バラバラ
リックの親父さんが来てから早いことに、すでに一週間が経った。その間家は相変わらずドンヨリとした空気に包まれていた。
そして、そんな時、リックの親父さんは我が家に再び訪れた。
「どうだ、リック。決断は着いたか?」
「…………」
「…………」
沈黙が続く。やっぱり、気まずいよなー。
「ロイくんとは相談したのかね?」
リックは首を横に振る。
「そうか。では、ちょっと、相談してみてくれたまえ」
ここでですか?ってか、あなたはここにいるんですか?
「ロイ、どうしたらいいと思う?」
「ロイくんの意見を聞かせてくれ」
「俺か、俺の意見は……」
みんなが注目する。話しにくいな。
「やっぱり、リック自身が決めることだと思う」
「……やっぱり、そうだよね」
リックも含めて「なんだよ」みたいな表情を浮かべる。みんなは俺にどんな意見を求めていたんだ。
「だけど、助言を少し言うとすると……」
再びみんなが俺に注目する。
「迷っているなら、帰った方がいいと思う」
「え?」
シャミが驚きの声を出す。
「迷っているということは、帰ってもいいと思っているということだろ。なら、こんなところより、一大事になっている実家に帰ったらいいと俺は思う」
「ちょっと、何言ってるの!?」
シャミが声を張り上げた。こんなシャミは初めてかもしれない。
「……そう、だよね」
「リックさん!?」
「私帰るよ。うん、帰る。そうだよ、迷っていたということは知らないところでそう考えていたんだよね」
リックは自分に言い聞かせているという感じの話し方だった。
「じゃあ、お父さん。帰ろう」
「いや、家に帰るための飛行機はまだ先だ。帰るとしても、まだ、ここにいてもいいんだぞ」
ここだけの話だが、この時飛行機がこの世界にあることを初めて知った。
「別にいい。お父さんが泊まっているホテルにでも泊まる」
「そ、そうか」
リックの親父さんは明らかに戸惑っている。
「でも、服とかはどうするんだ?」
「……今度、送ってもらう」
「しかし……」
「シャミ、お願いしてもいい?」
「あ、は、はい……」
「じゃあ、行こう」
「ああ」
二人は玄関へと向かった。俺たちはその後ろをついていく。
「じゃあね。いままでありがとう」
リックはそう言い残し、外へと出て行った。
「なんか、すまないな」
「いえ、大丈夫です」
「飛行機は五日後に出る。よかったら見送りに来てくれ」
「はい」
「では、失礼するよ」
親父さんも帰って行った。
家の中には重い空気が流れている。俺はそんな空気に耐えられなかったのか、近くにあった爪切りを手に取り、足の爪を切っていた。しばらくの間、切っていると、
「お兄ちゃん」
シャミに声をかけられた。
「ん?」
足の爪を切りながら、俺は応答した。
「なんであんなことが言ったんですか?」
「俺は思っていたことを言っただけだ」
「……嘘つかないでください」
「嘘じゃねえよ」
あの時、俺は思っていたことを本当に言っただけだ。
「お兄ちゃんなら、止めると思ってました」
「そうかい」
「なんで、止めなかったんですか?」
「止める必要なんてなかっただろ」
「……お兄ちゃん!」
「なんだよ」
俺が顔をあげた瞬間、顔に衝撃を受けた。正確には頬だ。まあ、いわゆる、ビンタをされた。
「少しの間、休みをもらいます!」
シャミはそう言うと、玄関へと消えて行った。
「なんなんだよ」
俺はそうつぶやき、再び爪を切り始めた。しかし、切り始めてすぐ、
「ロイさん」
リンにも声をかけられた。
「どうした。言っておくが、俺は追いかけねえぞ」
そう言いながら、顔をあげたら、今度はヘッドバッドを喰らった。
「私も、休みをもらいます」
リンも消えて行った。
額をさすりながら、痛みに耐えていると、
「ロイくん」
「んあ?」
次は、ミュウだ。今度は顔を上げる前に、顔に上段蹴りを喰らった。衝撃でイスと一緒に倒れてしまった。
「休ませてもらいます」
ミュウもいなくなり、リビングには俺一人だけになってしまった。
「なんだよ、あいつら。反抗期か?」
俺は上段蹴りで倒れたイスを直し、足の爪切りを再開した。
「あーあ、深爪になっちまったじゃねえかよ」
最後の指の爪を切り終え、爪の残骸をゴミ箱に捨てた。
「ん?」
ゴミ箱の陰に隠れて、よく見えなかった封筒を見つけた。
「なんだこれは」
俺はそれを手に取り、中身を見るのであった。




