戦記9「ドラゴニアの二強竜」
全国一千万のイケメンが好きなお友達お待たせ。
全国一千万の小さな(女の子が好きな)お友達お待たせ。
全国100人ぐらいの主人公が空気と化していくお話が好きな人おまたせ。
え? ムチムチプリンや主人公無双な話がすきなお友達だって?
『小説家になろう』にはたくさんのお話があるよ!(宣伝)
では、本日もどうぞ。
戦記9「ドラゴニアの二強竜」
動けない!
誰の攻撃か、どんな攻撃かもわかる、でも動けない。
顔を動かせない、
息がしづらい、
手足が動かない。
「ちっ、死なないか」
潰される前に見えたのは、小型の戦闘機から降りてきた竜の姿。
第五陣を率いる竜…謀反を起こした張本人、ゴウ竜。
「ホウ竜が手を貸してる…わけではなさそうだ」
ただでさえ悪い目つきを殊更鋭くしつつオレを見るゴウ竜。
キョウ王の『若き頃の生き写し』とまで言われるだけあり、ゴウ竜は今の王を髣髴とさせるところがある。分厚い胸板、腕、足、腰、首。従者が手入れをしている赤い髪。彫りの深い顔立ちには好き嫌いが出るかもしれないが、父親の荒さと母親の繊細さを譲り受けたと評すものがいる程度には端正な造りをしている。
なお、似ているのは戦いにおいてもだ。重装備に分類される鎧を着ていても平気で歩兵よりも早く動き、それ自体が並の重さではない国宝『剛剣無明』を片手で振り回し、大軍を相手にしようとものともしない。十代ですでに語られるほどの武功をあげ、二十も半ばとなった今ではキョウ王よりもこいつに王を、という者も出る始末。
強く、強く、より強く…『戦略も戦術も、個の力でひっくり返す男』。それがゴウ竜に対する周りの評価だ。その手のタイプであれば、大抵頭の方に弱点があってもいいものだが…厄介なことに、単純な力バカではない。必要がないから策を練らないだけで、理に従い、利に聡い。合理的だ。感情は荒いけど。
「竜姫様の魔力を感じます。おそらくですが、加護のせいで効きが弱いのでしょう」
「竜姫がこいつを選んだというのか!」
「一時的なものです。本当の加護なら、その魔法ぐらいは吹き飛ばしているはずですから」
その魔法とは、剛剣無明を媒介に発動した重力の魔法だ。
本来は魔法の類に明るく無いゴウ竜といえど、神が封じた魔法剣だけあり生半可な威力ではない。実際、ホウ竜の言うとおり、姫の加護がなければ一撃で押し潰されていてもおかしくない。
「…忌々しい。初撃で死んでいればいいものを」
その言葉そっくりお返しする。喋れないから心の中でな!
「協定故に、一応確認する…敵だな?」
「えぇ…剣姫様とリュウ王様側です」
敵だったからよかったけど、味方だったらどうするつもりだよ。
まぁ謝ることもなく、そんな弱いのはいらん、てとこだろうけど。
「お前の味方でもないな?」
「違います」
「敵は、殺す。異論は?」
「ありません」
ねぇ、ホウ竜さん。
老婆心で忠告したんなら、最後まで面倒見ません?
生き物に中途半端に慈悲を与えるって、それ与えないのと同じくらい罪深いことなんですよ?
「では、死ね」
語りも別れの言葉も自慢もない。押し付けたまま切り殺しにかかるゴウ竜。
徹底的にすぎるだろ、もう少し余韻とか風情とか趣とか味わえよ、と思っていても相変わらず口すらまともに動けない。
ボウの助けは…期待できない。さすがに相手が悪すぎる。手の打ちようがないだろう。
(―まずいな)
が、諦めない。
今取り出せる道具で逃げ出す算段を…具体的には腕一本犠牲にするつもりで爆弾を呼び出し、爆風の威力で範囲外に逃げようと決心した、その時だった。
「せぃぁ!」
女性の…というよりは少女、に近い声による掛け声と、ズゥグゥン、という聞きなれない衝突音…巨大な塊と塊がぶつかって重低音を放ったような、そんな音。
「ゴウ竜、おまえ、ええ加減にせーよ!」
甲高い声に似あわない妙な言葉づかい。この独特な声と口調は、一人しかいない。
「邪魔だ、ヨウ竜!」
「邪魔しとんじゃ、ボケ!」
剛剣無明を受け止めていた巨大な剣…もはや剣というよりは、平たく伸ばした鉄の板みたいなものを振り回し、力づくでゴウ竜を遠ざけ、俺の前に立ちはだかってくれた女性は、ボウよりもさらに小さな…やや背の高い子ども程度の身長しかない体形のヨウ竜先輩。
やや濃いめの肌の色に、赤茶けた飛び跳ねる長い髪、つりあがった目の色は何種類もの赤土を混ぜたような独特の紅を帯び、南国の健康優良児とでもいうような愛らしさと元気さを持っている。
ただしそれは平時なら。今は愛らしさや元気さは奥に下がり、獰猛な野生生物のように緊張感を湛えている。
「すまん、来るのおそーなった」
先輩の謝罪から少し遅れ、ゴウ竜が離れたせいか重力の呪縛がとけ、呼吸やら何やらが戻ってくる。
「いや、ありがとう先輩。おかげで命拾いした」
「きにすんな。ユウとウチの仲やろ」
にぃっと笑うや見える牙と、頭から生える一本のツノは、妖怪族の中でも特に鬼族たる彼女の特徴でもある。
生まれつき異様な腕力と頑強な肉体を持っている先輩は、鎧というほどのものはつけず、皮や鎖で装備を整えている。その姿だけ見ると、戦ごっこをしている少女のようだが、単純な戦闘力はゴウ竜と肩を並べる。
俺など足元に及ばないほどの強さだ。が、今いる竜の中では俺の次に新入りで、そのせいかやたらに気にかけてくれる。俺に竜の敬称を付けないのも親愛の証らしい。
なお、実際の年齢は外見どおりではない。何歳かはわからないが、重要なことだけ簡単に述べよう。
『合法ロリ』だ。
いかがわしいことをしてもなんの御咎めもない。
もちろん本人にその気がなければ、その限りではない。その場合、死を覚悟するべきだ。いや、もう、あれはなんていうか…まぁ、経験者は語るという奴だ。良く生きてた自分。ぐっじょぶ。
「さて、ボコす前に一応聞いとこか」
そんな先輩を慕う者は多い。
別にロリコン的な意味ではない。
いや、その意味での人気もあるにはあるが、戦いの豪胆さや性格のおおらかさに惹かれる者が多い。控え目な胸に対して広い器を持っているのだ。と言おうものなら殴り殺されること請け合い。
とにかく人望の証拠に、俺を囲うように人垣ができた。いずれも先輩の腹心の部下で、何人かは一緒に訓練や飯を食べた覚えがある。いずれも腕に自信のある体育会系の奴らだ。柄の悪い方の。いや、付き合ってみると少し乱暴なだけでいい奴らなのだが、並の悪人ならそれだけで逃げ出してもおかしくないほど邪悪な目つきでゴウ竜達を睨んでる。不良の姉御と舎弟達、みたいな関係にみえなくもない。
「ユウには手ぇ出さへん約束やったやろ。ん? なんかいうことあるか?」
「敵であれば容赦しないとも約束したはずだが、その程度の事も覚えてられないのか?」
「あくまで、やるっちゅーんやな、よーし、いい度胸や、泣いても許さへんからな!」
「オヤジの前に、肩慣らししておくか…」
「おやめなさい、二人とも!」
互いに一歩を踏み込む前に、ホウ竜が空中に文字らしきものを描き見えない壁…魔力による障壁を生み出し、その足を止めた。
「ゴウ竜、ヨウ竜を相手に無傷で王の元へいけると本当に思ってるわけじゃないでしょう? ヨウ竜、君がゴウ竜と本気でやりあったら、ここの兵はみんな君の敵になり、ユウ竜もろともやられるが、それでいいのですか?」
あくまで冷静に、そしてお互いの利を的確につくホウ竜。
ゴウ竜はすぐに舌打ちした。
先輩はオレとオレを取り囲む兵を見てやはり舌打ちした。一個竜隊を率いてるはずの先輩だが、今俺を囲む兵は十名程度しかいない。後ろから追ってきている素振りもない。
「あくまで協定というなら、言わせてもらう。どうしてお前がここにいる。町を任せたはずだが?」
「町におったらユウが頼ってくるかとおもたら、こっちでドンパチやっとる聞いたからダッシュできたんや。どこぞの誰かが、うちのみとらんとこで悪さしてると思てな」
つまり先輩のダッシュについてこれたのが、これだけだったということか。
先輩に従う兵士でもこれしかこれないって、どんだけ凄まじいダッシュなんだ…なんかもう普通のダッシュというよりは、パルクールのような激しい障害物走でもしてきたんじゃなかろうか。もちろんそのおかげで助かったわけだが。
「したら案の定これや。やっぱりお前は信用でけん」
「それはこっちのセリフだ。誇りだなんだといいながら、約束すら守れんのが鬼族か」
その約束とやらの詳細はわからないが、乗り気でない先輩がこの作戦に関わることになったことに関係するのだろう。それも気にはなったが、それよりもだ。
「…ぶち殺す」
ゴウ竜の言葉が先輩の逆鱗に触れた。
甲高い声が、絞り出すような…獣か何かが唸るようなトーンを帯びた。
先輩はこういっちゃ悪いが、切れやすい。
中でも鬼族をバカにされるのは、逆鱗中の逆鱗だ。
ホウ竜が静止する間もなく、先輩は駆け込みながら体を捻り、その回転による力を剣に載せ、全てを真っ二つに切り裂く大技―『鬼円斬』を放ちに出た。
ゴウ竜も剣を構え、先輩の大技に大技でもって返そうとした。
が、
「なん、や…」
いきなり先輩の姿勢が崩れた。
辛うじて剣こそ手放さなかったものの、回転運動のエネルギーを地面にぶつけながらしこたま転がる。そしてそのまま動かなくなった。
お読みいただきありがとうございます。
なかったはずの書き溜めも再度書きたまったので、今しばらく一安心。更新忘れたりしない限り毎日1話アップしているので、次のお話でもまた会えたら幸い。