血
ニワトリの鳴き声が聞こえる。朝か。しかし、ニワトリの鳴き声で起きるとか今まで考えたこともなかったな。ゲームの中だけじゃないんだなあれ。
ジャー、という蛇口から水を出している音が聞こえる。音の方を見てみる。
そこには鼻歌を歌いながら料理をしているシャミがいた。よほどご機嫌がいいのか悪魔と言われてパッとすぐ出てくるような黒い尻尾をフリフリと振っている。なんかもう、すべてを含めて可愛い。というか、可愛らしい。シャミhshs。……ゲフンゲフン。いや、俺は今何も言ってないぞ。恥ずかしいとかこれっぽっちも思ってないし。
それにしてもとてもいい匂いがする。朝からにしてはやりすぎにも感じるようなにおいだ。それとも俺が腹減っているだけなのかもしれないが。
さてと、俺も手伝うとするか。と、ベッドから降りようとしたとき。
「っ!!!」
体全身がビクッとなった。
「離せ」
その原因はリックが俺の尻尾を掴んだからだ。寝ぼけているのかどうかは知らないが、急に掴んできた。あの感覚は何回経験しても慣れない。あと、なぜだか知らんが異様に幸せみたいな顔をしている。なんかお菓子でもたらふく食ってる夢でも見ているんだろう。それにしても、なんかムカつく顔だな。
俺はリックの手から尻尾を解放して、ご機嫌なシャミのところに向かう。
「おはよう、シャミ」
「あ、おはようございます」
満面の笑みを俺にしてくれる。本当に機嫌がいいようだな。
「機嫌がいいな」
「え、わかります?」
まあ、露骨に機嫌がいいってわかったからな。
「なんかいいことでもあったのか?」
「そんなこと言えませんよー。秘密ですよ」
シャミはそう言って、また朝食の準備に取り掛かっていた。
「俺も手伝うよ」
「お願いします」
俺とシャミは朝食を再び作り始めた。
その途中、シャミは何度かニヤけていた。本当にいいことがあったみたいだな。気になってきたけど、教えてくれないだろうからな。諦めるしかないか。
「お兄ちゃん。みなさんのこと起こしてもらっていいですか?」
「了解」
俺はベッドで寝ている三人のもとに向かった。
みんなぐっすりと寝ているな。これを起こすのは申し訳ない気がする。このまま寝顔を見ていきたい気もするし。飯だから仕方ないけどな。
「おーい、起きろ」
「……ん」
最初に起きたのはリンだ。
「おはよー、ございます」
「おはよう。飯できたぞ」
「わかった」
リンはむくりと起き、ミュウも起こしてくれ、二人で洗面台に向かった。ついでにリックも起こしてくれたら助かったのだが。
「ほれ、リック。起きろ」
お決まりで布団を引き剝がす。
「うう……寒い」
うん、起きてくれたようだ。いやー、早く起きてもらえてよかった。こいつ起きないときは本当に起きないからな。
「ロイー、チュー」
「はいはい。顔洗って来いよ」
こんなのはいつもの会話だ。俺は毎回適当にあしらっているだけだけどな。それともなんか反応した方がいいのか?
てか、この気温で寒いのか?日本で言う春みたいな気温でちょうどいいのだが。シャミに聞いてみるか。
「起こしてきたぞ」
「ありがとうございます」
またもや満面の笑みを浮かべてくれる。何、こいつ。俺をキュン死させたいの?てか、キュン死ってなに?
「あぁー、シャミ。一つ聞きたいことがあるのだが」
「なんですか?」
「魔界にって季節ってないのか?」
魔界に来て結構経っているが、季節に関して疑問を持ったことがなかった。こう思い出してみると、ずっとこんな感じの気温だった気がするな。
「一応ありますよ。下界の季節みたいにクッキリとしていませんが」
お、あるのか。てっきり、季節と言う概念すらないのかと思ったからな。
「魔界はなんとなく暑くなったり、寒くなったりするぐらいですね。あ、一年に一度ずつ、とても暑くなったり寒くなったりする時もありますね」
いわゆる夏と冬か。どれくらいまで上がったり下がったりするかは知らないがな。まあ、季節と言うものがあるというだけで少しホッとしたよ。
ロイはかしこさが1あがった。ってな。
「ロ、ロイくん!!」
なんかミュウが慌てている。
「どうした?」
「リンちゃんが血を!!」
血?ひとまず俺は洗面台に向かった。
「あ、ロイ!どうしよう!?」
リックも慌てている。一応背中をさすっている。
「ゲホッ、ゲホッ!」
リンは激しく咳き込んでいる。覗き込んでみると、洗面台は血で汚れていた。




