帰宅
「つ、つかれた」
ただいまの場所、森。天気、雨。ただいまの時刻約7時。ここから急いで帰ると大体15分くらいだろうか。走って行ってもずぶ濡れ確定だな。走って帰るけど。
「た、ただいま」
俺は当たり前だがお疲れ状態。リックはすごいな。戦っている魔物の量は知らないが、帰ってきても全然疲れている素振りを見せないし。
「おかえりー。お疲れさーん」
リックだ。なんかこの声を聞けただけでもうれしいね。
「あ、おかえり。って、お兄ちゃんずぶ濡れ!ちょっと待ってて!」
シャミだ。見てるだけで和む。この子が俺に憑けてくれた魔王には感謝しよう。
「雨降ってたんだ。気づかなかった」
「もう土砂降りでな」
「ケガ大丈夫?」
リックが俺の顔を見て心配そうな表情を浮かべ聞いてくる。
「残念ながらだいじょばないな。ちょっとケガしすぎちゃったわ」
俺は苦笑いして答える。しかし、リックは慌てて
「そ、そんなこと無いと思うよ!転生悪魔で初めての狩りでこのケガの量は全然少ないと思うよ!」
転生悪魔?なんだそれ。大体予想つくけども。
「お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないって。ほら」
リックがペロンと服を捲り背中を見せてくる。リックの背中は傷でいっぱいだった。
「お前、それ」
「うん、ケガ。ほとんどが小さい時に喰らったやつ。こんなのと違ってさ、ロイは全然ケガしてないんだからその事誇ってもいいと思うよ」
「……ありがとよ」
しばらく俺たちが玄関で話していると、シャミがバスタオルを持って戻ってきた。
「お兄ちゃん、ここに座って。頭拭いてあげるから」
といい、タオルを広げた床を指差した。
「いいよ、自分で拭くから」
「いいから早く座って!」
「はいはい」
俺は渋々そこに座った。ちらりと見えたリックは苦笑の表情を浮かべていた。
「はい、終わり!」
ここに5分くらいいただろうか。ゴシゴシ拭かれ少し痛い。リックは途中まで俺たちを見ていた。それからはキッチンで夕食の準備をしているようだ。
「服も濡れてるから着替えてきてね」
「へーい」
俺は自分の部屋に行き適当な服に着替えた。
そういえば俺の家の構造を言ってなかったな。軽く説明しておこう。まず、1階建てである。しばらくすると2階建てにもできるらしいが俺にはまだ無理なようだ。この家の大きな部屋はリビングだけである。そこにはキッチンやテレビ、ベットなどが並んでいる。あとは部屋が3つほどあるくらいだ。2つはほとんど着替えるための部屋で、片方は俺のもう片方はシャミとリックの部屋だ。もう1つの部屋は風呂場だ。風呂場に行く前の小部屋には洗面台や洗濯機が並んでいる。その奥が風呂場だ。トイレは別室完備となっている。
まあ、こんな感じかね。図でもかければいいのだが、そういうのは苦手でな。勘弁してもらいたい。
着替えて、部屋を出るとシャミが
「あとは怪我も治療しなきゃ」
と、言ってきた。俺は「飯の後でもいい」と言ったのだがシャミは断固として譲らなかった。リックは笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
まあ、怪我といってもほとんどがかすり傷みたいなものだ。治療と言っても消毒したりするだけである。しかし、やはりかすり傷に消毒液はしみる。
「痛っ。シャミできればもうちょいやさしくお願いします」
「もうちょっとで終わるからもう少し我慢していてよ」
「わかりましたー」
痛いのはあんま得意じゃないのよ。リックは鼻歌を唄いながら料理をしている。どんなおいしい料理を出してくれるのかね。楽しみだ。
「これで、終わり」
最後にガーゼみたいなのを貼って終わった。腹が減ったな。
「んじゃ、ご飯食べようか」
リックがテーブルの上に料理を並べる。今日もおいしそうな夕食だ。
「ご馳走様でした」
うまかった。今日は格段にうまかった。
「洗い物は私がするねー。あと、ロイー、お風呂入れるからもう入ったら?」
リックが教えてくれる。
「じゃあ、先入ってくるな」
俺はその言葉に甘えて先に風呂に入ることにした。
やはり風呂は気持ちいい。特に疲れた心にはな。
「はぁ」
湯船に浸かり一息つく。体の疲れが徐々に楽になっていく気がする。
「お兄ちゃん、体洗っちゃった?」
急にシャミが声をかけてきた。
「ま、まだだけど」
「じゃあ、背中洗ってあげるね」
シャミが入ってきた。なんだこのイベントは。最高だ。少し恥ずかしいけど。
シャミはボディソープをタオルにかけ、うまく泡立ててから俺の背中を洗ってくれた。それにしても泡立てるのうまいな。
「今日はお疲れ様」
「ん、ああ、うん」
……なんか恥ずかしい。リックの時にはこんな気持ちはなかったのにな。なぜだろう。……そうだ、会話がないのだ。と言っても話す話題がない。どうしようか。
「…………」
沈黙が続く。気まずい。なんか話したいが話すことがない。
「お兄ちゃん、シャワーとって」
「あいよ」
シャワーを渡すとなんか適当に俺にかけてくれる。ありがたいのだが顔にもかかってくる。ガーゼが濡れてる。
「じゃあ、私戻るね。あと、お兄ちゃん、髪洗うときガーゼ濡れないように気をつけてね」
そう言い、シャミは風呂場から出て行った。
「ガーゼとかとっくに濡れちゃってるけど」
それから俺は髪を適当に洗い、風呂からあがることにした。……もう少しゆっくり浸かってた方がよかったかもしれないな。
俺が風呂からあがり、リビングに行くとリックが意味深な目線を送ってくる。なんとなく言いたいことはわかっていたが俺は目を合わせることはしなかった。
その後リックとシャミは一緒に風呂に入っていった。俺はやることも特にないのでソファーに横になりテレビを見ていた。テレビを見ていると俺は急激に睡魔に襲われそのまま夢の世界に誘われたのであった。
「……ちゃん。お兄ちゃん。おきてー」
体をゆすられている。俺はなんかいつの間にか寝ていたらしい。そして、寝ている間にリックとシャミは風呂からあがってきているようだった。
「ロイー、こんなところで寝てると風邪引くぞー。…あ、獣人族は風邪引かないか」
などとリック自問自答をしていたのであった。
「寝るか」
俺はまだまだ眠たかったので歯磨きをすばやく終わし、ベッドに入った。シャミとリックはすでに歯磨きを終わらせていたらしく、俺がベットに入る時にはすでにベッドの中に潜りこんでいた。
「おやすみ」
……眠れん。ついさっきまではすごい眠たかったが今ではなぜか目が冴えている。寝る体勢を変えるため仰向きからシャミのいるほうに体を変えた。そうすると目の前にシャミの寝顔が出てくる。うむ、シャミの寝顔ほどかわいいものはないであろう。目の前に顔があることをいいことにキスでもしてやろうか。
「え、何、ロイ。キスでもしちゃうの?」
後ろから声が聞こえてきた。
「しねーよ」
「本当は?」
「だから、しないって」
すいませんね、本当は考えていましたよ。
「ふーん。キスしたいなら私としちゃう?」
「お前、なに言ってんだよ」
「あ、冷静なふりしながら耳まで真っ赤だ。恥ずかしー。もしかして真剣に考えちゃった?」
「考えてねーっての!」
「ちなみに獣人族は耳が赤くなりませーん。ってか、毛で見えないし」
「お前さっきからな」
「じゃあ、おやすみー」
リックは反対を向き寝てしまった。狸寝入りだと思うが。
今日はいろいろとシャミやリックに振り回された感じがしたな。災難な日だったな。きっと人間界でのカレンダーは仏滅であっただろう。俺はさっきのリックとの会話を思い出し自分でなんとなく恥ずかしくなってしまい、早く忘れようと思いながら寝ることにした。まあ、しばらくの間覚えていたのは言うまでもないだろう。