6
商人の2人を助けることにした京介は物陰から飛び出す前に、逃げている方も観ることにした。
「ついでに向こうも観るか....」
《ガレス・アルビージ》
性別 :男
年齢 :46
職業 :商人
種族 :人間
レベル:11
HP :98/98
MP :45/45
力:7
体力:10
知力:12
精神力:8
敏捷:7
運:5
≪パッシブスキル≫
交渉Lv3
馬術Lv2
小剣術Lv1
≪アクティブスキル≫
鑑定Lv3
剣技Lv1
《アニタ・アルビージ》
性別 :女
年齢 :10
職業 :商人見習い
種族 :人間
レベル:5
HP :65/65
MP :52/52
力:6
体力:8
知力:10
精神力:8
敏捷:6
運:5
≪パッシブスキル≫
交渉Lv1
馬術Lv1
≪アクティブスキル≫
鑑定Lv1
風魔法Lv1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっぱりオレのステータスって異常なんだな。<異界の恩恵>によるものだと思うけど」
京介は自分のステータスと比べ、レベルはたいした差がないのに圧倒的にステータスの差があることに自分の戦闘力の高さを再確認していた。
京介はステータスの高さが恩恵に依るものだと考えているが、実はそれだけではないのだ。恩恵を得たからといってステータスにこれほどの差は最初から生まれはしない。
ではなぜか。それはただ単に京介のスペックが地球にいた頃から高かっただけなのだ。京介は最初からかなりのスペックがあったのにも関わらず、恩恵によって更なる補正を得た結果としてこれだけの差が生まれていることに気づくことはなかった。
負けることはないことを再確認すると、ストレイウルフが前方の獲物に集中している内に静かに後ろから奇襲をかける。
「ギャッ!!」
ストレイウルフは背後からの槍の一閃にHPの全てを一瞬に削られた。
「えっ!」
荷馬車の後方に座っていた少女がこちらを見て驚く。
京介はストレイウルフを1体片付けると、奇襲での踏み込みの勢いのままストレイウルフ達の前、荷馬車の真後ろに回り込んだ。
回り込んだ京介は槍を構えながら、
「後ろの敵は片付ける! 前から敵が来るかもしれん、警戒はしておけ!」
京介はそう言うと、前方の敵に集中する。
「ガウッ!」
「ヴゥゥ!」
ストレイウルフ達も、突然現れた新たな敵に仲間の1体が瞬く間に倒されたので、京介を警戒するように唸りながら睨みつけてくる。
「ふん、相手が悪かったな狼共。オレのためにお前らは早々に死んでくれ」
「き、消えた!?」
京介はそう言って前に踏み込む。その踏み込みは素人の目には消えたように見えるほどのもので、一瞬でストレイウルフ達との距離を詰め、槍の間合いに引き込んだ。
「<向日葵>!!」
そう言いながら槍を振るう。この<向日葵>は足払いの技で相手の足元を槍で振るい崩す、柳一心流の基本技の一つだ。しかし、ユニークスキルにまで昇華した<柳一心流>の技は、その威力、鋭さ、速度を著しく上げていた結果、
「「ギャッ!」」
そのひと振りで足を斬るだけにとどまらず、下半身をかき消して2体の命を瞬時に散らした。
《レベルアップしました!柳京介はレベル12になった!》
「おっ、レベルアップしたか。それにしても技は初めて使ったけど、おかしいぐらい強くなってるな」
京介は自分の使った技の威力がかなり上がっていることに驚いた。ユニークスキルの力は普通のスキルに比べ、圧倒的な性能差があることを改めて認識した。
「あ、あの」
一瞬、状況を理解しきれずに呆然としていた少女だったが、すぐに復活して京介に話しかける。
「ん、ああ大丈夫だったか」
「はいっ!あの、危険なところを助けていただきありがとうございました!!」
(そういえば、日本語だな。こっちも日本語なのか? いや、<異界の恩恵>の効果か。自動翻訳ってのでこっちの言葉を翻訳してくれているのか)
お礼を言われている京介は言語が通じていることに、恩恵のスキルの効果に感謝していた。
実際、言葉が通じなかった場合、この世界で生きていくことは非常に困難を極めていたと思ったのだ。今まで考えていなかった事だが、翻訳の恩恵があったことに心から安堵していた。
「いやはや、娘共々、危ない所を助けていただき、本当にありがとうございました」
「・・・・・ああ、いや大したことはしていないさ」
商人の男がお礼を言うと思考の彼方から戻ってきた京介はそう答えた。
「いえいえ、本当にありがとうございました。私たちではストレイウルフを3体も同時に倒すことなど不可能でしたので必死に逃げていたのですが、あのままだったら追いつかれて確実に死んでいました。おっと名乗りのが遅れました。私はガレス・アルビージと申します。この子は娘のアニタです」
ぺこりと頭を下げる少女。
「アニタです」
「おれは柳京介だ。よろしく」
京介はあえて日本語の名前を言うと、
「ヤナギキョウスケ? 変わった名前ですな」
「そうか?言いにくいようならキョウでいい。知り合いはそう呼ぶ」
(やはり、日本名は珍しいようだな。本名は隠したほうがいいか?)
京介は予想はしていたが、ガレスの口調から日本名がこの世界では珍しいことが分かったので、あまり本名を話さない方がいいかと考えていた。
「では、キョウ殿。改めてありがとうございました。何かお礼がしたいのですが...」
「ああ、礼なんていらんと言いたいところなんだが、少しワケありでな。森の中を2日間ぐらい彷徨っていたものでな。町まで護衛するから載せて行ってもらえないか?」
京介は町の正確な場所を知らないので、ガレス達に連れてってもらおうと思ったのだ。
「おお、それは助かりますな。こちらもこの辺にはいないはずの魔物に襲われて、何かと不安なので願ってもみないことです。しかし、それではこちらが得するばかりですし.....そうだ! 町についたら私の店にいらして下さい。店の商品を1品お譲りしましょう」
「そうか、まあ貰っておけるものは貰っておこう。これで貸し借りは無し。町までよろしく頼むよ」
「いえ、こちらこそよろしくお願い致します」
「よろしくお願いします!」
ーーー荷馬車の中
「へ~、キョウさんは町に行くの初めてなんだ。それで迷ちゃったんだね」
アニタは京介が森で彷徨っていた頃の話をすると、何か納得したような顔をした。京介は転移魔法で森にとばされてしまったと少し嘘を交えた本当の話を語った。
「どういうことだ?」
「あ、そっか自分がどこにいるかもわからないんですよね。えっと、この森は<迷いの森>と呼ばれている森で、森が一定時間で成長して、正規のルートを知らないと迷って出られなくなるほどなんです。町の冒険者だって<道標>は必ず買うんですから」
「<道標>?」
聞いたことのない単語に京介は聞き返す。
「<道標>っていうのは、町にある大きな光石と共鳴して帰る道を光で教えてくれるマジックアイテムです。この辺境の町では必要不可欠ですよ。ほらこれですよ!」
《道標:町の光石の魔力を辿り、持ち主に町までの道を光で示す。[10級]》
「なるほどな。これは高いのか?ずいぶん便利そうに見えるけど」
京介は今まで、アイテムの情報に表示されていた[10級]が価値を示すのだろうが、よく分かっていないので聞いてみることにした。
「いえ、すごく便利なんですが、この町の光石を削ったものに、<追跡>のスキルを付与した10級のアイテムなので、安い方だと思いますよ」
「10級?」
「知らないんですか!?アイテムには下から、1~10の10段階にと分かれているんです。1級から10級でランクが下がっていって、4級でも国宝にもなるぐらいで、1~3級はSSランク以上の迷宮の最奥ぐらいにしかなくて、私は見たこともないんですけどね」
「あ~そんなんだったな」
「も~忘れないでくださいよ!冒険者ならダンジョンにもぐって一攫千金ぐらい目指しているんじゃないですかぁ?」
価値は1~10級までということも分かったが、ダンジョンというものは知らないので適当に言葉を返す。
「考えてはいるんだが、なんせ装備が10級の槍1本だからな。まずは装備を固めてからだな」
「それもそうですよね。だけど、キョウさんなら大丈夫な気もしますけどね。さっきも木の槍とは思えない一撃で倒しちゃったんですから」
「そうか?」
「そうですよ!Fランクのストレイウルフ3体を一瞬で倒しちゃうんですから」
「まあ、強さに見合う鍛錬をしてきたからな」
「そうですよね。でも、さすがに木の槍1本で森の奥に進んでいたら死んでましたよ。この森の奥地にはAランクの魔物もいるらしいですから」
「そうだったのか、そんな物騒な森にいたとはな。ここで出会えたのはお互いに幸運だったわけだな」
「そうですね」
アニタはそう言ってくすりと笑う。
たわいもない話を続けているとガレスが
「見えたぞ、<トロイの町>だ!」
京介は前の方を見るとそこにはこの世界にきてから、ずっと待ち望んでいた町があった。
「やっと...やっとだ」
京介はずっと探し、待ち望んだ町を前にして、無事にたどり着けたことに心から安堵していた。
あのままガレス達に会わなくとも見つけられたかもしれないが、未だに森を彷徨っていた可能性も大いにある。そう考えたら、生きて町にたどり着けたことにひどく安心すると同時に妙な達成感を得ていた。
町は予想していたものより小さいが、町には変わりなく、ここから新しい自分の世界が始まるのかと考えていると、町の入口についた。
「止まれ...商人か。ギルドカードの提示を」
衛兵と思わしき人が話しかけてくる。
「これを」
ガレスがカードのようなものを渡すと、
「確認した。そちらの2人も...」
京介は、ギルドカードも市民証も持ち合わせていない。
「どちらも無いのだが、どうすれば?」
「む、そうか。では、この書類にサインしてくれ。1週間以内にギルドに所属して、ギルドカードを発行しなさい。」
京介は書類を目に通し、サインする。
「はい」
「うむ。では、この腕輪をつけなさい。この腕輪には<契約魔法>が込められているから1週間経つ前にもう一度ここに来なさい。ギルドカードを発行できていれば腕輪を外そう。来なければ労働奴隷となるから気をつけなさい」
「了解した」
「では、くれぐれも面倒事は起こさないように、通っていいぞ」
「分かっているさ。ありがとう」
軽く会釈をして町に入る。
とうとう町までたどり着いた京介は町に無事着けた安心感からか、体が動かすのが怠くなり、ひどく眠たくなってきた。
「とりあえず今日はもう休みたいな...」
京介は誰にも聞こえないぐらい小さく呟いた。