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町に入った京介はさっそく宿を探すことにした。
「ガレスさん、この町で安くて良い宿はないか?」
「ええ、知り合いの宿があるので御案内いたしますよ。その前に私の店に寄ってもらってもよろしいですかな?」
「ああ。ありがとう」
「いえいえ、これしきのこと私たちが受けた恩に比べれば軽いものですよ。では、まず私の店に御案内しましょう」
京介はそのまま荷馬車に乗ったままガレスの店に行くことになった。
町の中をざっと見ても地球の頃とはだいぶ違い、一昔前にタイムスリップしたような感覚を覚えた。違う所があるとすれば、それは魔法だろう。電気もガスも通っていないようなこの町を支えているのは間違いなく魔法による技術なのだろう。地球は魔法がなく、科学が発達したことで生活スタイルも科学の発展に合わせ変化してきたのだ。
しかし、この世界は違う。科学が無いかは分からないが、見る限りはこの世界で発達したのは魔法で、電気もガスも魔法で補っているようだ。見たところ、魔法に合わせた生活スタイルで、高層ビルの建ち並ぶ時代に生まれた京介には慣れるのに時間がかかりそうだと感じていた。
そんなことを考えていると、
「着きましたよ。ここが私の店です!」
そこには、大きく<アルビージ雑貨店>という看板を掲げたこぢんまりとした店があった。小さいながらも、綺麗に商品が並べられていて、100円ショップを彷彿させるような店だった。
「さあさあ、お入りになってくださいな。お礼を差し上げたい」
「では、ご厚意に甘えさせていただこう」
そう言って店に入る。
「ここには、私が各地で仕入れてきたり、冒険者から買い取った物、行商から買い取ったものなど幅広く置いてあります」
「ほ~、これは凄いですね。雑貨店なだけはあって本当に色々と置いてありますね」
「ふふふ、そうでしょう。これだけの種類のアイテムや武器を置いているのは私の店ぐらいですよ!まあその分、ランクでは劣るところもありますがね」
京介の言ったように、店の中には大量に剣やら槍、防具、アクセサリーなどが種類ごとに並べてあった。
「いや、これだけの量があればすごいもんだ。中には掘り出し物でもあるんじゃないか?」
京介が軽く笑いながらそう言うと、
「そうなんですよ! 私も鑑定しきれていないような品も実はあったりするんですよ!だから、キョウ殿にはお礼としてこの中から掘り出し物を一つ差し上げようと思っているのです。私は基本お客様に目利きしてもらっているのですが、今回は特別に私がお選びしようと思うのですが.....」
ガレスは少し興奮したように言ってくるが、京介には<大賢者の瞳>があるのだ。鑑定なら自分のスキルが一番信用できる。だから、
「いや、おれも目はいい方だと自負している。普通の客のように選ばせてもらうよ」
「ほぉ、そうなのですか。キョウ殿にも鑑定系のスキルをお持ちですかな? それではお手並み拝見ですな」
京介は、そう言うと店の品を見る。本当に多くのアイテムが置かれていて、普通ならどれがいいのか悩んでしまいそうになる。しかし、京介はそうはならない。その目は<大賢者の瞳>とリンクしているのだ、見るだけで視界に入るアイテムの情報が入り込んでくる。端から端まで見落とすことなく観る。
アイアンソード
ウッドソード
..........etc
「ふむ.....」
とりあえず、武器の棚にはそれほど目を引くようなものはなかったので次の棚をどんどん見ていく。
すると、1つのアイテムが京介の目を引いた。
「これは!.....」
《マッピング(指輪):魔力を込め続けることで、その時間歩いた所が地図となる。一度地図になると、いつでも見ることができる。[6級]》
(これは.....6級....かなり良いな。迷いの森で一番つらかったのも迷うことだったからな。これがあれば《道標》の必要もないし、これからも何かと役に立つだろう)
そう考えた京介はガレスに商品を渡す。
「これにします」
「見てない所もあるようだが、もうよろしいのかな? ふむ...これは!? 6級のアイテムとは.....いいものを見つけましたなキョウ殿。かなりのスキルをお持ちのようだ」
ガレスはこの短時間でこれだけのアイテムの中からこんなレア物を見つけ出した京介の手際、スキルに驚き半分、関心半分を感じていた。
「いや、運が良かっただけさ」
「いやいやご謙遜なさるな。素晴らしい手際でした。それでは、そちらは差し上げます」
「ありがとう。有効に使わせてもらうよ」
京介は、<マッピング>を受け取り、指にはめる。そして宿に行こうと考えたところで思い出した.....お金がないことに。そう京介はこの世界の通貨を持ち合わせていないのだ。このままでは宿に着いたところで門前払いをくらってしまう。そこで、
「すまない、1つお願いがあるのだが...」
「お願いとは?」
「実は森の中で全財産を失くしていてな。そこで物は相談なんだが、これを買い取って貰えないか?」
京介はかばんから森の中で採ったポーションの素材を取り出した。
「ふむ、グラスノコに薬草、魔力草ですかな?いいですよ、買い取らせていただきます」
「助かるよ」
ガレスは素材の状態、量を見ていく。
「状態も良く、これだけの量と質なら......10000Gほどでどうでしょう?」
ガレスはそう言うのだが、京介には相場はおろか、貨幣の価値すらまだ分からないのだ。
しかし、ガレスの人柄と今日の事も踏まえた上で値切るようなことはしないと考えて、
「商談成立だな」
ガレスから銀の硬貨を受け取った。どうやらこの銀色の硬貨1枚で10000Gの価値があるようだ。
しかし、お金は手に入ったが肝心の宿はいくらで泊まれるのかが分からないので、
「...ただ、おすすめの宿は一泊いくらなんだ?手持ちがこの通り銀貨1枚なんだが...」
「大丈夫ですよ。一泊で2500G。銀貨1枚あれば4泊は出来ますよ」
どうやらこれは銀貨ともいうらしい。貨幣に関しても調べておく必要があるようだが、ガレスの言葉を聞いて安心した京介は本格的に早く寝たくなってきたので、
「それを聞いて安心したよ。それなら宿に案内してもらってもいいか?」
「ええ、アニタ。キョウ殿を<風鈴亭>まで送って差し上げなさい」
「はい。じゃあ、キョウさん着いて来てください」
京介は頷き、アニタについて行った。
ーーー宿へ向かう道中、
「それにしても、森で全財産を失くしてしまうなんて.....」
アニタは京介が無一文になってしまったことを知ると、京介の運の無さに少し同情しているようだ。実際には元から持っていないのだが、確かに突然この世界にとばされた事を考えると不運なのは間違いないだろう。
「まぁ、今から稼げばいいだけさ。腕には自信があるしな」
「そうですよね。あれだけ強いならすぐに稼げますね! あ、ここです。ここが<風鈴亭>です」
そこには、少しボロいがよく見るとしっかり手入れがされている宿があった。看板は小さく、<風鈴亭>と書かれていた。
アニタは先に宿に入ると、
「アリマおばさ~ん! お客さん連れてきたよ~」
と、外にも聞こえるような大声を出していた。
少しして、京介も宿に入ると、
「アンタがキョウかい? 私はこの宿をやってるアリマというもんだ。話はアニタから聞いたよ! この子を助けてくれたんだって? ありがとうよ。この子のことは小さい頃からよく知ってる私にとって、わが子同然だと思っているんだ。だから、もう一度礼を言わせてもらうよ、ありがとう」
アリマはまるで自分が助けてもらったかのように深く礼をしてきた。京介からしてみれば、利害関係が一致したからこそ助けたので、第三者にここまで感謝されると何とも言えない気持ちになってきた。
「いや、こちらも森を彷徨っていたからな。お互い運が良かったのさ」
京介がそう言うと、アリマは気を良くしたようで、
「そうかいそうかい。 謙虚な男だね。 気に入ったよ!宿代はこの子を助けてくれたてことでサービスしてあげる。朝飯付きで1泊、銅板2枚でいいよっ!」
銅板2枚という聞きなれない単語に少々困ってしまったが、ガレスから3泊は出来ると聞いているので、大丈夫のはずだし、サービスで安くなっているようなので銀貨1枚を渡す。
「ありがとう。なら3泊頼めるか?」
「大丈夫だよ。話に聞く限り、だいぶ疲れているんだろう?部屋に案内するよ! アニタはもう帰りな」
銀貨を受け取ったアリマから、銅貨と銅板と思わしき物を受け取ると、アリマというように眠気はピークに達しようとしていたので、アリマの心遣いを快く受け取る。
アニタは「またガレス雑貨店に来てくださいね!」と元気に言うと店の方に帰っていった。
そのあと、京介は部屋の前まで案内されると、
「これが部屋の鍵だよ。この204号室がアンタの部屋になるよ。朝食は7時から9時の間しかやってないから、それ以降に来ても朝食は無しになるから気をつけておくれよ」
アリマはそう簡単に説明すると下に降りていった。
扉を開けると、6畳ほどの広さに棚、ベッド、机と置かれていて、簡素な作りの部屋だった。
「あ~もう限界だ.....」
京介は目の前のベッドを見ると眠気をさらに誘われ、そのまま倒れこむように眠ってしまった。
この世界に来てから突然の生死をかけた戦い続きで、気も抜けない生活を送っていた京介は町につき、宿という安息の地にたどり着いて気が抜けたのか、あっさりと眠りに落ちたのだった。