留守番
「リンー、なんか食べるか?」
「いらない」
「そうか」
俺は自分の分のお菓子を持ってソファーに戻っていった。
今家にいるのは俺とリンだけだ。残りの三人は仲良くお買い物だ。で、俺とリンはお留守番というわけだ。別について行ってもよかったのだが、シャミとミュウが断じて許してくれなかった。腹は何ともないって言うのに。それで俺は留守番。何かあった時のために一緒にリンも留守番だ。
俺がポテチを食べていると、リンがこちらをじーっと見ている。
「欲しいのか?」
「いらない」
「遠慮しなくていいぞ」
「いらない」
「そうか」
俺はテレビを見ながらポテチを食べている。テレビはニュース兼バラエティ番組みたいのをかけている。なんか別にしたいとは思わないがテレビゲームをしたい。簡単なゲームでいいからしてみたい。もしくはゲーセンでなにかとかな。……今度ナナさんにでも頼んでみるか。
それにしてもなんなんだ。リンがこっちを見ている。目を合わせようとするとテレビに視線をやり、俺がテレビを見るとこちらを見てくる。何か言いたいことでもあるのだろうか。なんか初めて会った時のの反応みたいだな。こんなこともあったな。まともに口をきいてくれなかった時が。……って、何感傷に浸っているんだ俺。
テレビを見ながらポテチをボリボリ食う俺。それを凝視するリン。傍から見たらかなりシュールな風景じゃないのだろうか。少なくても俺はそう思う。
そんなシュールな風景が10分ほど続いただろうか。正直俺はもう限界だ。無理だ。こんなの我慢できるはずない。むしろよく10分も我慢したと思うぞ。誰か俺を褒めろ。そして敬え。
「なあ、リン」
リンにやめてくれ的なことを言おうとしてリンを見た。
「ど、どうした?」
リンの顔が、恐ろしい顔って言うか、なんか俺を睨みつけていた。雰囲気的に天使たちに襲われ、城を解放しに行った時のリンの顔と言えばいいのだろうか。要するに戦っているときの雰囲気だった。
「ん、何?」
しかし、俺が話しかけると普通の顔に戻った。どうしたんだこいつ。なんかおかしいぞ。
「また体調でも悪いか?」
「大丈夫」
そういうと、視線を再びテレビに戻していた。横顔を見ている限りいつものリンだ。俺の気のせいだったんだ。そう自分に言い聞かし俺もお菓子を食べることに意識を向けた。
しばらくして、リンが急に立ち上がって部屋にこもってしまった。部屋に入った途端になぜか物を落とす音とか叩きつける音とかが聞こえた。本当はここで行くべきだったのだろう。しかし、俺はこのとき違う意識が自分を満たしていた。
「眠い……」
今日もバッチリ寝たはずなのに眠い。というか、ここ魔界に来てからこの時間帯になると毎回眠くなってしまう。なぜだろうか。自分の体なのに未だによくわかっていない。
「うん、寝よう」
そう、こういう時は素直に自分の意識に体を任せるべきだ。だから、俺は寝る。
5分もしないうちに俺は深い眠りへと落ちていた。
「……さん。ロ……さん」
誰かが俺を呼んでいる。
「風邪……ますよ。……さん」
そいつは俺の体をゆする。やめてくれ。俺は眠いんだ。てか、まだ寝てたいんだ。
と、言うわけで俺はまた寝ようとした。シーユー。
足音が近づいてくる。そして、俺の近くで止まる。気配も感じる。
しばらくしても何もないためにどうしたんだと思っていたら、体に軽いものが乗った。毛布だった。心の中でそいつに礼を言いまた寝ようとしたとき、今度は重いものが俺に乗ってきた。それと同時に俺の首を絞めてきた。なんだこれ、前も同じようなことがあったぞ。
「やめ……!!」
俺はそいつの手をつかみ、必死にもがいた。
力が思ったより強い。俺の力では正直無理かもしれない。火事場の馬鹿力でも出たら別かもしれないが。なぜか一瞬冷静になった頭で考え、そいつのがら空きの腹にストレートを喰らわせ、形勢逆転。今度は俺がそいつに馬乗りになった。
そいつ……いや、隠す必要なんてないな。リンは俺の首を絞め、殺しにかかってきた。馬乗りになっている今も逃れようとしてか、必死にもがいている。
「てめぇ……!!」
子供に大人気ないってか?こちとら殺されかけてるんだよ。あの首絞めは本気だった。確実に俺を殺そうとしてきた。さすがエルフと言ったところか、力もかなり強かったしな。
「はなせ……!!」
「なんで首絞めたんだ!?」
「はなせ……!!」
答えろよいい加減。お前はもう身動き一つとれないんだよ。
「ちょ、ロイ何してんの!?」
なんてグッドタイミングに帰ってきたんだお前ら。
リンに馬乗りになって、頭を押さえつけている俺を見てなんて思うだろうな。また、ややこしいことになるぞ、これ。




