ヒント
ロイがリンを慰めるのに四苦八苦している時に魔王城では大変な事情が発覚していた。
「魔王様、どうするんですか!?」
魔王に対して声を荒げているのはナナだ。
「どうするって言われてもなー、だってそこら辺は個人の自由だし」
「でも、兄妹そろって転生。おまけに同じ家に住んでいる。それプラス殺人未遂ですよ!」
「兄妹で住むのは当たり前じゃないか。殺人未遂だって二人して遊んでいたらそうなっただけかもしれないじゃないか」
「そんな言い訳が通用するわけがないでしょ!」
「す、すまん。ひとまず落ち着け。ナナ」
ナナは大きな溜め息を漏らす。
ちなみにナナは意外と高い身分である。国がどうだのこうだのとかはできないが、魔王にケチつけるくらいの身分は普通にある。
「落ち着いてなんていられるもんですか。これは魔界で前代未聞なんですよ」
「え、マジ?」
「恐らく」
ここでようやく事の重大さを知ったのか、魔王が少し真剣な表情になる。
「ナナ。じゃあ、これからはどうすればいいと思う?」
意見を聞くふりをしながら考えることを思いっきり放棄していることはナナにはわかっている。まあ、口には出さないが。
「私はひとまず現状維持が大事だと思います。もし何事もなければそれでよし。何か問題が発生したら本人たちに説明でよろしいかと」
「うむ、なるほど。それが一番か」
この人は本当に考えているのだろうか。よくこの国の長になれたものだ。
「それではその方針で行ってみるか。この件はナナ、任せられるか?」
「はい、もちろんです」
ナナは魔王に一礼し、部屋を出て行った。
今回の仕事は大忙しになりそうだ。ナナはそう予想しさっそく仕事を始めた。
「ただいまー」
あぁ。疲れた。いろんな意味で疲れた。
「お疲れ様でした」
シャミが出迎えてくれる。これだけで疲労度が少し回復した。
買い物で買ってきたものをテーブルの上に置き、ソファーに身を沈めた。
「ロイくん、お疲れ様」
「お、ありがと」
ミュウが気を利かせてくれてお茶を持ってきてくれた。まったく、ぐだぐだしながら過ごしている胸だけがでかい悪魔とは大違いだな。
リンは顔が赤いが、泣いたとは誰も気が付かないだろう。たぶん。あの後すぐに泣き止んでくれて本当に助かった。
さて、夕飯までまだまだ時間がある。昼寝と行きますか。俺はソファーに身を任せ、眠りについた。
……まーた来た時のあるところに来ちまったな。いや、見たときのあるところに来たの方が表現的にあっているのだろうか。
そして例の奴がいた。自称俺の妹。こんな怖いぐらいの妹なんかいらないんだけどな。もうこの状況に落ち着いている俺自身の方が何気に怖かったりするのだが。
「えっと、久しぶりかな?」
「知らん」
「なんだ冷たいなー」
「うるせぇ。つうか、なんだその顔は。また黒く塗りつぶして」
「そうした方が面白いじゃん?」
「お気遣いありがとうございます」
ぶっきらぼうに言うと、そいつはなぜかクスクスと笑い始める。
「なんだ気持ち悪い」
「妹に向かって気持ち悪いとは失礼じゃないの?」
俺はお前を妹だと思ったことなんかこれっぽっちもないけどな。
ってか、寝ているときくらいゆっくり休ませてくれよ。
「大丈夫。体自身は休んでいるから」
そんなん知らねえよ。お前に会ったあとの俺はいっつもぐったりなんだよ。
「さあて、今日も本題に入りましょうか」
前も本題なんてなかった気がするけどな。
「ああ、ひとつ聞かせてくれ」
「何?」
「お前は誰なんだ?」
「あなたの妹。そしていつも近くにいる人」
いつも近くにいる人?どういうことだ?あれか、いつも俺の後ろであなたを見守っていますよ。的なあれか。なんだこれ、想像しただけでも気持ち悪い。ただのストーカーじゃねえか。
「じゃあ、本題ね」
勝手に話を始めてきた。
「あなたはこれからいくつかの変化に気づき始めます。それは些細なことから大きなことまで、様々です。それを解くヒントは身近なところにあります」
ここで話をやめた。
「さて、お別れです。じゃあ、後は頑張ってください」
「おい、本題ってそれだけか?」
「これ以上言ったら面白くないので」
面白さなんてどうでもいいだろう。
「じゃあ、バイバーイ」
そして、フェードアウトしていった。
ゆっくりと目を覚ます。なんだあいつ。チンプンカンプンのことを言って、帰って行ったぞ。なんだよ変化って。
「あ、起きた?」
いつのまにかリックに膝枕されていたようだ。
「もうすぐでご飯だって」
「わかった」
俺は夢のことを考えているだけで精いっぱいだった。
ああ、なんか俺悪魔になってから夢に振り回されてばっかりなのは気のせいじゃないよな?




