二人だけの朝
朝。俺が起きると、俺の胸元にリンがすやすやと寝ていた。
「少し早く起きすぎたかな?」
枕元にある時計を見てみると、現在の時刻は5時半。
……もう一眠りするかな?
そう思った時、胸元のリンがもぞもぞと動いた。起こしてしまったか、と思ったのもつかの間再びリンの寝息が聞こえてきた。
「びっくりさせるなよ」
動いた拍子にリンの髪が顔にかかっていたので、掻きあげてやった。そして、露わとなった顔はとても幼い、小さな子供の寝顔であった。その顔を見た瞬間、俺はある人物の顔がリンと重なった。
それは妹である。人間界の記憶はほとんど無いので名前は知らないが、リンの寝顔と妹の顔が不思議に重なって見えた。
「リンって、妹の生まれ変わりだったりしてな」
と、ありえないことを呟いたりしながら、俺はリンの頭をやさしく撫でていた。
そこでふとリンの耳が目に入った。
「エルフだもんな」
エルフ独特のとんがっている耳がリンにもついている。そして俺は、無性にその耳が触りたくなってきた。この気持ちわかるだろうか?
俺は自分の本能に身を任せ、リンが起こさないようにとゆっくりその耳を触った。そして、耳にちょんと一瞬触れた瞬間、リンはビクッ!と過剰に体を震わせ、目を覚ました。その時のリンの顔はなぜか赤くなっていた。
「……ロイさん」
「……なんだ」
「……耳、触りました?」
「……すまん。なんかまずかったか」
「……いえ、別に」
気まずい沈黙が続く。
「朝ごはんの準備しますね」
「あぁ、俺も手伝うよ」
「お願いします」
そうして、朝ごはんの準備をして、朝ごはんを食べた。
朝ごはんを食べている途中聞いたのだが、エルフは耳が異様に敏感らしい。だから、朝耳を触った時に過剰に反応したらしい。あ、敏感と言うのは変な意味じゃないからな。……たぶん。
食器を二人で洗っている途中、
「今、リックさんどこらへんですかね?」
「さあな。たぶん中間地点じゃないのか?」
「それでは、燃料補給中ぐらいですかね」
「たぶんな」
ここからリックの故郷までは飛行機で2日ほどかかるらしい。さすがに燃料が足りないらしいので、途中で燃料補給と言うわけだ。
「……さて、終わりましたね」
「ん、そうだな」
濡れた手をタオルで拭くと、俺はソファーにダイブ。リンはこんな俺を見てクスクスと笑いながら俺の枕元に座った。
「膝、使います?」
「んん」
俺は顔をうつぶせにしたまま、頭をリンの膝に乗せた。
「なんでうつぶせのままなんですか」
と、リンは笑う。
俺は仰向けに体勢を変えた。そうすると、当たり前だがリンと目が合った。目が合うと、リンは屈託のない笑顔を浮かべてくれた。
「……リンって、表情が豊かになったよな」
俺は昨日思ったことをそのまま口に出す。
「え、そうですか?」
「ああ。この家に来た時に比べるとかなり変わったよ。口数も増えたし」
「自覚は無かったですね」
「そりゃそうだろ」
「でも、それはきっとロイさんたちのおかげでですよ」
面と向かって言われると、なんか恥ずかしいな。ていうか、照れる。
「……そうか」
「ええ、そうですよ」
そうして、会話はここで終わった。
話してもらっていた時には気付かなかったが、女の子特有の柔らかさがやっぱりリンにもある。そう思うと、なんか変に意識してしまい緊張してしまう。
そんなことを思っていると、人間の時には味わえない感覚を味わった。
何をされたかというと、リンに尻尾を掴まれたのだ。この何とも言えない感覚はうまく表すことができない。が、犬や猫が尻尾を触られるのが嫌なのがなんとなくわかる。
「なんだ」
「いや、フラフラと動いていたのでつい」
動いていたのか、意識してなかったな。
「そうか。……離してもらっていいか?」
「……わかりました」
リンは2、3回尻尾を撫でた後、なぜか名残惜しそうに尻尾を離した。
しかし、尻尾が勝手に動かないようにしたいのだが、やはり無理みたいだな。なんか、犬みたいだな俺。いや、獣人なので間違っては無いのだが。
そんな時、リンがテレビのリモコンを取って、テレビをつけた時、あるニュースが流れてきた。




