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悪魔達の生活  作者: 鍵宮 周
リンの異変
73/80

優しさ

 自分は転生悪魔だ。兄などいるわけがない。なのになぜさっきはロイを兄と見てしまったのだろうか。わからない。考えてみてもさっぱりわからない。

 もしかしたら人間だったときの兄なのかもしれない。でも、リンは人間の時の事なんかこれっぽっちも覚えていない。自分の名前でさえもだ。兄のことなど覚えてすらいない。そもそも兄などいたのだろうか。

 ……考えてもキリがない。こういう時は行動に移すのみだ。


 その日の夕方。リックとミュウが買い物に出かけており、シャミがキッチンにてご飯の準備をしている。ソファーにはロイとリンがいた。

 話すなら今だ。相当大きな声で言わない限り聞こえることは無い。大丈夫だ。リンは深呼吸をして決心をつけ、ロイに話しかける。

「ロイさん」

「ん?」

 ロイはテレビを見ながら答えてくれる。こっちを向いて真面目に聞いてほしいのだが、この方が話しやすい雰囲気だ。リンはついに聞くことにした。

「ロイさんって、私のお兄ちゃんですか?」

 単刀直入に聞いた。ロイはと言うと、飲んでいた水を吐きだしそうになっていた。

「ゴホッ、ゲホッ……お前、急に何を言ってるんだ?」

「そのままの意味ですよ」

 ロイはしばらく咳き込んでいる。リンは静かにロイの背中をさすってやる。

 この反応はどういうことだろうか。本当に兄妹だったのか。それとも異変をつくような変な質問で驚いたとか?いや、そんなことは無いだろう。ってことは、本当に……?

「リン、俺達が兄妹な訳ないだろう。俺が主人でお前は俺に憑いている悪魔。ただ単にそれだけじゃないのか?」

「そういう意味じゃありませんよ」

「あ?」

「人間だったころの話ですよ」

 リンは真剣な眼差しでロイを見る。ロイはそんなリンを見て戸惑った顔をし、目を泳がす。

 ……これで恐らく、いや、ほぼ絶対に決定した。リンは人の表情を読むのが得意だ。まず、こんな反応をされて気づかない人などいないだろう。ラブコメの主人公並みの鈍感さを持っていたら別だが。

 これで確信したこと。人間の頃ロイとリンが兄妹だったということだ。

「……いえ、そんなわけないですよね。バカな質問でした。なんでこんなこと思ってしまったんだろうな。あ、私シャミさん手伝ってきますね」

 ソファーを立ちキッチンへと向かう。

「あ、リン!」

 ロイが呼び止める声を背に受けながらシャミの元へと向かった。


「お風呂入ってきますね」

 リンが立ち上がる。

「あ、リン。私も一緒に入っていいー?」

「……いいですよ」

 しばし考えてから答える。考え事をしたかったが、別に一人じゃなくてもいい。そう考えリックと一緒にお風呂に入ることにした。

「あ、ロイも一緒入る?」

「入らねーよ、バーカ」

「羨ましいんでしょ?」

 ちょっとバカなやり取りをしている二人を尻目にリンはバスタオルなどの準備をすることにした。


「はぁ~~~~」

 リックはだらしない声を聞きながらリンも湯船に浸かる。丁度いい温度だ。

 そして、考える。ロイと自分が兄弟だと確信した。それは自分の知りたかったことでもある。それを知れて充分のつもりだった。しかし、それを知ってどうしたと言うのだ。なんの意味があったと言えるのだ?その結果を知ってどっかで後悔している自分がどっかにいる気がしてならない。

 じゃあ、なぜ自分はロイを殺そうとしたのか。兄であるロイを。それがわからない。何か恨みを持っているわけでもない。その前に自分でロイを殺したいという思いなどどこにもないのだ。気が付いていると、首を絞めいたり、暴れていたりと。なぜだ。わからない。これは誰に聞いてもわからないだろう。自分で解決するしかないのだろうか。

「なーに難しい顔してるの?」

 急にリックから抱きしめられる。豊満な胸が背中に当たる。

 いつの間にか難しい顔をしていたようだ。

 リックの顔を見てハッとしてしまう。ついさっきのことなのに忘れていてしまった。リックの頬にガーゼが綺麗に貼ってある。

「あ、あの」

「ん~?」

「ごめんな…さい」

「ん?ああ~、この傷ね。いいよいいよ、これぐらい」

「で、でも」

「大丈夫だって」

 リックは優しい声で囁いてくれる。そして、優しく抱きしめてくれる。

「リンに傷が無くてなによりだよ。これ以上リンを傷をつけさせるわけにはいかないからね。そういう傷はお姉さんの私が全部もらうから。あと、暴れたいときはいつでも暴れな?その時は私が全力で受け止めてあげるから」

 すでに傷だらけだからと自虐的に呟くリック。初めて一緒にお風呂に入った時から知っている。リックの体は傷だらけなのだ。初めて見たときは引いてしまったぐらいだ。その時もリックは「ごめんね、こんな汚い体で」と哀しそうな顔で答えてくれたのを鮮明に覚えている。

 リックは後は黙って頭を撫でてくれた。

 なんで、なんでリックと言い、ロイと言いこんなにも優しくしてくれるのだろうか。自分はこんなにも悪いことをしているのに。叱られ、叩かれたほうがまだマシだ。自分は責められて当たり前なのに……。

 リンの目からはいつの間にか涙がこぼれていた。嗚咽も出てきてしまった。リックはそんなリンをそのまま優しく抱きしめていた。

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