表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第二楽章後半の部 契約 2

 「ヨハン様。あなた様が薫様に行ったことは、愛しい人と永遠に生き続ける契約。そのことは承知しているのですね?」

 部屋に満ちていた静寂を破ったのは、呉葉だった。

 呉葉の感情が詰まった言葉に、私は頷いた。

 「もちろん。私は、薫を守るために。薫とともに生きたいって思ったから。そのことは覚悟している。あの場所で、彼と約束したんだから」

 私のことをじっと見ていたお母さんは目を瞑って、思い出すような口振りで、

 「陸は、昔っから、自分が決めたことは最後までやりきる子だから…。私たちが口止めをする必要もないわよね。薫くんには、そのこと伝えるの?契約自体のことは、まだ話してないんでしょ?」

 といい、お母さんはいつもの優しい笑顔と温かい声で問う。

 私は自分でもわかるように、はっきり言った。

 「うん。薫の状態が落ち着いてきたら話すよ。話して、知ってもらわなくちゃ、意味がないから」

 お母さんも呉葉も、じっと私を見据えた。

 少しの沈黙が続いた後、お母さんは頷いた。

 「わかったわ。このことは、陸に任せましょう」

 「了解だよ‼」

 私は再度、頷いた。

 だが、呉葉だけは、まだ表情が暗かった。

 「ん?どうしたの、呉葉?」

 「…………いえ」

 変な間があったことを私は聞き逃さない。

 「ないわけないでしょ?言ってみて」

 「ですが……」

 まったく……。呉葉は何か悩み事とか心配事があると、何でも一人で抱えてしまって、他人ひとに話そうとしないもんなぁ……。だけど…。

 「言ってごらん。それとも、今、君が考えていること、当ててみようか?」

 「い、いえ!話します!」

 私の挑発に乗った呉葉は、肩をびくつかせて姿勢を正した。

 その行動に私はニヤついた。

 「やっぱりなんかあるんだ~?」

 わざとらしく私は語尾を伸ばした。

 それを聞いた呉葉は、とうとう俯いてしまった。

 しかも、嗚咽までもが聞こえてくる。

 や、やばい……!このままじゃ……!

 「ご、ごめん!悪気はなかったの!だから泣かないで!ね‼」

 必死の弁解に呉葉はゆっくりと頷いた。

 

 よ、よかったぁ……。呉葉が泣いたら、やばいもんなぁ……。この前も、炎天と呉葉が喧嘩して、炎天の鶴の一声で呉葉が泣いてしまって、もうこの世にないくらいの大泣きで、その鳴き声は音田家全体を震え上がらせるぐらいで……。泣き止ませるのにどれだけ時間がかかったか……。


 そんなことを思い出しているとは、もちろん呉葉は気付かず、ただ、ゆっくりと口を開いて行く。


 「ヨハン様……。あなた様には重大な役目が二つあり、そして新たにもう一つ増えました。一つ目は、この近畿三大不良組から権力を奪おうとする組から音田家を守ること。二つ目は、スフィアエレルカ国を守るということ。そして新たに加わった三つめ、薫様をずっとお守りすること。こんなにたくさんのことを背負って、ヨハン様の体に負担が重なり、突然倒れたりでもしたら……!」


 呉葉は心配するような目で訴えた。私を守ろうと必死になる呉葉のまっすぐな瞳。

 そのことも私はすべて理解していた。覚悟していた。

 呉葉の瞳を私もまっすぐ見つめ、言った。

 「大丈夫。そのことも考えて言ったんだから。私にとって、音田組もスフィアエレルカ国も大切な家なんだから。大切な人―――薫も守るって決めたから、あの契約を交わしたんだ。そのことも君は心で頭で分かってくれるよね?」

 呉葉が心配する目から変わって、ほっとするような、でもどこか強い意志を持った瞳に変わり、こくりとまた頷いた。

 「わかりました。わたくしはヨハン様を信じます!ヨハン様をお守りするために、私はここにいるのですから!」

 その言葉で場の空気が少し変わる。

 暗い静寂な空気から少し緩く落ち着いたような空気に変化したのが感じ取れた。

 その落ち着いた空気の中。


 スースー


 「「「ん?」」」

 私たち三人は声を揃えて、同時に首を傾げた。

 聞こえてきたのは、寝息。

 もちろん、私たちの中で寝ているものは誰一人としていない。

 ?寝息?なんで寝息なんか聞こえてくるんだろ?この部屋には、私とお母さん、呉葉しかいないはずなのに?

 数秒ほど、三人とも耳を傾けて寝息の正体に思考を巡らせていた。

 そして、寝息の正体は。

 

 「「「あ」」」


 正体は、私の膝の上で猫のように体を縮こまらせ、その膝枕で気持ちよさそうに寝ている氷牙だった。

 話に意識が集中してしまったあまりに、氷牙の存在を忘れていたようだ。

 私たちは顔を見合わせた。

 「氷牙のこと、すっかり忘れてた……」

 「ヨハン様、ひどいです」

 「そうよ、陸。氷牙くんのこと、忘れるなんて」

 「なんで私だけ責められなきゃならないの!?二人だって同罪じゃん!?」

 「「氷牙が起きる(起きます)」」

 「…………」

 二人の同時攻撃に、私は堅く口を閉じた。

 一対ニは卑怯でしょ……。

 「それより、氷牙を{吹雪の間}に連れて行ったほうがよいのでは?」

 「そうね。陸、お願い」

 お母さんはウィンクしながら、両手を合わせた。

 私はそんな頼み方に溜息をついた。

 「わかったけど、お母さん、その頼み方やめてくれない?普通に手を合わせるだけにしてよ」

 私の意見にお母さんはきょとんと首を傾げた。

 「え?だって、こうしたほうが、陸は何でもしてくれるから」

 「正直やめてほしい」

 「いいじゃないの。スキンシップとして」

 「は?」

 「まぁまぁ、早く氷牙くんを部屋まで連れて行ってあげて」

 「はいはい」

 私は少ししんどそうに返事をし、氷牙を起こさないように姫抱っこし、氷牙の部屋である{吹雪の間}へと向かった。


 {吹雪の間}に行く間も氷牙は寝息を立てて、気持ちよさそうに熟睡していた。

 その彼の寝顔を見て、私はふっと笑った。

 「氷牙。君たちパートナーも絶対に私が守ってあげるからね」

 そう言って、彼の額にキスを落とし、

 「おやすみ」

 と、一言言って、そのあとは静かに{吹雪の間}へと歩みを進めた。


 「薫?」

 私は氷牙を{吹雪の間}に寝かした後、薫がいる{蒼穹の間}へ戻り、彼の様子を見に来たのだ。

 しかし、そこに薫の姿はなかった。

 あるのは、広い部屋の中央に敷かれた一つの布団のみだ。

 「薫、どこ行ったんだろ?トイレかな?」

 そう思った私は、一階から三階までのトイレを全部見て回った。

 だが、どこのトイレも電気は付いておらず、真っ暗だった。

 「どこに言ったの…?薫……」

 一階へと戻る階段を降りながら呟いた瞬間。


 「うわ―――っ!!!!!!」


 「‼」

 突然、誰かの大きな悲鳴が家中に響いた。

 幸いなことに、この音田家には音や魔法なども消し去る強力な結界が張られているため、悲鳴が届いたのはこの音田家の広い敷地内のみで、周りの家には聞こえていない。

 今の声……。薫……!

 悲鳴が聞こえた方向は、一階の書斎の方から聞こえた。

 近くには、炎天の部屋{火炎の間}がある。

 急いで一階に下り、書斎に向かうと、炎天が微動だにせず立ちすくんでいた。

 「炎天!一体どうし……た……の……」

 私は目の前にある光景に走る足を緩める。立ち止まる。

 「……っ!」

 私はその光景に、目を見開いた。

 「どうしたの!?何があって……」

 悲鳴を聞きつけたのか、炎天を除くパートナーたち、お母さん、お父さん、組員の者たち、目を覚ました氷牙を加えた全員が廊下を走ってきた。

 しかし、お父さんがこの光景を見た瞬間、

 「うわっ‼」

 と、足を止めた。それに続いて他のみんなも走る速度を落としていく。

 そして、みんなが足を止め、今の光景を凝視した。

 見たくもない、疑いたい、信じたくもないこの光景を。

 「き…、きゃーっ‼‼」

 お母さんが悲鳴を上げた。

 私たちが見たものとは、月光に浴びて淡い光に照らされた首筋から大量に血が流れている、薫だった。

 そして、もう一人。

 薫を肩に抱いて、口元から血を垂れ流す細身の女の姿があった。

 こんな女の人、音田組にはいない!

 女が腕を離すと、どすっと鈍い音を立てて、薫を床に落とした。

 廊下には、薫の血がどんどん大きく広がっていく。

 「薫‼‼‼」

 私はすぐさま、薫のもとに駆け寄った。

 倒れている薫からは、普通の人間が見たらすぐに目を逸らしてしまうだろうほど、首筋から大量の血が流れ出ていた。

 私は薫を抱きあげる。

 その体は、力が抜けているからか、とても重く感じた。

 「薫‼‼しっかりしてよ‼‼ねぇ‼‼」

 必死に呼びかけると、うっすらと薫の目が開く。

 だけど、その瞳はいつもの優しさの炎が消え去り、虚ろな瞳となっていた。

 「り……く……?」

 「薫‼」

 細々と聞こえた薫の声に、私は涙が出る。

 虚ろな瞳だが、彼には分かったのだろうか。弱弱しい、でもどこかやさしい笑顔で私の涙を彼の細い指で拭われた。

 「な……に……、その……顔……?僕…は……大…丈…夫…だ……から……」

 「今は喋らないで‼今すぐその血を止めるから‼」

 「う……ん……」

 涙を堪えながらはっきり言うと、薫は小さく頷いた。

 彼の反応を確認した私は、薫をゆっくりと私の瞳と合わせるように首を動かした。

 「?」

 「ちょっと眠ってもらうよ」

 そう言い、私は薫の目を見つめた。

 すると、薫の瞳に映っている私の目は、だんだんと淡い水色の瞳に染まり、じっと薫を見つめていると。

 「………」

 薫はまぶたを閉じ、寝息を立てた。

 今使ったのは催眠魔法スリープマジック [妖精雲フェアリークラウド]。

 目を合わせた相手は、最短で二日。最長で一週間眠り続ける強力な魔法だ。

 これを使えるのは、ヴァンパイア界でも数少ないらしく、使えるのは、私と母のスクラルド、双子の従兄の空瑠と海瑠だけだと私は母からは聞かされていない。

 薫が眠ったのを確認した後、血が出ている肌白の首筋に右手をかざす。

 そして、

 「聖水セイントウォーター

 と、魔法の名を唱えた。

 すると、右手が白く光り始め、薫の首筋に付いた傷が少しずつ塞がり、きれいに治る。血ももう流れていない。

 この魔法は治癒魔法ヒールマジック [聖水セイントウォーター]。

 どんな深い傷や大きな怪我でも治せる治癒魔法。体内の構築をも治す。だから、血液が大量に出ていてもこの魔法を使えば、血液も元に戻り、もとの体までに戻すことも可能なのだ。

 この魔法はヴァンパイアなら誰でも使える簡易で基本の魔法だ。

 すると、

 「ふふっ」

 笑い声が聞こえた。

 振り向くと、薫を襲ったであろう女が不敵な笑みを浮かべて、こちらを見ていた。

 女は不敵な笑みのまま口を開く。

 「あらあら。さすがはヴァンパイア界スフィアエレルカ国の姫、スクラルド・エレルカ様の娘だこと」

 そのとき、後ろからヒョォっと冷たい空気が漂ってきた。

 私は後ろを振り向いた瞬間、目を見開いた。

 そこには、冷たい冷気を身にまとい、それと同じぐらいの冷たく鋭い瞳をしたお母さんがいた。

 あまり怒らないお母さんだが、本気で怒ると、何らかの魔法がお母さんの周りに現われる。

 今回の場合は氷属性のようだが、私が小学生のころ他の組が襲撃に来た時、組員たちの目の前で怒りを見せていた。あのときは、確か、雷属性のはずだった。

 お母さんは冷たい冷気を身にまとったまま、私の一歩前に踏み出た。

 そして、その冷気に比例するぐらいの冷たく低い声で、

 「てめぇ、誰だよ。私の大事な娘の友人を傷つけるなんて」

 と言った。同時に女を睨みつけた。

 すると、女は不敵な笑みから不気味な笑みに変えて、

 「わたくし?わたくしのことをスクラルド様は知らないなんて!?いいでしょう。名乗りましょう。私はヴァンパイア界シモリベラ国の国王補佐を務めているリン・メルと申します。以後お見知りおきを」

 と言った。

 リンという女は柔らかい白い髪に水色のきりっとした目が特徴的な女、いや、正確にいえば少女と言ってもかまわない容姿だ。

 リンは、胸の中心に右手を添え、深々と礼をした。

 私は、リンが名乗った時に言った『シモリベラ国』という名前を思い出す。


 ヴァンパイア界には五つの大きな国で成り立っている。

 お母さんが生まれた国であり、私が将来治める国でもある、現・エレルカ家の主、ブラス・エレルカが統治する国、『スフィアエレルカ国』。

 お母さんの実姉じっし、ミハイ・サルレカ(旧姓 ミハイ・エレルカ)王妃がいる国で、私の従兄空瑠と海瑠(ヴァンパイア界での名 ディアンとシュアン)が将来治める国でもある、現・サルレカ家の主、シュラ・サルレカ国王が統治する国、『メフィスサルレカ国』。

 現・リベラ家の主、リオ・リベラ国王が統治する国、『シモリベラ国』。

 現・アフェクト家の主、エオル・アフェクト国王が統治する国、『セインアフェクト国』。

 現・カルラ家の主、レイル・カルラ国王が統治する国、『マースカルラ国』。

 五国はとても仲が悪く、たったニ国で親戚同士にあたるスフィアエレルカ国とメフィスサルレカ国だけが親交が深く、仲が良かった。

 だが、あとの三国は親交もなく、残りの二国のことも敵対している。

 国王たちの【五国国王会議】でも、貿易をするかしないかの賛否も分かれており、親交を深めるか深めないかの賛否も分かれている。

 

 今はそういう状況だとお母さんからは聞いていたが。

 それよりも、なぜこいつは薫を襲ったのだろうか?私にはそれが理解不能だった。

 そこで、私は単刀直入にリンに聞いてみることを試みた。

 「そのシモリベラ国国王の補佐がなぜあちらの世界からこちらの世界に来たんだ?なぜ薫を襲ったんだ?それにこの音田組の敷地の周りには強力な結界が張ってあるというのに、なぜ侵入できた?」

 質問になぜかリンは答えない。

 不気味な笑みで私たちを見ているだけ。

 「組員全員に命令だ。お前たちは家の外に出て、警備態勢に入れ。もしかしたら、こいつ以外にも何かが来るかもしれない。急いで警備を開始しろ!」

 『お、オッス‼お嬢‼‼』

 私は、総勢五十人の組員たちに命令を下した。

 組員たちは一斉に音田家の外へ飛び出し、警備態勢に入っていった。

 それを見送った私は、次にその場から一歩も動かない炎天に、

 「炎天。お前も月光たちの中に戻れ」

 その声で我に返った炎天はすぐに私の後ろにいるパートナーたちの輪の中へと戻った。

 戻ったことを確認した私は、治癒を終えた薫をすぐそばにいた月光に抱かせるようにし、再度リンに向き直る。

 「さあ。さっきの質問に答えてもらおうか」

 次の瞬間、リンの姿が消える。

 驚いた私は一歩も動けなかった。

 すると、右耳のほうからリンの声が聞こえた。

 「知りたいですか?」

 可愛い声で話す彼女は、いつの間にか私の隣にいた。

 驚く私をよそに彼女は続ける。

 「こんな結界なんか私は簡単に通ることができますわ。まぁそれは置いといて……。この人間界にあのスクラルド・エレルカ様の娘が愛している人間の男がいるとの情報がありまして。【五国国王会議】でその男を殺そうという意見が上がりまして、その意見に国王全員が賛同し、代表として私、リン・メルが配属されました。なぜ殺そうとなったのか、それは、あなた様が必要だからですよ。ヨハン・エレルカ様」

 「!?」

 「あなた様にはとても強い、ヴァンパイア界でも頂点に立つほどの魔力ちからを持っているのです。あなた様がいれば、その魔力ちからで何もかもがうまく行き、ヴァンパイア界は平和になり、人々は安心して暮らすことができる。だけど、あなた様にはすでに永遠に一緒に生きたい愛する人と契約を交わしている。それを魔法水晶で見ていた五国国王様たちは、自分たちの未来に大切な方が奪われると思い、あなた様の愛しい人、空野薫を殺そうとなったのです」

 「なんか矛盾してないかしら?」

 話の仲裁に入ったのはお母さんだった。

 「何がです?」

 リンが怪訝な顔になって問い返した。

 お母さんは冷たい瞳のまま言った。

 「今の五国は貿易も親交もないぐらい仲が悪い。なのになんで、私の娘である陸の愛しい人、薫くんを殺そうとなったとき、五国とも賛同したの?」

 それにリンは怪訝な顔のまま言った。

 「だから言ったでしょ?ヴァンパイア界を変えるのは、ヨハン様なのだと。そのヨハン様があちらの世界に帰ってきてくれる方法は、愛しい人を殺すことだと。私たちは人間が憎いのです。私たちのような怪物を見ると、排除しようとする人間が憎い。だけど、ヨハン様は違う。たとえ人間とヴァンパイアのハーフだとしても、ヴァンパイア界を救ってくれる唯一の方なのですから。それと、もうひとつ加えておきます。憎いのは、スクラルド様。あなたもです」

 「え?」

 「あなた様はヴァンパイアの王子と結婚せず、ヴァンパイア界を捨て、人間の男と結婚した。あなた様はヴァンパイア界を私たちを裏切った‼‼」

 耳元で言われたことで、その大声が鼓膜を強く振動させた。

 うるせぇ……。

 心中イラついていると、リンは私から身を離し、もといた場所へ素早く戻った。

 「まぁ、ヨハン様が契約を交わした人間の少年、空野薫。あの子あんなにたくさん吸ったのに死ななかったのは正直驚きましたわ。でも彼、結構かっこよかったんですけど」

 リンは悪戯っぽく笑った。

 「あんたね……!いい加減に……」

 お母さんはリンに近づく……ところで足をとめた。

 なぜかというと、

 「いい加減にしろよ」

 私がお母さんの前に出たからだ。

 「陸?」 

 驚いた顔で私を見るお母さんに私は微笑み、リンに向き直る。

 「聞いていりゃあ散々言いやがって。ヴァンパイア界を守るために私が必要だ?ふざけんな。私は自分の意思で薫と契約を交わした。だけど、薫が本当のところ私をどう思っているのか分からない。だけど、一つだけはっきり言える」

 ギンッと私はお母さんよりも冷酷に冷たい目つき、自分でも目の色が変わっていることがわかる。目の奥から強い魔力が感じるから。海のような青く染まった瞳で、すべてを貫き通すような力強く、反発することもできないような目で言った。

 

 「薫をお前らに殺させねぇし、もう傷つけさせもしねぇ‼そんなふうに国を守るやなんやお前らが勝手に決めんな‼決めるのはこの私だ‼薫や智との約束も必ず守って見せる‼」


 私はリンを睨みつけながら言った。

 しかしリンはそれに怯えたそぶりも見せず、またニヤッと不気味に笑った。 

 「ふふふ……。わかりましたわ。今日はこれぐらいにしておきましょう。でも、命令は変わらない。また会いましょう、ヨハン様」

 そう言ったリンが指をパチンと鳴らしたと思ったら、その姿を一瞬にして消した。

 静まり返る音田組。

 それに反するように、廊下からどたどたと騒がしいぐらいの足音が聞こえてくる。

 「お嬢‼あれから、あの女意外来る奴はいやせんでした」

 「そうか。なら、いい」

 組員の一人の報告に、私は短く返した。

 また訪れる静寂。

 春のまだ肌寒い夜風がその場に止まっている私たちの頬を撫でまわす。

 「陸?」

 元の姿に戻ったお母さんが一歩も微動だにしない私の両肩に優しく手を置いた。

 それでも私は顔を向けなかった。

 一体これからどうしようかと。

 私の本当にしたいこととは何なのか。

 頭の中でそれがぐるぐると回り続ける。

 答えはすぐに出た。

 私がこれからしないといけないこと。

 「ヨハン様?どうなされました?」

 水狼の声が聞こえた時、私はゆっくりと振り向いた。

 目の奥から感じていた魔力は消え、目の色も元に戻っているだろう。

 私は意を決してお母さんとお父さんの前に立ち、口を開いた。

 「お父さん、お母さん、みんな。私、決めた」

 「陸、決めたって何をだい?」

 お父さんは首を傾げた。

 私は自分の導き出した答えを伝えようと決めた。

 今後のことを。

 やりたいことを。

 やらないといけないことを。

 「この音田組、そして、薫や智、これからの仲間、空瑠や海瑠、みんなを守る。たとえどんなことがあっても自分の家や家族、友達、親戚は守る。もちろん、スフィアエレルカ国も守るよ?あそこも一応私の家なんだから。……だけど、さっきの奴の考えには絶対に従わない。自分の道は自分で決めるんだから」

 強い口調で言った宣言にその場にいた全員は目を丸くした。

 みんなそんなことを言うとは思っていなかったようだ。

 「陸、本気か?」

 お父さんは少し不安げに聞いてきた。

 そんなお父さんに私は微笑みながら、言った。

 「私は守りたいって思ったものは絶対に守りきる。だけど、国王たちの前に立つにはお爺様に王子として育ったことを認めさせないとだめなんだけどね……。あ、でも、国王全員がその【五国国王会議】ってやつで全員集まっているのならば、全員の前で王子となった私の姿を見せればいっか!それは置いといて。私は、国王たちの手のひらで踊らされず、安全に五国を仲良くさせるようにもするしね」

 『ヨハン様‼‼‼』

 パートナーたちは声を揃えて、抱き合い、喜んだ。

 お父さんとお母さんは笑顔で私の頭を同時に優しくなでた。

 「陸、何か困ったことがあったら、いつでもお父さんとお母さんに言うのよ?」

 「お前は私たちの大切な娘なんだからな」

 「うん‼」

 「ヨハン様」

 後ろから、私を呼ぶ声があった。

 振り向くと、月光が近くに来ていた。

 「どうした、月光?」

 「薫様や智様のこと、これからのことも私たちにお任せください。お助けします。私たちはずっとお傍でヨハン様に仕えていきます」

 月光は黒い瞳で私をじっと見つめて言った。

 私は月光の言葉を聞いて、ふっと笑った。

 「もちろん、お前たちに任せようと私も思っていた。全員に命令だ!何があってもこの音田組を守り、権力を奪おうとする組も、どんな悪いやつらからも守り抜け‼そして、絶対に手のひらで踊らされずに、つきすすめ‼」

 『オッス‼‼お嬢‼‼‼』

 『ヨハン様、仰せのままに‼‼』

 今日一日大変なことがあったが、私たちの一日は終わった。

 二日後。

 また大変なことが起こるとも知らずに――――。



 


 ヴァンパイア界中心部 セイレン塔会議室


 【五国国王会議】と書かれた弾幕がある会議室にわたくし、リン・メルは戻った。

 「ただ今戻りました」

 「おお、リン。戻ってきたか。待ちくたびれたぞ」

 「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

 私の前にいるこの方は、シモリベラ国国王、リオ・リベラ国王様。

 リオ国王様の左側の席から順番に、スフィアエレルカ国国王、ブラス・エレルカ国王様。

 メフィスサルレカ国国王、シュラ・サルレカ国王様。

 セインアフェクト国国王、エオル・アフェクト国王様。

 マースカルラ国国王、レイル・カルラ国王様。

 五国国王様全員が会議室に置いてある革製の椅子に腰かけており、その隣には国王様の補佐がそれぞれ就いていた。

 「それで、ヨハン様はどうじゃった?」

 エオル国王様がご自慢の長いお髭を触りながら聞く。

 私は先ほどのことを思い出し、自然に笑みがこぼれた。

 「私たちの考えにひどく否定しておりました。国王様たちがおっしゃっていた空野薫という名の少年も、たくさんの血を吸ったのですが、殺すことはできませんでした」

 「なんと」

 ざわめきだす国王様たち。

 パンパン!

 どこからか手を叩く音が聞こえた。

 「皆さま、落ち着いてください」

 声のしたほうへ向くと、そこには背が高く細身の男性が涼しい顔をして立っていた。

 彼はレイル国王様の補佐官、ポセイ・シルラ。

 細身の体に黒の短い髪の青年だ。

 ポセイの声に室内が静まりかえった。

 「リン。ヨハン様は本当に我々の意見を否定していたのですか?」

 ポセイの赤い瞳が私を見る。

 私は頷いた。

 「ええ。だれも反発することができないような瞳で言ってたわ」

 「そうですか」

 しばらく考えるポセイは、自分の国王様にこう言った。

 「レイル国王様。次は私がヨハン様のもとへ参ります」

 「おいおい、本気かよ」

 ポセイの言葉に信じられないとでもいうかのように入ってきたのは、シュラ国王様の補佐官、アルミス・イオ。

 金髪の綺麗な長い髪を一つにくくり、身長はポセイとあまり変わらない高身長、緑色の切れ長の目をした青年。

 「お前さ、リンの話聞いてたか?反発するような目で睨まれて、しかも否定までされてるんだぜ?結局同じ結果になるだけだろ?」

 「それは直接行ってみないとわからないことです」

 「ポセイ」

 二人の話の間にレイル国王様が声を発した。

 ポセイがレイル国王様のほうを向くと、

 「行って来い」

 と、国王様は言った。

 「言って、次こそヨハン様を納得させ、ここに連れてくるのだ」

 「かしこまりました」

 ポセイは深々と頭を下げた。

 「お、おい!ちょっと待てって……」

 「アルミス」

 アルミスがまだ何か言おうとするとき、シュラ国王様が制止させた。

 「見苦しいぞ。ここはポセイくんに任せようじゃないか」

 「………」

 アルミスは悔しそうにそっぽを向いた。

 「ありがとうございます。シュラ国王様」

 そう言ったポセイは、会議室から出ようとする。

 「ポセイよ」

 レイル国王様が彼を呼びとめた。

 ポセイはドアノブに手をかけたまま動きを止めた。

 「何でしょうか?」

 「くれぐれも気をつけて行けよ」

 「……はい」

 短く返事を返したポセイは、会議室から出て行った。

 バタンとドアが閉まったと同時に、

 「ポセイさん。本当に大丈夫なんでしょうか」

 少年がぼそっと呟いた。

 彼はブラス国王様の補佐官、アドニス・キオラ。

 身長はポセイとアルミスよりは低い、オレンジの髪に紫の瞳の少年だ。

 彼はこう見えて、十九歳である。

 「ポセイは冷静沈着だけど、ヨハン様に直接会ったらどうなるか、わかんないしね」

 アドニスの心配に答えた彼は、エオル国王様の補佐官、シガル・メア。

 こちらも長身の好青年で、黄緑色の短いストレートの髪に金色の優しい瞳、両耳に魔法石がついたピアスをつけている。

 シガルはアドニスと同じ十九歳。ちなみにポセイはニ十歳はたち、アルミスと私は十七歳である。

 ヴァンパイアは百歳を超えても千歳を超えても容姿はそのままだといわれているが、この世界はあちらの世界と似ている構造で、寿命だってあるのだ。

 でも、長生きは千歳越えなんだけど。

 「大丈夫でしょ?ポセイなら。ね、アルミス?」

 アルミスに話を流すとアルミスはまだそっぽを向いていた。

 「あいつがどんな方法でヨハン様を連れてくるのか……。ポセイを信じましょう」

 レイル国王様の言葉に全員は頷いた。

 さて、ポセイ。あなたがどこまでヨハン様を口説けるか、見ているわよ。

 私は口辺をあげ、ポセイの帰りを待った。

  

 

 

  


 

 


 

 


 

 


 

 


みなさん、どうも!海瑠です!

この第二楽章、長編すぎて文字数がおさまらず、「前半の部」「後半の部」に分けて書きました‼

自分でもその長さに驚きですが……。

さて、今回は薫と陸、そして智が久々に登場しました‼

これから智くんも登場するので、楽しみにしていてくださいね‼

陸たちの話が終わると、次はヴァンパイア界での話になります!

この話はこれから最後につけようと思いますので、よろしくお願いします!

さてと、第二楽章も終わったことだし、二週間ぐらいは休もうかと思っていますが、やめるわけではないのでご安心を。

薫や陸たちをどうか温かい目で見守ってください。

では、皆さまがこの作品を読んでくれること。そして、また出会えることを願ってGooD Luckです‼‼

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ