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戦記10「ドラゴニアの竜達」

 この話投稿時点で、1日平均して300人くらいの方に開いてもらっている模様。コンビニの店員さん含めて1日3人とも合わない日がある人間としては快挙である。

 そしてこの物語はそんな社会性を犠牲にするモノカキが綴る物語である。

戦記10「ドラゴニアの竜達」


 先輩の援護に入るつもりで弓に武器を切り替えようとした矢先、先輩は転がった。転がされた原因は、衝撃波や防壁の類ではない。原因は、魔法は魔法でも、毒系の範囲魔法。


「かわいいオニちゃん捕まえちゃった」

「こ、の、ク、ソ、ババァ!」

「あら、お喋りできるほど加減したつもりはなかったのに。すごい子ね、ヨウ竜ちゃん。でも言葉遣いはダーメ」


 およそ戦場には場違いな…娼婦か何かとしか思えないような薄手の服と衣をまとって現れたのは、ドク竜。致死毒、麻痺毒、睡眠、病原、ありとあらゆるといってもいいだろう状態異常のスペシャリスト。息を吐くように毒を吐く(物理。いや、魔法か)と言われている。

 性格は気まぐれで個人意識が強く集団行動を苦手とする部下達よりも更に気まぐれで個人意識が強く、そのくせ部下達は誰も逆らわない統率力を持つ。そんな先輩とは違う意味で年齢不詳の美女…それがドク竜。

 紫色の口紅に、紫色のアイシャドー、紫色の目と髪に、紫色のヘビの形をした使い魔…ものの見事に紫でまとまったドク竜は、自分の凹凸のある体をさらに強調する仕草をとりつつ、動けない先輩の前にしゃがみ込んだ。


「角、もらっちゃおうかしら」


 なんの恐怖も罪悪感も聞き取れない声色で先輩の角に手をやろうとするドク竜。

 鬼族の角は、当人たちにとって神聖だ。

 その角を取られるは、生きたままとられるはこれ以上ない屈辱だ。

 それを知らない先輩の兵達ではない。

 ドク竜が手を伸ばすその前に、俺を囲んでいた先輩の兵が一斉に声を荒げ突撃した。


「君たちは、ざんねんさんね」


 そして近寄りきる前に一様に地面に転がり、のた打ち回り、苦痛に侵された罵倒を浴びせつつ、やがて死んだ。

 おそらくは精霊の類と思われるヘビ型の使い魔とドク竜による複合魔法、一定範距離内にいる条件を満たした者に、自動で毒を注入する範囲魔法の効果によるものだ。相手のレベルが高すぎてオレには分からないが、魔法系統に卓越した者なら、ドク竜を中心に円を描くかのように地面に展開している文様が見えるらしい。


「そしてユウ竜ちゃん、せいかい」


 座ったままパチパチと拍手を送るドク竜。

 その目の前に、すでに先輩はいない。

 兵士たちが駆け出した時、俺が取り出して投げた回復薬の効果で、先輩は自力でドク竜のフィールドから逃げおおせていた。


「おおきに、ユウ」

「オレと先輩の仲なんでしょ?」

「あぁ、そうやったな。でもあんがとさん、けっこう高い薬やったんと違うか?」

「ボウが城のどっかから拾ってきたものなのでお気にせず」

「なら、ツケってことにしとこか」


 まだ辛そうだが、喋れるし動けるぐらいには回復したようだ。

 致死レベルの毒を受けても回復薬だけで動けるようになるあたり、鬼族のポテンシャルを感じる。

 そんな鬼目に浮かぶのは涙。

 涙でかすんでいるだろう視界は、先ほど死んだ兵士達へと注がれている。


「怒ってる? ねぇ、ヨウ竜ちゃん怒ってる? 仲良しさん殺しちゃったから怒ってる?」

「だったらなんや、クソババァ!」

「んー、仲良しさんの死で怒れるって、若くてステキねぇ」


 うっとりとした表情で自分の肩を抱き弛緩した表情を浮かべるドク竜。

 はた目からは隙だらけに見える…が、いかに先輩といえど、相手がドク竜と分かって正面から殴り掛かりはしない。

 確かに先輩は強い。ゴウ竜と双璧を成す。が、ドク竜のような相手にはめっぽう弱い。単純な戦闘力に特化しすぎている故の突破力と破壊力は、搦め手への脆弱性の上にあるといえる。

 相性の観点から言えばオレが方がまだ戦えると思うが…牽制の為、武器を弓に切り替える。


「ユウ竜ちゃん、またまた正解」

「じゃぁ、正解のご褒美に」

「ちゅっちゅしてあげようか?」

「させるか、ボケぇ!」

「いやですよ、ドク竜さんの口紅、絶対に何かの毒入ってるでしょ」

「えー、入ってるけど」


 はいってんのかよ。


「ちょっとおしっこもれちゃうぐらいだし」


 筋弛緩系じゃないですか。


「それに、竜姫ちゃんとはちゅっちゅしたくせにー」


 みえた。一瞬でとらえどころのない笑みに戻ったが、これ以上ないほどの毒を帯びた笑みがドク竜にみた。

 が、それよりも問題はお隣だ。

 『あ?』というよりは『あ゛?』というニュアンスの視線を下から突き刺してくる先輩。コンテストがあったら優勝も狙えるレベルの『あ゛?』だ。


「いえ、加護ですよ。加護。竜の加護を貰っただけ」

「さよか」

「さよです。それにね、ほらね、あっちからしてきたわけで」

「えー、でも剣姫ちゃんには自分からしたくせに」


 やめて、先輩。鎧の隙間から指でつつかないで。それかわいさよりも痛さが目立つ。


「あと、骨姫ちゃんのでコンプだーともいってたよね?」


 どっから見てたそして聞いて―先輩肉をつままないで、あとホウ竜さん冗談ってわかってるよね? 信じていいよね? 同じ痛みを抱えている同志認定はされたままだよね? だからその右手を抑えるモーション大技ですよね止め手くてださい死んでしまいます。


「と、まぁ冗談はさておき」

「あら、おねーさんは本気よ?」

「じゃぁ、ご褒美辞退する代わりに、教えてくれます?」

「ん、お話しできる事ならどーぞ?」

「ドク竜さんの目的は?」

「あぁ、薬品のね、研究をしたいの」


 さらっと、本当になんの悪気もなくいうドク竜。


「それって、以前噂で聞いたあれですか?」

「うん、たぶんそれ」


 それ、というのをさらりというあたり、ドク竜の人間性が窺える。

 敵の町一つかっぱらって、そこで新しい薬品の人体実験をしたいというのがそれ…しかも、薬物の影響が血筋や世代でどう影響するかもみたいと…つまり、薬物を使って人間の品種改良がしたいと、そういうことらしい。

 その実験に王は…というよりは、剣姫様が猛反対した。ある程度は好き勝手やらせる王も、さすがに剣姫様の言葉を優先した。そしてドク竜は拗ねた。


『昔のキョウ王ちゃんは、もっとてきとーだったのにぃ』


 と。

 昔の王様のことを知ってるとか、あんた実際のとこ何歳だよとはやっぱり聞けなかった。実際聞いたやつが廃人のようになったという噂まででがワンセットだ。


「ゴウ竜ちゃんはね、いいよっていってくれたの。だからこっちでもいいかなって」

「かなってアホか、キモイわ、ババァ!」


 なんの意味があるのか胸が強調されるようなポーズで結論を述べたドク竜に先輩は吠えた。


「あらあら、大丈夫。女の子の価値は胸の大きさだけじゃ決まらないから。ね?」

「んなこと、誰もきにしとらんわ! なにをきーつかっとんじゃ、アホが!」

「え、でもこの前お風呂で」

「くぅぁっっっっ!!」


 威嚇する先輩に、微笑みを崩さないドク竜。

 『えなに? 先輩がお風呂で何?』と思うべきか、『命がけの戦闘やっておいてお前達なんなの?』と思うべきか…突如、後者だった奴が動いた。


「潰せ、無みょ―」

「うふふ、だーめ」


 業を煮やしたゴウ竜が魔法を放つ前に、ドク竜がゴウ竜と俺たちの間に割って入った。

 相変わらずの笑顔で…しかし抜かりなく毒のフィールドは展開されているであろうことは、鈍く光る使い間の様子から見て取れる。

 その範囲がどこまで広がっているか、ゴウ竜にもわからない。

 その発動条件もわからない。引き金として分かり易いのは、ドク竜に攻撃をしかけるなどだが…

 ゴウ竜は状況を理解し、呪文を取り下げ、立ち止まった。


「ん、おりこうさんね、ゴウ竜ちゃん」

「…ダメな理由は?」

「だって、ゴウ竜ちゃんの魔法、ぺっしゃんこにしちゃうんだもの。鬼族の角は貴重な薬の材料になるのよ? それも初めてを済ませてない子のは特に。あっ、まだいたしてないわよね?」

「だ、誰が教えるか、アホが!」

「よかった。ユウ竜ちゃんに頂かれてたら、おねーさんショックで辺り一面毒の海にしちゃうところだった」


 冗談でもなんでもなく本当にやるんだろうな、この人。


「な、なんでユウ竜に頂かれないといけないんや、アホか!」

「え、だってこの前ベッドで」

「くぅぁっっっっ!!」


 嬉しいやら恥ずかしいやら面倒やら複雑な気持ちだが、この前ベッドでの続きがものすごい気になる。聞かないけど。殺されるから。先輩に。


「ね? それぐらい貴重なの。だから、殺すならキレイに殺してくれないと困るの。わかったゴウ竜ちゃん?」

「わかった」

「よしよし、いいこね」

「キレイに殺す。どけ」

「だーめ。まだキレイに殺せるほど強くないでしょ、ゴウ竜ちゃんは」

「…なんなら試してみるか、ドク竜?」

「やーよ。ゴウ竜ちゃんの身体に興味ないもん。あ、ユウ竜ちゃんならちょっとはあるのよ?」


 それ、人体実験的な意味ででしょう?

 こんなに嬉しくない美人からの興味の持たれ方する日がくるとは思わなかった。


「わかった、ユウ竜だけ殺す。死姦でも実験でも好きにしろ」

「だーからー、殺しちゃったら意味ないでしょうって。もう、ほんとわからんちんさん」

「とにかくどけ!」

「いい加減になさい、ゴウ竜!」


 ドク竜と同じようにホウ竜も俺たちとの間に割って入ってきた。

 攻める相手に守られる…というと少し違うかもしれないが、いずれにしろ情けない状況ではある。が、今すぐどうこうする気がないのなら甘えておくとしよう。時間を浪費してくれるならありがたい。言い争いをしている間にやれることだってある。


「君の強さは疑うところがないが、それでももう少し気を回すべきです。こうしてる間にもユウ竜君は時間が稼げて、内心ほくそ笑んでいる程度の余裕は残しているはずですよ」

「そうそう。ちゃっかり回復薬で、ヨウ竜ちゃんの体力戻したりね?」


 ねぇ、なんで二人ともこっちを見てもいないのに、俺の行動やら内心やらいい当ててんの?


「おまけで取れるなら、それも構いません。が、一番の目的はなんですか?」

「その目的のために協力してるのよね、私達? 邪魔するの? 邪魔するなら…ここで、二度と子どもが望めない体になって貰うのもおもしろいかしら? あ、大丈夫、死なないから。たぶん」


 利害がぶつからなければ協力的だし、そうでなければ排他的になる。

 忠誠心や絆ではなく、利と理のための結束。ドラゴニアの竜の、ほとんどにいえる価値観や考えがそれだ。かくいう俺にも少なからずそういうところはある。

 だからこそゴウ竜は、この二人が立ちふさがる意味と、衝突した場合の結果をきちんと理解している。

 そしてダメ押しがやってきた。


「ゴウ竜様、ご報告が…」


 ゴウ竜の副官…細身の剣を操る女将軍。

 新しく登用された後、すぐに将軍の…ゴウ竜の右手を自負するほどの立場へと収まった才能溢れる女性、と聞いている。なにせ戦場にいかないので、その強さを実際にみたことはないが、かつての剣姫様を髣髴とさせるという者がいるほどなのだから、実際なかなかのものなのだろう。その割に、まだゴウ竜から名前を貰ってはいないらしいが…


「話せ」

「しかし」


 明らかにこちらを…というよりはオレを見てくる副官。敵対心というよりは嫌悪の部類の視線を隠そうともせずぶつけてくる。


「構わん。ホウ竜とドク竜は、敵ではない。他は違う意味で敵ではない」

「は、畏まりました」


 畏まるな、疑問を持て。

 そして先輩、どういう意味か考えて必死に目をくるくるするな。両手の指を折ったり伸ばしたりしても意味ないから。可愛いけど。ちょっと頭が鈍いことばれちゃうでしょう。やめなさい。


「ドン竜様、城門を破壊して玉座へ突撃。キョウ王との戦闘において…討ち死にしました」


 ピシリと、敵味方関係なく、竜は元より周りにいる兵士たちにも言いようのない緊張が走った。

 直後、護衛側の兵達による喜びの咆哮。

 一方、やや狼狽を見せる反逆側。


「…バカが」

「あーあ、一人で先ばしっちゃったのね」

「ドン竜で勝てる王ではないと言ったのに…」


 察するにドン竜はキョウ王と戦うことが自体が目的だったか、またはゴウ竜に抜け駆けして自分が王になるかしたかったのだろう。死んだけど。


「オヤジの状態は?」

「触手に多少のダメージを受けたようですが、すぐに回復。竜一文字を携え、ドン竜様が率いていた兵を薙ぎ殺しています。また、剣姫が小数ですが兵を率いて玉座へ向かいはじめた模様。このまま挟撃される形になれば、遠くないうちに第一陣は全滅します」


 さすが剣姫様、行動が素早い。

 そして剣姫様が王の元へ戻ったのなら、俺の役目もそろそろ終わりとしてもいいだろう。

 間もなく先輩の回復も終わる。終わると同時に煙幕か何かを炊きつけ、逃げの一手だ。が、


「ホウ竜、ドク竜。オレが間違っていた。詫びよう」


 こいつに詫びるなんて言葉があったのかと驚いていた矢先、


「急ぎ玉座へ向かう。無力化しろ」


 ゴウ竜の決断により、利害が一致したホウ竜、ドク竜が明確な敵に回った。


(―早いとは思ってたけど、このスピードで決断するか!?)


 先輩の回復は間に合っていない。

 オレの行動も切り替えが間に合わない。

 結果、


「ブラックアウトカーテン」×「毒婦陣、痺れ」×「潰せ、無明」


 暗闇が周囲を覆い状況がわからなくなり、体に痺れを与える毒がまき散らかれ、身動きできぬよう重力がのしかかる。


「こんくそぉおおお!」


 先輩が剣を支えに重力に耐える。

 俺は重力のほとんどを先輩に託すため体を低くし、なんとか腕一本動かし爆弾を投げつけようとするも、


「いい子だから、少しおねんねしてなさい。ね?」


 ドク竜は暗闇から現れるや使い魔に爆弾を飲み込ませ無力化。更に魔法を重ねてきた。


「スリーピングフォレスト」


 眠りを誘う魔法の花が咲き、その甘い匂い…魔力が暗闇の空間へと広がる。

 先輩が魔法をもろにくらい意識を失い、重力に押さ付けられる。

 次いで、俺も。

 起きる頃には痺れの効果もあり、かなりの時間無力化されるだろう。


「まだまだね、ユウ竜ちゃん。最後が甘かったから、ご褒美のちゅっちゅはまた今度ね」


 身動きできないまま頭を撫でられ、意識が揺らいでいく。


「…忠告はしましたからね」


 もう、目が掠れ表情はわからないが、ホウ竜のなんともいえない響きが妙に心を泡立てた。


「いくぞ」

「はいはーい」

「えぇ、いきましょう」


 掠れていく意識の中、思考だけは落ちる寸前までめまぐるしく動く。

 王は、

 姫は、

 ボウは、

 先輩は、

 オレは、

 兵は、

 国は、

 このまま寝たらどうなる?

 起きた後どうなる?

 ダメだ、まだ、寝てはいけない。

 寝るのは好きだけど、まだ、寝るわけには、いか、な、い。


(―でも)


 重力がなくなり体が楽になった途端、意識もひきずられるように楽になり、せめて流れ弾の壁になれればいいぐらいに思い、先輩に覆いかぶさるようにして気を失った。


 お読みいただきありがとうございました。

 数話前に、そろそろドラゴニア編終わりとか言ってたきがしましたが、今度こそ本当にそろそろ終わりそうです。やっぱり戦闘シーンやらに入ると長くしてしまいがち。これでも削ってるのですが…

 本当は魔法の発動の仕組みとか描きたいのですが、まぁきっとそのうち本編で必要になった時解説できるでしょう。

 それではまた次のお話であえたら幸い。

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