(―ここで最悪だったのは、アナタが残って二人にとどめをさすことだったんですけどね)


 しかし様子から見るに、出された命令は殺害ではなく捕縛。

 しかも副官はその指揮を部下に丸投げした。

 ここまで見越したわけではないだろうが…


 竜を相手にしてる時は、絶対に手を貸すな。

 副官クラスでもやばいなら無理するな。

 あとはボウが最良と思えるものに任せる。


 それが保険の意味をかねてユウ竜がボウに出していた指示。


(―我慢比べは、ユウ竜様の勝ちですね)

 

 ボウは見えない位置から、縄を手にした兵達の露出した肌めがけて針を…毒を付着させた針を射出し、何名かを行動不能へと追い込んだ。


「まさか、まだドク竜様の魔法が!?」


 慌てて距離を取る兵士達。

 さらに針を打ち込み、倒すボウ。

 が、いつまでも続くわけがない。一人でどうこうできる数ではない。

 だから、剣姫はボウに兵を与えていた。


「今です!」


 剣姫は、伝達係からドン竜襲撃の報を受け、王の身を案じ、一刻も早く駆けつけたい衝動の中ボウに接触し、兵を集め指示を出し、そして駆けていった。

 その兵達に号令をだし、ボウが駆ける。鞄を開ける。解毒剤を取り出す。二人の口に流し込む。


「円系陣! ユウ竜の寝坊助が起きるまで、耐え抜くぞ!」

『応!』


 敵兵が気づき態勢を立て直すよりも早く、二人の竜とボウを守るように円形の陣を組む剣姫の兵。

 それは、ユウ竜が剣姫の元で修行をしていた時代に共に隊にいた兵士達。同じ飯を食い、同じ戦場に立ち、同じ笑いや怒りを抜けた兵士達。


「つ、つぶせ! つぶせつぶせ!」


 捕縛を任された隊長が慌てて指示を出す。

 隊長の指示のおかげ…というよりは、もし捕縛の任務を達成できなかった場合の、ゴウ竜からの怒りを想像したのだろう。先ほどまであったやっつけ仕事感はかけらもなくなった。回りからも次々と応援が集まってくる。

 対して、剣姫が預けた兵士はけして多くない。だが、崩れない。剣姫の去り際の一言が別れの言葉であると知っているかのような粘りを見せる。

 粘って、粘って、粘って…まだ二人とも回復しきらないうちに、さすがに兵士たちが崩れだした。


「くそ…みれなかった、か、バカが王になるところ」

「…墓前に必ず」


 ユウ竜と夢を語った兵が逝った。


「…おもりよろしくな、ボウ」

「お任せください」


 ユウ竜に戦の知識を与えた兵も逝った。


「剣姫様にこんなにしてもらえるなんて、この幸せ者め…」

「代わりに殴っておきます」


 ユウ竜と同じく剣姫に恋心のようなものを抱いていた兵も逝った。

 次々と兵が逝った。

 ユウ竜が正式に竜として活動してから側近となったボウにとっては知らぬ者だ。

 だが、ボウは約束した。


(―皆さんの言葉は必ず、生き延びたあと、ユウ竜様に伝えます)


 そう約束した。

 その約束だけで、数十名の兵士が命を懸けた。

 やりたいことも、かけたいことも、成したいこともあったであろう男たちが、自分でない男の為に命を懸けた。

 他の竜に手も足も出なかった竜に、命を懸けた。

 そして、竜がその目を開けた。


「…お前たち」


 眼を開き、さっと状況を見渡し、すぐに理解したのだろう。

 理解したからこそユウ竜は剣を片手に立ち上がり、空門へ…玉座へと走ろうとした。

 そんなユウ竜をボウがしがみつくようにして止めた。


「ここまでです」


 ボウの奴隷時代…トラウマを刺激するほどの鋭い視線に耐えながら、ボウは重ねた。

 せめて手の震えが声に移らぬ様にと気を張りながら。


「目的は達しました。引きましょう」

「断る」

「もう、ゴウ竜様たちは玉座に付いているころです。時間稼ぎは終わりです。引きましょう」

「だから断る」

「約束をお忘れですか?」


 『約束』の言葉に、ユウ竜が返す言葉をみつけられない。

 もはや力づくで振り払おうとしたユウ竜に、しかし力で答えたのはボウではなく、兵だった。

 ごつん、と。手甲で思い切りぶん殴られたユウ竜は、ぐらつきつつも兵士を睨み、押し黙った。

 兵士もまた押し黙った。

 それが誰で、ユウ竜とどんな言葉を交わしてきた人間か、ボウにはわからない。

 だが、なんらかのやり取りが交わされていることぐらいは分かる。

 だから黙った。

 そして、終わった。


「…すまん」

「謝る相手がちげーだろ」

「すまん、ボウ。もう大丈夫だ」


 ユウ竜が力を抜き、ボウの手に手を重ねた。

 ボウの手の震えが止まる。

 そのくせなぜか声が震えた。


「…皆さんから言葉を預かりました」


 死体を背にいうボウに、瞼を重く閉じ、そして焼きつけるように鋭く開けるユウ竜。


「…聞かせてくれ」

「今はできません。ここを生きて抜けたらと約束しました」


 お前もか? と視線を向けられた兵士が、ばつが悪そうにうなずいた。


「バカばっか揃ってまぁ…」


 侮辱ではない。懺悔のようなユウ竜の言葉。

 そこには、命尽きた死体すらうっすらしたと笑みにかわったかと思うほど、満ちた思いが聞いて取れた。


「わかった。逃げる。お前たちもくるか?」

「バカいうな。俺たちが付いていくと誓ったのは、剣姫様だ。逃げるわけねーよ」

「なのにオレのこと守るなんてバカじゃねーの?」

「るっせーな。いいからさっさといけよ。お前の寝坊で剣姫様に迷惑かけてんだ。起き抜けぐらいさっさとしろ」


 見れば、他の兵も同じような顔をしていた。

 別れにしてはさっぱりとした、いや、さっぱりとしすぎた顔。

 だが、それで十分らしい。


「ボウ、頼む」


 それが脱出のことを指しているのだと悟り、ボウは合図の照明弾を打ち上げた。

 独特の火花を散らす照明弾の残光が闇に溶け終わると、それは起きた。


 盛大な、爆裂音。


 戦場の兵士たちが思わず視線を向けるほどの爆発が、城の一角から鳴り響いた。みると、歴史ある城の一部が吹き飛んでいた。


「さぞや、日の光を取り込みやすくなっただろうな」

「改築にしては大胆に過ぎます」


 煙が舞い、瓦礫が空門に落ち、敵味方関係なく何名かの兵士が下敷きになる様子を揃ってみつめるユウ竜とボウ。


「で、脱出の手段てあれか?」

「あれです」

「あれか…」

「あれです」


 あれが空より近づいてくる。

 近づいてくるのは、飛び回っているのとは少し形状の違う飛空艇。

 周りがドラゴンを模しているのに対し、なんというか前衛的な…三角形の胴体に、美的センスというものをかなぐり捨てて、これでもかとばかりに銃身や砲塔を取り付けた、『火力こそ正義』という開発者の性格が前面に押し出された、いろいろな意味で痛々しい形をしている。

 前提的な飛空艇は近づきつつ、地上部隊に爆撃を行い、空中舞台に射撃を繰り広げる。

 そしてユウ竜の付近へと着陸。

 乗用車程度の乗り込み口兼操縦席を持ったその飛空艇から出てきたのは、ユウ竜の見知った女性。

 深緑のロングスカートと上着に、いくつものポケットが付けられたベストと腰袋をした女性。


「ご協力感謝いたします、カイ竜様」


 ボウが頭を下げたこの女性が、ドラゴニア現七竜の最後の一人、カイ竜だった。


 お読みいただきありがとうございました。

 作者の(他称)おっさんです。

 小説を書いてることを隠してないこともあり、この小説を見た知り合いが感想があるというのでワクワクブルブルしながら聞いてたら、『前書きと後書きが酷いね』と言われました。


 それは、小説の感想ではない。


 ではまた次回。

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