表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

season1過去-1



俺と彼女が出会ったのは、夜のビルの屋上だった。


「…こんな時間に何をしているんだ…?」


高いフェンスに腰をかけていた彼女は、無表情で振り向いた。

呟くように俺の口から漏れたその言葉は、果たして彼女の耳に届いていたのだろうか。


闇夜の中でも凛と光る彼女の瞳に吸い込まれてしまったかのように、俺はしばらく目をそらす事ができなかった。






恋人と夫婦と愛人、これらのような男と女の関係に、

果たして違いはあるのだろうか。


少なくとも、俺にはその答えがわからない。


42年もの間生きてきて、それなりの人並みの経験はつんできたが、

一向にわからない。

恋をして、お互いに惹かれあって結ばれるのは、至って自然で当然の成り行きであり、生物の本能だ。

何の束縛もなく、ただ自由に相手の心を読もうとする。

そうやって、駆け引きのゲームを楽しんでいるかのように。

この世で最も贅沢でスリリングなゲームである。



結婚すれば、その男女には様々な法律が付きまとい、

一生を区切られた空間の中で過ごす事になる。


しかし愛とは、紙切れ一枚の成約によって縛り付けられてよいものなのだろうか。


結婚とは、契約だ。

お互いがお互いを自分のものにするため、縛り付けあう。

それを幸せと感じるか、何かとてつもなく重荷になるととるかは、個人の自由だ。


しかし大抵の人間は、前者のために契約書にサインをする。



三つの例の中で、最も至極だと言えるのは、愛人という名の関係だろう。


ただの遊び(ゲーム)か、真剣な愛か。

真剣な愛であれば、これほど美しく純粋な愛はないだろう。

全てを捨ててでも、ただ一人を愛せる幸せを手に入れたその時、

きっと濃厚な愛の形がはっきりと見えてくる。


ざっとこんなような事が、俺の専らの持論だ。


おぼろげながらも恋愛観の概要はつかめているはずだ、


しかし、本能的に理解できるものなら、してみたい。


もうこの歳だ、今まで散々仕事に全てをかけてきて、気がつけば世間一般が望む「結婚」という普通の幸せというものを手に入れていなかった。


いや、結婚はしなくてもいい、


だけどせめてもう一度、

人生最後の誰かを愛する気持ちを感じる事ができればいい。




しかし今の俺には、結婚や恋愛には魅力を感じる事ができなくなっていた。


どうでもよくなっていた。



軽く伸びをしてため息をこぼし、再び目線をカルテへと移した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ