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朝、窓から差し込む日の光で京介は目覚めた。
「ん~~、朝? 半日以上寝てたのか。やっぱり限界だったんだな」
京介は軽く伸びをしながら昨日の夕暮れに来たのに、今はもう朝になっていることから大分眠っていたことを自覚した。
「快調、快調。時間もちょうどだし、腹も減ったし飯にしようかね」
十分以上に睡眠を取ったお陰か、昨日よりも体が軽く、頭もはっきりしているようだ。
京介は朝食をとるために1階に降りる。
「あら、おはよう! 今の今までずっと眠ってたみたいね」
宿の主であるアリマが挨拶してきた。
「おはよう。疲れのせいかずっと眠ってたようだ」
「そうかい。朝食にするのかい? それなら用意するけど」
アリマはこちらの用事に気づいたようで、そう提案してきた。
「頼むよ」
「はいよ。じゃあ、後で部屋に運ぶよ!」
そう言うと、奥に行ってしまった。宿からもわかるように昔から宿の主をしているのだろう、客への対応が的確だし、気も利く。これで飯もうまかったら文句なしだなと思い、部屋に戻る京介だった。
しばらくすると、
「アリマだけど、朝食持ってきたから開けておくれ」
京介も昨日の朝から何も食べていないので、すぐに鍵を開けると、
「はいよ、お待ちどうさま! 食べ終わったら部屋の外に置いといておくれよ、あとで回収するからね」
「わかった」
アリマが出て行くと、京介はさっそく食べることにした。見たところやばそうな物はなさそうだが、ここは異世界。何が出てきてもおかしくはないのだ。心して食べると、
「.....うまいな、普通に」
京介の心配し過ぎだったようで、おいしい朝食だった。少し固めのパンに、何かの玉子を焼いたもの、サラダは全く見たことのない野菜があったが、問題なく食べれた。飲み物に牛乳?のようなものがあって、朝食としては程よい量で満足の一品だった。
「ふぅ、満足満足。料理もうまいし、これは本当に良い宿を紹介されたな」
心の中でガレスに感謝すると、昨日のことを思い出し、これからどうするか考え始めた。
「まずはギルドか。犯罪者にはなりたくないし、これは最優先事項かな。それに図書館にも行きたいな、この世界のことも知りたいし......」
昨日までで分かっていることは、
・ギルドが存在する。
・1週間以内にとらないとまずい。
・ランクは1~10等級まで。
・銀貨は10000G、お釣りから銅板は1000G、銅貨は100Gのようだ。
未だに世界の情報はこれぐらいしかないので、常識を身につけることは必須だし、地球への帰り方の模索や武器も手に入れなければならないし、どうするか考えをまとめている内に、昼ごろになってしまったようだ。
とりあえず、今日はギルドと衛兵の所に行くとしようと思い、ギルドに登録しに行こうかと思ったのだが、
「あ、そういえば途中からステータスを確認してなかったな。確認してみるか」
京介が小さく<ステータス>と呟くと、例によって半透明のステータス表が視界に現れる。
≪柳京介≫
性別 :男
年齢 :24
職業 :学生
種族 :人間
レベル:12
HP :320/320
MP :210/210
力:38
体力:40
知力:50
精神力:51
敏捷:40
運:17
≪パッシブスキル≫
槍術Lv6
体術Lv5
気配察知Lv4
医学の心得Lv6
薬学の心得Lv6
詠唱破棄Lv4
≪アクティブスキル≫
闘気術Lv3
索敵Lv4
回復魔法Lv6
調合Lv6
隠行Lv4
夜目Lv2
≪ユニークスキル≫
大賢者の瞳
生命の樹*
異界の恩恵
医心
柳一心流
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「運だけは伸びにくいのか? スキルの方は変化はないか.......ん?」
スキルを一つ一つチェックしていると、生命の樹の横に*と新しく書かれている。
「なんだこれ?」
アナライズすると、
《生命の樹:~~自然回復促進などもできる。現在保有するソウル数:31》
「ソウル?殺してた生き物の魂をソウルとして保管しているのか。そういえばそう説明されていたな」
もっと詳しく生命の樹についてアナライズすると、
《ソウルガード(50):自分に対する精神攻撃を自動的に発動して防ぐ。》
《ソウルブレード(100+):ソウルで武具を強化し、威力を引き上げる。ソウルの消費量に応じてさらに効果が増す》
《ソウルシールド(100+):薄い膜状にソウルを変化させ、魔法攻撃を防ぐ。ソウルの消費量に応じて効果が増す》
《ソウルブースト(100+):ソウルを消費して身体能力を上げる。ソウルの消費量に応じて効果が増す》
...............etc
「.........チートだ、な。にしても強いな、回復に防御、攻撃まで何でもありだな。その分ソウルの数は多くなるけど...」
生命の樹の強さを再確認したところで、ギルドに行くためにアリマに場所を尋ねることにした。
「アリマ、少し聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「どうしたんだい?」
アリマは1階の掃除をしていたようで、京介が話しかけるとそれほど忙しくはないのか、すぐに聞き返してきてくれた。
「ギルドに行きたいんだが、場所がわからなくてな」
「そういうことかい。ギルドはね、ここを出たら右に........て所にあるよ!」
アリマの説明は口答にも関わらず、とてもわかりやすく、これなら迷わず行けそうだと思える程だった。こういったやり取りも慣れているのだろうなと思った京介だった。
「ありがとう。行ってくる」
「はいよ、いってらっしゃい」
アリマの言う通りに歩いていくと、<冒険者ギルド-トロイ支部>と書かれた、少し大きめの建物が見えてきた。どうやら迷わず来れたようだ。
「ここが冒険者ギルドか...」
扉をくぐると、そこにはゲームのような光景が広がっていた。冒険者の受付や受付ボードのようなものがあり、働いている職員たちがいる。そして部屋を半分に区切るように机と椅子が置いてあり、酒場のようになっていて、昼間から酒を仰ぐ冒険者風の男たちもいる。
モンスターを狩るゲームなどで見たギルドの様子にかなり似ていて、ゲームをしているかのような感覚になりかけたが、これは現実、遊びではないことを自分に言い聞かせる。
自分は今、この世界で実際に生きているのだ。ゲームのようにはいかないし、死んでも蘇ることはないのだ。
勘違いはするなと自分に言い聞かせると、冒険者登録とのために受付と思われる所に向かう。
「すまない」
京介が話しかけると、受付の男性は営業スマイルを浮かべながら応える。
「はい。どうなされましたか?」
「冒険者登録をしたいのだが?」
京介が簡潔に要件だけを言うと、
「新規の登録ですね。登録には銀貨1枚が必要になるのですが大丈夫でしょうか?」
驚愕の事実である。手持ちには銀貨1枚もない。
「いや、手持ちでは足りないな。ギルドで借りられたりしないか?」
ギルドで借りられなかった時はアリマに貸してもらえないか頼み込むしかないかなどと考えていたが、
「はい、大丈夫ですよ。発行時に限りギルドから貸すことができます。しかし、依頼をこなしてもらい、2週間以内で返せなかった時には<契約魔法>により罰則として奴隷になるのでお気を付けください」
どうやら借りられるようなので安心する。奴隷になるのは怖いが返せばなんの問題もないのだからいいだろうと考え、首を振る。
「では、この書類にサインをお願いします。ギルドカードに反映されることなので、虚偽を書かれますと血による<契約魔法>がはたらいて、発行することは3年は出来なくなるのでお気を付けください」
受付の説明に了承の意を示し、書類を受け取る。
この書類には発行の際に血による<契約魔法>が用いられるので、虚偽があった場合は発行できないということが書かれていた。
名前 :ヤナギ・キョウスケ
性別 :男
年齢 :20
使用武器 :槍
書類にサインしたが、名前を漢字からカタカナに変えているが、本名には変わりないはずなので問題ないとは思うのだがやはり心配になってしまう。
契約魔法は血から情報に虚偽がないかを判断するだけのようなので、スキルが見られるということもないようなので問題ないと思い、書き終わった書類をギルド員に渡す。
「はい、それでは少々お待ちください」
「わかりました」
しばらくすると、
「お待たせいたしました。それでは、この魔石に血を一滴ほど垂らしてください」
受付にいたギルド員がこぶし大の鉱石と小さな刃物を持ってきた。刃物は少し切って血を垂らすためのものだろう。
京介はこの鉱石からギルドカードが作られるのかと不思議に思い、アナライズで確かめてみた。
《登録の魔石:使用者の血を垂らすことで血から情報を読み取り、カード状に変化する。一部の情報はギルドで変えることも出来る。[8級]》
(問題なさそうだな...)
京介は危険性はないと判断して、軽く指を切って血を垂らす。すると鉱石が光り、変化し始める。1分ほどで完全にカードに変化すると、
「はい、問題ないようですね。では、これがあなたのギルドカードとなります。失くされると再発行には銀貨3枚いただくのでお気を付けください」
「わかりました」
京介はギルドカードを受け取り、確認してみる。
《ヤナギ・キョウスケ》
性別 :男
年齢 :20
レベル :12
使用武器 :槍
ランク :G
サインしたこと以外にもレベルとランクが表示されている。カードを確認しているとギルド員が説明してくる。
「簡単にギルドの説明をさせていただきます。ヤナギ様はランクGとなっております。ランクはG~SSSまであり、同ランク以上の依頼をこなしていく事でギルド側から資格のある者にランクアップ試験を受けさせ、合格すると次のランクに昇格することできます。しかし、ランクCからはギルドに実力が認められた者だけが昇格することができます。クエストは自分と同じランクか1つ上のランクを受けることが出来ます。依頼はあちらにあるクエストボードから選ぶことができるので、こちらに依頼書を持ってきて頂ければ受けられます」
「なるほど...」
ギルド員はさらに...と続ける。
「他にも緊急依頼、指名依頼などがあります。緊急依頼はギルドや国からの全冒険者への依頼となり、指名依頼はその名の通り冒険者を指名した依頼となります。これから先、昇格することが出来ればこのような依頼も受けることになります。当然、ランクが上がれば報酬も多くなる代わりに難易度も上がり、失敗や死亡することもあるのでご留意ください」
「ああ、死なない程度に頑張るさ」
「あと...これから先、ランクを上げるのならパーティーを組むことになると思いますので、酒場などで他の冒険者と交流を深めておくことをお勧めいたします。また、ギルド内でのギルドメンバー同士のいざこざにおきましては、ランクダウンの罰則があることもあるので気をつけて下さい」
「そうか......相手から一方的にふっかけられた場合、闘うと罰則を取られたりするのか?手を出さずに殴られなくちゃいけないのか?」
「いえ、その状況により罰則が発生するかどうかを決めさせていただきます。その場合は対抗して相手を殺さない限りは罰則をかけられることはありません」
「そうか、良かった。殺さない程度に抵抗はできるんだな」
京介は冗談っぽく答える。
さすがに殴られて反撃できないというのは常識的にも無いようで安心したようだ。
「では、以上で簡単な説明を終わらせていただきます。他に細かいことはギルドの資料室にありますのでそちらを利用してください」
「資料室?」
聞き逃せない言葉だ。これから図書館がないか探そうと考えていたので、ギルドに資料室があるのなら、そこで調べることができるのではないかと思い、ギルド員に聞き返した。
「はい。あちらのドアの向こうが資料室です。その隣の奥は訓練場につながっております。魔物の情報や他にも多数書物を納めており、その中にギルドのことに関する本もあるのです。資料室は冒険者ギルドに登録した者ならば誰でも閲覧が可能になっておりますので気楽にご利用ください。」
「そうか...わかった。詳しいことは調べてみるよ」
そう言って、受付から離れる。
これは京介にとっては幸運だ。ギルドカードの作成が目的だったのに図書館を探すことまで完了してしまった。これなら明日から依頼の後に資料室でいろいろと調べることもできる。一石二鳥だなと考えて、今からでも調べるかと考えたが、
「.....いや、ますは衛兵のところに行くか」
そして、これからしばらくは拠点となるであろうギルドを出て行くのだった。