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夜の森で心の奥底に眠っていた不条理や感情を爆発させ、泣き明かした京介は清々しい朝を迎えていた。
「ん~~、心の中を全部吐き出してスッキリしたからか、なんか今までで一番調子が良さそうだ...寝不足ではあるけど」
首を回し、伸びをした京介は体が軽くなった気がしていた。今までこの世界にとばされてからゴブリンを殺したり、殺されかけたりと気の休む間もなく、心の奥底に負の感情を閉じ込めていたが、それをすべて吐き出したことで、心に余裕が生まれ、いつもの落ち着きを取り戻していた。
「こんな生死の軽い世界で生き抜くためにも、死なないためにも力をつけよう。帰るための方法を探そう。不条理なことなんて今までにもたくさんあったんだ。地球に帰る方法を探すのにも情報がいるし、生き抜くためにもまずは町だ。」
京介は心の整理をし、この世界で生き抜く覚悟を決め、これから先のことは町を探してから考えることにした。
余った肉をかばんに詰め込み、京介は再び森の探索を始めるのであった。
「とりあえずは初志貫徹ということで今までのように西に進むか」
このまま西に進んでいいのかという不安はあったものの、京介は最初に決めたことを突き通すタイプの人間なので西に進んだ。
日もすっかり真上に上り始めた頃、京介は未だに町を探し出せずにいた。
「本っ当に全然見つからないな~、そろそろ見つかってもいいんじゃないかと思うんだけどな~」
昨日までの京介なら不安で押しつぶされていたかもしれないが、一夜で生きる覚悟を決めた京介には焦りはなかった。それに町が近づいている気がするのだ。
なにもただの勘だけで言っいるのではない。
先ほどから<索敵>の範囲内でゴブリンを見かける回数が大分減り、代わりにフォゴンのような食用にされる魔物など草食動物のような魔物に遭う回数の方が多くなってきているのだ。
このことから、京介は地球で得た知識からゴブリンの生息範囲や縄張りというエリアから比較的安全なエリアに近づいているのではないかと考えていたのだ。魔物の少ない安全なエリアになら町があってもおかしくないはずと京介は考えていた。
「うん、とりあえず飯にするか。焦って空回りしても仕方ないしな」
京介はここに来るまでで遭遇して血抜きも済ませておいた鹿のような魔物、バビンの肉をカバンから取り出してかぶりつく。 火で炙っておいたバビンの肉は塩気のないビーフジャーキーのような味がして、物足りない気はするが、贅沢が言える状況でもない。出来れば今日中に町を見つけたいのだ。
ここに来るまでにゴブリン11体、バビン4体、フォゴン5体を倒した京介は今レベル10になっていた。
地球に帰るためにも、生き抜くためにも力、レベルアップは必要不可欠になるので遭遇した敵とはなるべく戦うようにしていたのだ。
「レベルも上がってるし、町も近そうだし、順調に進んでいるしな」
心の整理と生き抜く覚悟を決めた京介は落ち着いて状況を判断していた。 昨日までとは違い、プラス思考が出来ていた。
食事をしながら、そんなことを考えていた京介はふと気づいた。
「これは.....」
《薬草:HPをわずかだが回復させる草。グラスノコと合成することでHPポーションが調合可能。》
「薬草か、そういえば<調合>の仕方が分からなかったんだっけか。冷静に考えてみればステータスから<大賢者の瞳>で調べれば良いだけだな」
ステータス画面から<調合>の項目についての情報を瞳から調べる。
《調合:専用の調合具と呼ばれる調合を行う道具を用いて<調合>を唱えることで調合できる。》
「調合具か...持ってるわけもないし、調合は町に着いてからか。素材だけ採っとくか」
食事を終えると素材を採取し、肉と一緒にかばんに詰め込んで探索を再開した。
探索を再開して、しばらくした頃にそれは現れた。
「う~ん、見つからん。近いとは思うんだけどなぁ。いったいどこにっ...これはっ!?」
<索敵>の範囲内に妙な反応を感じたのだ。
「何だ? 2体を3体が追いかけているのか?...ええい、見ないことには分からんな」
京介は反応の出た方に走り出した。
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「やぁっ! 急げ急げっ!!! 追いつかれたら終わりだぞ!! アニタっ、奴らは!!」
荷馬車を操る男が叫ぶ。
「だめだよ!! もうすぐ後ろに!!! このままじゃ追いつかれちゃうよ!!!」
荷馬車の後ろに乗っているアニタと呼ばれていた女の子はそう言い返した。
「くそっ!!! もう町が近いってのになんでこんな所にストレイウルフがいやがるんだ!!!」
男は馬を必死に急がせながら叫んでいた。
「バウバウッ!」
「ガウ!!」
「ガウッ!」
そのストレイウルフたちの後の物陰では...
「人だ! この反応はなんとなく敵性を感じないと思ったけど人だったのか! それに見たことのない魔物だな」
京介は今にも襲われそうな2人をよそに、<隠行>で気配を消し、冷静にどうするか考えていた。
異世界に1人で森の中にとばされた京介は元々の性格もあるが、何も考えずに無償で他人のために自らを危険に晒してまでを助けようとは考える、いわゆるいい人の思考は持ち合わせておらず、見たことのない魔物3体を相手にどう動くのが最善かを判断しようとしていた。
「とりあえずは観てみるか」
アナライズを使い、魔物の情報を知る。
《NONAME》
性別 :オス
種族 :ストレイウルフ
レベル:8
HP :85/85
MP :33/33
力:13
体力:9
知力:3
精神力:5
敏捷:13
運:3
≪アクティブスキル≫
追跡Lv1
牙攻撃Lv1
爪攻撃Lv1
《NONAME》
性別 :オス
種族 :ストレイウルフ
レベル:8
HP :77/77
MP :30/30
力:12
体力:8
知力:3
精神力:5
敏捷:13
運:3
≪アクティブスキル≫
追跡Lv1
牙攻撃Lv1
爪攻撃Lv1
《NONAME》
性別 :オス
種族 :ストレイウルフ
レベル:9
HP :92/92
MP :35/35
力:14
体力:10
知力:4
精神力:5
敏捷:15
運:2
≪アクティブスキル≫
追跡Lv1
牙攻撃Lv1
爪攻撃Lv1
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「うん、倒せない敵ではないな。あの2人ならどこに町があるか知っているはずだし、一緒に行動した方が何かと都合がいいか」
京介は相手のステータスを見て、負けることはないと判断し、この世界のことを知っているであろう2人と行動した方が町まで行くのには都合が良いと考え、助けるために動き始めた。