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放浪の医者  作者: アイン
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ギルドを出た京介は、当初の目的のギルドカードが作れたので、町の入口の衛兵に腕輪を外してもらうために町の入口まで来ていた。

衛兵にギルドカードを見せると驚く程あっさりと話が終わり、腕輪も外された。契約魔法も解除されたようだ。これからどうするかと悩んでいると、ふと町の時計が目に入った。

今更だがこちらにも世界時間がある。今の時間はちょうど3時半なので、自分の腕時計を見ると、少し時間がズレているので同じ時間にするとだいたい同じ動きをした。どうやら地球時間と同じ時間を刻んでいるようだ。

今まで時間がズレていることなど考えてもいなかったが、腕時計が無駄にならなくて良かったなと思っていると、


「にしても、腹が減ってきたな」

時間も時間なので腹も空いてきた。腹ごしらえをするためにも京介は店を探し始めた。





食事をとるために店を探し始めた京介は1つの飯屋の前にいた。


「ここがさっき言っていた店か」


京介は町に来たばかりの上に、文字は読めるがそれがどんなものなのかが分からない。だから、町の住人にこの辺りで安くて、うまい店はないか聞いていたのだ。その説明通りならば目の前のこの店がそうなのだろうが、


「<ダーブの胃袋>.....どうやらここで間違いないようだな」


京介は聞いていた店と同じ名前だったので間違いないと思い、店に入る。


「いらっしゃいませー!」


京介が店に入ると、店員の元気な声が響いた。若い女性の声だ。おそらくこれがあの男の言っていた子の声なのだろう。店を教えてくれた男によると、この店には主人の娘で明るくて、かわいい女の子が働いているとの話だったのだ。店の味と安さも人気の理由の一つだが、その子を見に行くためにわざわざ店に通っている人も多々いるらしい。

京介は空いている席に座り、メニューを見る。メニューを見てもどれが良いのか分からないので、とりあえず今日オススメを頼んでみることにした。


京介が手を挙げると、


「はい、ご注文は?」


先ほどの女の子がすぐに聞きに来た。


「今日のオススメを頼む」


「わかりましたっ!」


トコトコと注文を厨房に知らせに行く姿は確かに愛くるしく、人気があるのも頷けるものだった。

身長は140ほどで、年相応の体つき、明るい表情で接客している。可愛いリボンで髪をツインテールにして、走るたびにそれがピョコピョコと動いている。周りを見ても、その姿を目で追いかけては顔をにやけさせている客や娘を見るような目をした人が何人もいた。


「なるほど。評判通りだな...」


しばらくすると、

「お待たせしました!オススメの<エラルゴの塩焼きセット>です!」


どうやら今日のオススメは<エラルゴの塩焼きセット>のようだ。

白身魚の塩焼きのようで、程よい焼き加減に、香ばしい香り、身はきれいな白。かなり美味しそうだ。どうやらこの世界にも米はあるらしく、セットにはご飯と汁物、サラダがついていた。米はどちらかというと日本米というよりはタイ米に近い形をしている。しかも、箸である。異世界での2回目の食事はかなり日本食に近いものになったようだ。

考えるのはここまでにして、こんな料理を前に我慢していられるわけもなく、箸をとり食べ始める。


「!...うまい!」


エラルゴはサバと似たような味がして、いい塩梅で焼かれているようで、ご飯のすすむ塩辛さがあった。汁物はさすがに味噌汁ではなかったが、何から作っているのかわからないが、ご飯にも魚にもマッチしていた。


「なるほど、確かにこれなら人気もでるな」


京介は可愛いウェイターだけが売りという訳ではなく、評判通りに料理の味にも人気の要因が確かにあることを感じた。これなら人気が出てもおかしくないなと思い、これからも昼時は通ってみるのもいいかもしれないなと考え始めていた。

料理をすべて食べ終えると、


「まだ帰るには早いか.....町でも見て回ってみるか」


これからどうするかを考えると、席を立って支払いを済ませに行く。


「ありがとうございましたー! <エラルゴの塩焼きセット>は500Gになります!」


値段を見ていなかったが、かなり安かったようだ。京介は500Gを払うと店を出て行く。


「またのお越しを!」



店を出ると、

「さて...と、とりあえず適当に歩いて回るか。<マッピング>も働いてるし、町を把握しておくかね」


京介は<マッピング>が起動しているか確認して、歩き始めた。




19時手前、


「だいたい町の半分ぐらいは歩けたか。もう宿に帰るか...」


町の東側半分を歩いて回った京介は遅くになってきたので、夕食を適当な屋台で済ませ、宿に帰ることにした。



宿に着いた京介は、部屋に入って明日のことを考えていた。


「明日はどうするか.....資料室には当然行くとして、ギルドへの借金もあるから依頼もこなさないといけないし、武器や防具とかも見て回っておきたいんだけど.....」


どうすべきか考え込んでいた京介だったが、まず依頼をこなす事で借金を返済したいので午前中は依頼を受け、午後は資料室に行くことにした。昼も夜もギルドの酒場で食べられるようなので夜遅くまで篭っていても問題ないだろう。


京介は明日の予定を決めると指輪を見る。<マッピング>だ。

ガレスの店で手に入れた、この<マッピング>という指輪はレアというだけはあり、かなり高性能だった。魔力を流すだけで自分の周りの地形や店を記録していくのだ。どうやら<大賢者の瞳>とリンクしているのか町の東全域は通った道にある店の名前もすべて記録してくれているのだ。おそらく自分の知覚したものも同時に記録しているのだろう。店の中に入ったり、店の名前を確かめない限りはマッピングされないところを<大賢者の瞳>のおかげで見るだけでマッピングされているようなののだ。これはこれからも役立ちそうだと京介は思った。


それと、瞳で周りの人を観続けていた結果、スキルレベルが4以上の人は全く見かけなかった。これはギルドであった冒険者にもあてはまる。やはり自分のスキルが異常なことは間違いないようだ。バレると色々と追求されそうで面倒なので、出来るだけバレないようにしたい。


などと、考えていると12時が近づいてきたので、京介は明日のためにも早めに眠ることにした。


「なんだかんだこの世界にも慣れ始めてきているな.....寝るか...」


そして、そのまま眠りに就いたのだった。




次の日の朝、京介は手早く朝食を済ませるとギルドに向かった。

特に迷うこともなくギルドに着いた京介はクエストボードをチェックしてみる。


「何か割りの良い依頼は......このゴブリン討伐クエストにしてみるか」


京介が選んだのはランクFのゴブリン討伐クエストだった。クエスト内容はゴブリンを3体倒してくるというもので報酬は銅板2枚、2000Gだ。受付に持って行くと、


「はい。ゴブリン討伐クエストですね! では、ギルドカードを...」


昨日とは違い、若い娘のギルド員に言われるがままギルドカードを渡すと、


「.....はい、受注が完了しました。昨日、新しくギルドに入った方ですよね? 最初は戸惑うかもですけど、このギルドカードには<契約魔法>がかかってて、私たちギルド員がギルドカードにクエストの内容を入れることで、ギルドカードの所持者がクエスト達成しているかを確認することが出来るんですよ。 ほら、ここを見て下さい」


そう言って、ギルドカードの下の方を指さすと、


・・・・・・・

・・・・・・・

使用武器:槍


クエスト:ゴブリン討伐 0/3


と、新しく表示されていた。


「こうやってギルドカードにクエストの達成状況が出されるので、不正が出来ないようになっているんです! それと討伐対象以外の魔物を倒しても記録されませんので、臨時の追加報酬が欲しい時は討伐成功部位が必要になるので気をつけてくださいね!それから......」


ギルド員の女性はギルドカードの仕組みをその後も丁寧に教えてくれた。新顔だからか死なないようにと他にも色々と教えられて、その場に30分ほど話し込まれてしまった。


「......なんですよ! それと.....アイタッ!」

「いつまで話してるの! 新米冒険者に愚痴るんじゃないよ! まったく、エレンは愚痴を話し始めたら長いんだから...」


クエストに関わる話から脱線して愚痴を聞かされ始め、そろそろ疲れてきた所に、横の受付の女性が口を出して話を終わらせてくれた。おそらく彼女の先輩にあたる人なのだろう、京介にずっと話しかけていた女性を窘めている。30分近く話し込まれて、そろそろ面倒になってきていたので彼女のストップはかなりありがたかった。


「う~、フェレスさんごめんなさい~」

「謝る相手が違うでしょ! まったく、新米の冒険者に愚痴り始めるなんて.....」


彼女がそう言うと、京介のほうを向いて謝罪してきた。


「えと、長話の上に愚痴まで聞かせちゃってすいませんでした! えと.....ヤナギ...キョウ...スケさん?」


ガレスたちとの会話の中でもわかっていたことだったが、やはり日本名は言いにくいようだ。


「いや、気にしないでいい。名前は呼びにくければキョウでいい」


「あ、はいっ! えと...キョウさんでいいですか?」


彼女は少し涙目で上目遣いをしながらこちらを見上げてくる。身長差もあるのだろうが、これを狙ってやっているとしたら彼女はかなりのやり手だ。まぁ、話を聞いていた感じでは、ただの天然だろうとは思うが。

今まで気にしてなかったが2人はかなりの美人さんだ。

エレンは小さい体とは似つかわしくない大きな胸に、童顔の天然の入ったドジっ娘。

フェレスは背は高くスラっとした体型だが、出るとこは出ている凛とした年上の女性。

周りを見てもこの2人ほどの美人はいないようだ。さぞかしモテるのだろうとは思うが、今はどうでもいい。


「ああ、大丈夫だ。...エレンさんでいいのか?」


よく見ると彼女の胸には名札が貼ってあり、エレンとそこには書かれていた。


「あ、そういえば私の名前は言ってませんでしたよね。はい、名札にも書いてありますがエレン・マーティルです、エレンでいいですよ!これからよろしくお願いしますっ」


「あんたがよろしくしてあげる側でしょうが。あ、私はフェレス・ノードレンね、私もフェレスでいいわよ。エレンはこの通り天然が入ってるから相手するときは気をつけてね」


年上に見える女性、フェレスがそう言うと京介はやっぱりなと頷いた。


「だろうな。これから気をつけるよ」


「フェレスさんひどいですよ~。キョウさんも納得しないでください~」


そんなエレンの姿を見ながらやっぱり天然娘だなと心の中で思っていた京介はそろそろクエストに行こうかと思い、エレンたちに話を切り出す。


「じゃあ、そろそろクエストに行かせてもらうぞ」


「あ、そうでした!気をつけて行ってきてください」


「ごめんね、この子が迷惑かけちゃって。クエスト頑張ってね」


京介は2人の返事を聞くと、「ああ」と軽く返事をしてギルドの外に行ってしまった。




京介が出て行った後、


「でも珍しいわね。今までは冒険者にあんなに愚痴るようなことは無かったのに。もしかして気に入っちゃったの?」


「ん~、どうだろう? なんだか聞き上手な人というか、優しい感じというか、嫌な感じが無かったからというか.....よくわかんないです」


「なによそれ。優しい感じってのは私にはわからなかったけど、確かに私達を見ても変な感情は持ってなさそうだし、そこらの男よりは良さそうだとは思ったけどね」


今まで、2人のところに言い寄ってくる冒険者はそこら中にいるのだ。だが、彼女たちの容姿はかなり整っていて、それも無理はないと思える程のものだった。だからこそ自分たちを見ても、なんの変化もなかった京介が珍しくて少し気になってしまったのかもしれないとフェレスは思った。


「まぁ、これからも会うことになるだろうし、どんな人かは分かってくでしょ。ほら、業務に戻るわよ」


「は~い」


そう言うと、2人は仕事に戻り、いつものようにギルドの仕事をこなしていった。





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