すべては元通りに
しばらく三人で外を眺めているという、シュールな光景が続いた。
「リック」
リックの親父さんが戻ってきた。
「で、いつ出発するの?」
「この後出る飛行機が空いていたからその便で帰ることにする」
「何分ごろ?」
「いや、お前は帰らなくていい」
「「「え?」」」
俺・リック・リンの声が綺麗にハモった。
「お父さん、どういうこと?」
「ちょっと思い改めたんだよ。ただそれだけだ」
……かっちょええ。
「そう……なの?」
「ああ。なんかすまないな、みんなに散々お別れの言葉とか言ってたみたいだったが」
親父さんはニヤッと笑った。
「そ、そうだね」
確かに散々泣いて、あとで「まだここにいれるんだ、アハハ」はきついか。
「ロイくん」
「は、はい」
「リックのことよろしく頼むよ」
「……はい!」
空港内にアナウンスが響いた。
「どうやら、もう行かなければいかないようだ」
「早いですね」
「ああ、すぐの飛行機だったのでな。それでは、これで失礼するよ。ああ、見送りいらない」
そう言うと、親父さんは立ち去ろうとした。
「お父さん!!」
リックが呼び止める。
「なんだ?」
「ありがとう」
親父さんは笑みを浮かべ、今度こそ立ち去った。
「わりぃ、やっぱ行ってくる。お前らはここで待っててくれ」
二人に断りを入れて、親父さんを追いかけた。
「待ってください!!」
「ん、ロイくんか。見送りいらないっていっただろう」
そうはいかない。渡さないといけないものがあるんだ。
「いや、これを」
俺は一つの手紙を親父さんに渡した。
「これは手紙か?」
「はい」
その手紙は、シャミ達三人が家出をした時に見つけたリックが書いた手紙だ。
「リックがあなたに向けて書いた手紙です」
「リックが私に……」
「なんか住所がわからなかったかなんだかで出してなかったみたいなので、今代わりに出します」
「リック本人は知らないみたいだね」
「おっしゃる通りです」
俺は苦笑を浮かべた。それに釣られたのか親父さんも苦笑を浮かべる。
「わかった。受け取っておこう」
「はい。では、お元気で」
「ああ。また、会おう」
俺と親父さんは握手を交わし、別れた。
空港からの帰り道、リックの荷物を三人で仲良く分けて持っていた。
「さーて、あとはどうすっかなー」
俺はまだ懸案事項を一つ抱えている。言わずもわかるだろう。シャミとミュウだ。
「私のいない間にそんなことが起きているとはねー」
リックにはつい先ほど話したばっかりだ。
「リン、今どこにいるかわからないか?」
「わからない」
「だよなー」
どうしたらいいのだろうか。
「鼻で探したら?」
「俺は犬か」
「間違ってはないでしょ?」
ま、まあな。だけど、その方法は最終手段にしておきたい。てか、したくない。
「あっ」
リンが急に声を上げる。
「どうした?」
俺が聞いても答えてくれない。その代わりに前の方を指さしている。
俺とリックは指が指し示している方を見る。そこには、なんと、どんだけ都合いいんだろうか。シャミとミュウがいた。
あっちも気が付いたらしく、こっちを見てポカンとしている。開いた口がふさがらないって感じだろうな。なんで、リックがいるんだってな。
「リックさん?なんで?」
リックは一歩前に出て、さっき起きたことを話す。
「そうだったんですか」
シャミとミュウも納得してくれたようだ。
「あと、ロイから一つ」
リックは俺の背中をポンと押して、前に出させる。急に振りやがって。まあ、俺が今考えられるのは一つしかない。
「シャミ・ミュウ・リンもそしてリックも!!」
もう全員だ。みんなに言ってやる。
「今回は本当にすまなかった!」
もう俺は土下座する。場所が外だろうが、地面が土だろうが関係ない。額を地面にこすり合わせて土下座する。こんなもんではもしかしたら足りないかもしれない。だけど、俺にはこれしかすることがなかった。
「ロ、ロ、ロイくんやめてください!!」
ミュウがやめさせようとする。
「いーや、俺はやめん!」
「え、えっと。シャミさんからも言ってください!」
「……顔、上げて」
俺は顔を断じてあげようとしない。
「上げてください」
俺は恐る恐る顔を上げる。そこには笑っているシャミとミュウがいた。
「あの時はお兄ちゃんにも考えがあったんだよね。私も悪かったのもあるし……」
「……シャミ」
「だけど完璧に許してあげるにはまだ一つ条件があります」
「なんだ?」
「私をまたお兄ちゃんの家で働かせて」
「それじゃあ、私も一つ条件!」
ミュウもそれに乗じて条件を出すようだ。なんの条件かわからなくもないが聞こうじゃないか。
「私をまた雇ってください」
「……そんなんでいいのか?」
「「はい!」」
二人は息ぴったりで返事をしてくれた。
「ありがとうございます!!」
俺は再び土下座のスタイルでお礼を言った。
「ちょっと、お兄ちゃん。もうやめて!」
シャミとミュウが焦る声と、リックとリンの笑い声がそこに響いた。




