case1-7
鋼叶夢と加納美咲は廊下に立たされていた。
一昔前の、アニメやテレビドラマで見かける校則違反への罰則だった。
滑り込みセーフで校門を過ぎたものの、出席確認に間に合わなかった二人の末路であった。
叶夢
「信じらんない・・・。」
美咲
「ねー、ちょっとオマケぐらいしてくれたってー」
叶夢
「そうじゃなくって!
あのおっさんのとこに来てから全部メチャクチャ!」
美咲
「おっさんて・・・ツトムちゃんの事ぉ?」
近所でちょっとした有名人である鋼努は、小さなころからこの町にいる学生等にも『ツトムちゃん』と呼ばれ知られていた。
叶夢
「ツトムちゃんって・・・。
パパが海外に転勤して、この町に来てから、いい事ゼロよ!
前の学校ではスポーツ万能で成績も優秀で、遅刻欠席ゼロだった私が、転校一か月でこのザマ!」
美咲
「アハハ・・・ツトムちゃんのせいなのそれ?
でもいいじゃん?毎日楽しそうで!
ツトムちゃんの話してる時のカナって一番イキイキしてるし。
それに、ツトムちゃん、よく見るとイケメンだしさー。」
美咲が小馬鹿にするように言うと、叶夢はぐったりとうなだれた。
美咲はフフンと笑って続ける。
美咲
「でもさ、うらやましーよ。
ウチは片親で、ママは夜中まで帰ってこないし。
私みたいに悪ーい友達と夜までギャアギャアやってるより、暖かそうだもん。」
そういった美咲の言葉に、ふっと目線を上げた叶夢の目に、どこか寂しげな美咲の表情が映った。
二人の通う学校は一応進学校であったものの、
なんとか入学したものの徐々に勉強についていけず落ちこぼれて行った美咲と、転入当初から柔道でのスポーツ成績、学業ともにトップクラスであった叶夢。
見た目以上に、同じ学校の生徒とは思えない環境の差が合った。
それでも、転入当初からきさくに話かけてくる美咲に、叶夢は友情を感じていた。
朝のホームルームが終わる始業のチャイムがなった。
担任が、二人の立っている廊下沿いの教室のドアから顔をだす。
玉城弾という、生活指導と体育の教師を務める中年男だ。
浅黒い肌は健康的なそれとは違い、どこか不潔感を漂わせ、シミだらけのヨレヨレのジャージが一層不潔感を際立たせている。
玉城
「二人とも反省したなぁ?」
叶夢
「はい。」
美咲
「ッチッ。はーい。」
玉城は舌打ち混じりに間延びした返事をした美咲を睨みつけた。
玉城
「次、遅刻したら、トイレ掃除だかんな。
加納は終業後、体育教官室に来るように。」
美咲は嫌悪感を全面に押し出した表情で応えて教室に戻り、叶夢もあわてて後を追った。