ギルド ー手伝いー
全員がingを付け終わり、空を見ていた俺のところにいつの間にか集まっていた。
「お兄ちゃん、帰ろう」
「ん、ああ」
俺たちは魔王城を後にした。
太陽はすでに高い位置に上っている。俺たちは久しぶりに外食をすることになった。
「いやー、外食なんて久しぶりだね」
「ああ、言われてみればそうだな」
リックがガキのようにウキウキしている。
「私、こういうの初めてです」
そう言っているのはミュウだ。今まで野宿生活だもんな。こういうのが初めてで当たり前だ。
俺たちはすでに注文をして、テーブルでのんびりとしゃべっている。こうやって話しているのもいいが、俺は何かを忘れている気がするんだが気のせいだろうか?
「ロイ……さん?」
「ん?」
「どうしたの?なんかボーッとしてたけど」
「いや、ただの考え事だ」
それにしても俺は何を忘れているんだ?なんか喉元ぐらいまで出ているのだが、出てこない。こんな感覚、わかるだろ?
俺が一人で悶々と考えている間に料理が運ばれてきた。
「食べないの?」
「じゃあ、食べないなら私貰う!」
シャミの言葉で一口も食べていない俺のステーキに気が付いたリックは俺の肉に手(箸)を伸ばしてきた。
「今食べる。リックも太るからやめなさい」
俺はリックの箸を払い、ステーキを食べることにした。
俺が結構な量のあるステーキを食べ終わっても、俺以外(リックを除く)はまだ食べていた。
ステーキを食べている間も考えていたが、何一つ忘れていることを思い出すことができなかった。
「なあ、リック。俺たちなんか忘れてることないか?」
最終的に俺はリックに話を振った。
「んー、あったっけ?」
疑問形で聞いているのに疑問形で返すな。
「お兄ちゃん、それってたぶんあれじゃない?」
「そのあれって?」
「ギルドの設立の手伝い」
「ああ、それか。OK、ありがと」
ギルド設立か。そんな面倒くさい依頼もあったな。
俺はここら辺のギルドを建てる場所をどこだか思い出していた。
「あんたがロイか。それと、ロイに憑いている悪魔達だな」
俺たちは飯を食い終わり、ギルド設立の手伝いにやってきた。上のセリフは工事現場を指揮する偉い人のだ。その姿は棟梁と言う言葉が合う感じの悪魔だった。
「俺たちは何をすれば?」
「そうだな……。まず、そこにある材料をあそこに運んできてくれないか?」
棟梁は木材が積んである所を指差し、その後にただ今絶賛工事中の所を指差した。
「わかった。まかせてくれ」
俺はさっそく木材の山に取り掛かった。
この木材を運ぶという過酷で単純な作業は6時ごろまで続いた。木材の山を一つ片付けると、また運ばれてきて、その山を片付けると新しい山が……という、ことが続きこの時間まで続いたのだ。
「はい、お疲れさん。これ、いるか?」
俺は近くの店から買ってきた飲み物をシャミ達に見せた。
「え、いいの?」
「いや、逆にいらないの?」
「えっと、じゃあ、お茶で」
シャミにお茶を渡した。
「私、そのスポーツドリンクで!」
ミュウにスポーツドリンクを渡した。いわゆる、アクエリアスとかポカリみたいのだ。
「その、リンゴジュースください」
「あいよ」
リンにも渡した。
「……もう一人は?」
「リックさんなら、あそこで働いてますけど……」
シャミから指差された方を見ると、リックがまだ働いていた。
「なんで、まだやっているんだ?」
「棟梁さんからは終わりだって言われたんですけど、リックさんがもうちょっとって」
あいつなら言いそうだな。なんたって、自称働くの大好きの人らしいからな。
「やれやれ」
俺は残りの飲み物を置き、リックの所に歩いて行った。
「何一人で頑張ってるんだ」
リックの頭を軽く小突いてやった。
「いてっ。もう、ロイ、なにするの~」
リックは顔には泥がついていた。俺がいなかったこの数分間で何の作業をしたんだか。
「何やればいいんだ?」
「え、ロイは休んでていいよ」
「いいから、何やればいいんだ?」
「えっと、あそこにある麻袋をあっちに持っていけばいいけど」
「了解」
俺は麻袋に向かい、2つを一気に持ち上げた。
「重っ!」
2つでもかなりの重さだ。これ、1つ何キロぐらいだ?
麻袋を肩に乗せ、リックから指示された場所に持って行った。
「お疲れ~」
「お疲れって、まだまだあっちにあるぞ」
麻袋の山が今も一つ一つ増えている。作業員も運んでいるが、明らかに増えるスピードの方が早い。
「じゃあ、早く終わそうか」
「……どれくらいかかるんだよ」
文句を言いながらも俺は麻袋の山に向かっていた。
俺とリックとで黙々と運んでいると、いつの間にかシャミ、リン、ミュウも運んでいた。この3人は一つ一つしか運べないが、それでもだいぶ助かる。
この作業は1時間ほどで終わった。
「これで、終わりだよな……?」
俺の言葉に答えてくれる悪魔はいなかった。みんなヘトヘトでしゃべる気にもなれないんだろう。
「まあ、ゆっくり休むか」
俺たちはさっき休んでいた所に向かった。さっきまでギンギンに冷えていた飲み物も、ぬるくなってしまっている。
「リックは何飲む?」
俺は残っていたスポーツドリンクとお茶を見せる。
「……それ」
スポーツドリンクを指差されたので、そっちを差し出した。リックはそれを俺から奪うようにとり、ゴクゴクと音を出して飲み始めた。
「いい飲みっぷりだな」
俺もお茶のふたを開け、一口だけ飲み、横に置いた。
「飲まないんですか?」
ミュウは不思議そうな目で、俺とお茶を見ていた。
「ん、ああ。なんか疲れすぎて飲む気が出ないんだ」
「じゃあ、これあげます」
そう言うと、ミュウは俺にスポーツドリンクを差し出した。
「いいのか?」
「はい!全部飲んでもらって構いません。その代わり、そのお茶ください」
「え、でも俺、口つけちまったぞ」
「大丈夫です!」
「……そうか。じゃあ、やるよ」
俺はスポーツドリンクを貰い、お茶をあげた。
「ありがとうございます!」
ミュウはお茶を持って、シャミの隣に座った。そして、シャミと何やら話していた。二人とも顔が赤くなっていた気もするが、見てなかったことにするか。
俺はミュウからもらったスポーツドリンクを飲んだ。その味は疲れた体にちょうどいい塩分が入っており、とてもうまく感じた。そして、この行為が間接キスと気づき、一人で恥ずかしくなっていた俺がいた。