気付き
家の中に「ジューーー」という音と共においしそうな匂いが漂ってくる。
「ふんふ~~ん♪」
ユミさんが鼻歌しながら、手際よく料理を作っていく。
「ユミさん、やっぱり手伝いますよ」
「いいって。ロイはゆっくりしてて」
「あ~~、はい」
お客さんであるユミさんに料理を作ってもらうというのは失礼なので俺も手伝おうとするが、ユミさんは決してそれを許してくれない。
ゆっくりしててと言われても困る。てか、ここは俺の家であり、今のユミさんのセリフは普通俺が言うものではないのか?
「ロイ~、できたよ~」
夕食ができたようだ。俺はテーブルへと向かった。
「おお~~」
そこにはプロの料理人にも劣らない料理が所狭しと並べられていた。
「すごいですね」
「そう?」
「そうですよ」
「ありがと」
俺は席に着いた。
「えっと、食べていいんですか?」
メニューの内容が素晴らしいため、食べにくい。
「うん、どうぞ」
「では、いただきます」
俺は近くにあった料理から手を付けることにした。
「……どう?」
「おいしいです」
かなりおいしい。
「よかった」
そう言うと、ユミさんは立ち上がり自分のバッグを肩にかけた。
「じゃ、ロイ味わって食べてね」
「あれ?食べないんですか?」
「さっきから私のingに何回もメールしてくるのよ」
「あの執事さんですか?」
「そう。てことで、私も本当はここにいたいけど帰るね」
「あ、はい。わかりました」
ユミさんは玄関に歩いて行ったので、俺も見送りをするために玄関へと向かった。
「じゃあね、ロイ」
「はい。今日はありがとうございました」
「あれくらいいいのよ。それじゃ、バイバイ」
ユミさんは俺に手を振り、帰って行った。俺はその後ろ姿を手を振りながら見送った。
ユミさんの姿が見えなくなった後、家に入り、テーブルに並んでいる料理には目もくれず、ソファーに倒れこんだ。
「……ハァ」
今日何度目のため息だろうか。数える気のある人は数えてくれ。そして、俺に教えてくれ。
「飯、どうすっかな」
ユミさんには悪いが、食べる気がこれっぽっちも出てこない。てか、一人で食べるには多すぎる量だ。
「ひとまず、冷蔵庫にでもしまっておくか」
俺は料理一つ一つにラップをかけ、冷蔵庫へとしまった。
そして、俺はまたやることを見失い、ソファーへと倒れこんだ。
「……風呂にでも入るか」
いつもとはかなり早いが、俺は風呂に入ることにした。
風呂とは考え事をするにはいい場所だと、俺は思っている。今日も例外では無い。
「…………」
頭に浮かんでくるのは、シャミ・リック・リン・ミュウ4人のそれぞれの顔だ。そして、最後には必ず公園で見たリックの泣き顔が浮かぶ。
「……何をしたいんだろうな、俺は」
今この家には俺一人しかいない。リックは父親と同じホテルだかにいるのだろう。シャミ・リン・ミュウはどこにいるが知らんが、あの3人がそろっていれば、困ることは無いであろう。
で、それがどうした?4人がいないからってどうしたと言うのだ?こんな一人だけの生活なんて人間の時散々体験した。その時、寂しいという気持ちはこれっぽっちも無かった。その時だけでは無い。小学校の時の授業参観なんて、俺の記憶上親が来た時なんて一度もない。運動会も来なかった。中学校では、進路相談の三者面談などした覚えもない。一人で考え、一人で決めた。そんな時でも俺は寂しいとは感じなかった。
しかし、今はどうだ?悪魔に生まれ変わり、俺はシャミ達と一つ屋根の下で暮らしてきた。だが、今は人間の時と同じように一人だ。姿、場所その他もろもろは違うが、状況はあの時と同じだ。
よし、俺はこれから自分に質問をする。逃げないで聞け、そして答えろ。心の準備はいいか?
『お前は今、人間の時と同じように一人で暮らしている。そして、お前はそれをどう思っている?』
さあ、答えてくれ。質問がわかりにくいって?じゃあ、わかりやすいように言おう。
『お前は今どう思っている?』
これなら簡単だろ。さあ、答えろ。考える時間なんていらないだろう?だって、今お前が考えていることを言えばいいのだから。……ああ、ちょっと待ってくれ。まだ答えなくていい。今、お前が答えようとしていることは大体わかる。まあ、一応自分自身なんでな。俺の予想が当たっていればお前はこう考えているはずだ。
『いなくなって、清々しているよ』
どうだ、間違ってるか?間違ってないだろう。自分自身の考えることなんてわかるに決まっているんだから。そうだよな。清々しているよな。だって、着替える時に気を遣ったり、女性陣の着替え現場を見ないように気を遣うこともない。寝る時もあの広いベッドを独り占めできる。リックの胸が背中に当たることも、シャミの寝顔が目の前にあり、ドキドキすることも無い。ミュウに寝ぼけられながら抱き着かれることも、暗闇に怖がるリンに腕にしがみつかれ、いちいちリンが眠るまで起きていなければならないことも無いんだからな。
そりゃあ、清々しいよな。一人で自由に暮らせるんだから。
だが、本当はそんなこと思ってないだろ?もう一回だけ、チャンスを与えてやろう。ではもう一回質問だ。
『どう思っている?』
さあ、答えろ。自分に正直になれ。
『俺は……』
ああ?聞こえねぇ。もっとはっきり言ってくれ。
『俺は……!』
そうだ、俺は……、俺は……
「……俺は、寂しいんだ……!!」




