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悪魔達の生活  作者: 鍵宮 周
魔界へようこそ
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感謝の言葉

 夢というのはたいていすぐ忘れてしまう。

 俺も今の今までなにかシャミとリックと楽しいことをしていた夢を見ていた気がする。健全な夢だ。心配はいらん。

 そういう夢も起きた時はしっかりと覚えているが、顔を洗ったり歯を磨いたり飯を食ったりしているうちに、何かおもしろかったというあいまいな記憶しか残っていないものだ。みんなもだよな?俺だけじゃないよな?

「お兄ちゃん、こぼしすぎ」

 苦笑しながらいわれた。どうやら上記のようなことを考えながら飯を食っていたので飯をボロボロ落としていたようだ。

「うおっ」

 自分でも驚く量を落としていた。なんだこの量は。今どきのペットだってこんなにこぼすことはないぞ。

「なーんか、考え事でもしてたんでしょ」

「え、そうなの?」

 おいおい、シャミさん。俺が素でこんなに食べ物落とすと思っていたのかい?ありがとうリック、君のおかげで俺の好感度は守られた。

 俺はボロボロ服の上に落ちていたご飯粒やらなにやらを拾い食べたあと、朝食と出された飯をすべてきれいに食べた。

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

「ご飯も食べたし、ちょっと働きに行ってくるね」

「おう、ケガしないようにな」

「ロイじゃあるまいし、ケガなんてするわけないじゃん」

「ほう、言ってくれるじゃないか」

「お兄ちゃんもリックさんもケンカしないでください」

 なんてしょうもない口ゲンカらしきものをする。お互いふざけて言っているようなもんだからケンカでもなんでもないんだが。

 ここら辺は魔王城に近い街でありながら俺たちのような悪魔がいないらしいので、出てくる魔物も比較的凶暴らしい。シャミもリックも魔物に襲われてケガをするなんてことは無いようにしてほしいものだ。

「あ、あの、大体何時ごろ帰ってくるんですか?」

「ああ、夜ご飯ぐらいじゃないかな?」

「わかりました。夕食作って待ってますね」

「おいしい料理期待してるよー。じゃあ、行ってきまーす」

 ふう、うるさいのがいなくなったぜ。まあ、周りを盛り上げるムードメーカーは必要だけどな。

「食器洗わなきゃな。洗濯物もちょっと出てきたし」

「俺も手伝うよ」

「え、手伝ってくれるんですか?えっと、じゃあ、洗濯機動して来てもらっていいですか?」

「もちろん」

 洗濯物を取りにいき、洗濯機をまわしてきた。洗剤とか洗濯機とかなんか人間界のものだった気がする。洗濯機には某有名企業のフレームが書いてあったりとか。まあ、別にどうでもいいことだ。

「痛っ!!」

 シャミの声だ。パリィィン!!!という音も聞こえてきたので皿を落としその破片で指でも切ってしまったんだろう。……こんな推理してる暇じゃない。早く駆けつけなければ。

「シャミ、大丈夫か?」

「あ、う、うん」

 切ったと思われる指を舐めながら答えた。大丈夫と言っていたが顔を見ると明らかに痛がっている。

「お兄ちゃん、絆創膏取ってきてもらっていい?」

 魔界にも絆創膏なるものがあるとはな。

 俺は絆創膏を取ってきて、シャミの元に戻っていった。

「手出せ、貼ってやる」

「え、いいよ。自分でやれるし」

「いいから、いいから」

「ん、じゃあお願い」

 シャミは手を出した。切ったところは右手の人差し指だ。……かなりザックリいっている。見ただけでも痛い。俺はその指に絆創膏を貼った。

 さすがシャミ、手がかなりきれいだった。しっかりお手入れをしているのだろう。

「割った皿片付けなきゃ」

 ケガをしたのにまだ家事を続けようとする健気な姿がまたいい。

「いいよ、俺がやる。テレビでも見てろ」

「うん、ありがとう……」

 その、申し訳なさそうな顔もやはりかわいい。もう抱きしめたい。

 俺は人間界でやった経験を生かしぱっぱと片付け、洗い物も済ませた。やはり水は冷たい。冷たすぎて手の感覚がないほどだ。

「シャミ、終わったぞ」

「……」

 ……返事が無いただの屍のようだ。というのは冗談で、シャミは寝ていた。やはり俺やリックとの生活にまだまだ慣れていないためか疲れているのだろう。俺もまだ慣れていないしな。

「ありがとな」

 起きないように小声で感謝の言葉をいい、毛布を持ってきてシャミにかけてあげた。


 シャミは昼時をすぎても寝ているので俺が一人で昼飯を作り一人で食べた。作ったっていってもただのインスタント食品だが。

 2時、3時、4時、5時と時間がすぎてもまだまだ気持ちよさそうに寝ている。たまに「お兄ちゃん」と寝言を言ってくれるのは嬉しいが相当疲れているということなのでなんか申し訳ない気持ちにもなって来る。

「夜飯も俺が作るか」

 人間だったときは一人暮らしだったのである程度料理はできる。

「さて、何を作ろうかな」

 俺は何を作ろうか迷っていた。親戚がコックということもあったので大体の料理は作れる。もちろん人間界の物だけだけどな。

「時間もまだまだあるし、材料もあるから餃子でも作るか」

 ということで、餃子を皮から作ることにした。恐らく魔界には餃子の皮という便利なものは無いだろうからな。



「やっと終わったーー」

 ただいまの時刻7時。約2時間かかった。皮から作った割には早く終わった。今日で餃子の皮たるものがどれだけ偉大なのかが身にしみてわかった。なお、シャミは今現在まだ寝ている。よく寝れるな。

「ただいまー」

 リックが帰ってきた。夕食作りも終わったところだったのでグッドタイミングだ。

「じゃあ、リックも帰ってきたし食うか」

「あれ?シャミは?」

「あそこで寝てる」

 と言うとリックはシャミを覗き込み微笑んだ。シャミの寝顔を見て微笑ましくならないやつなんていないだろう。

「んにゃ?」

 猫のような声を出してシャミが起きた。

「おはよう。と言っても、もう夜だけどな」

「え、あっ!ご飯作らなきゃ!こんなに寝ててすみません!!」

「心配すんな。それに夕食なら作ったしな」

「え、ロイが作ったの?」

「露骨に嫌な顔するな」

 とかいいながらみんな(と言っても俺も含めて3人だが)テーブルについた。

「これなんていう料理?」

「餃子っていう、人間界の飯だ。口に合うかわからんけどな」

「「いただきます」」

「はいよ」

 パクッと2人は餃子を食べた。一応俺がつまみ食いしたのではいい感じのデキだったけど、やはり人に食べてもらうと言うのは不安だ。

「あ、おいしい」

「おおっ、ロイも料理うまいんだね、意外」

「一言いらん」

 うまいと言ってもらうのはやっぱり嬉しいな。とか思っているうちに2人は(特にリック)どんどん食べている。

「おっと、俺も食わなければ」

 そして、今日も3人で楽しい夕食の時間をすごした。


 洗い物も済ませ、風呂に入ることにした。

「あー、なんか今日は疲れたー」

 なんて独り言を言って気がついた。この半日飯の準備やなにやらするだけでも疲れるのに、シャミはそれを毎日してるのだ。おまけに初めて憑くのが俺なので余計に疲れるだろう。しかし、シャミはそれを顔には出さない。

「今日でシャミのすごさがわかったな」

 これからはシャミをもっと手伝ってやろう。もちろんリックもだ。リックも1日中外にいる。それにくわえて魔物退治だ。これは誰でも疲れるものだろう。

「俺もまだまだ未熟者だな」

 2人のすばらしさを改めて知ることになった。


 風呂から上がると2人はもうベットに入っていた。

「ロイもはやくねよー」

「今寝るよ」

 正直風呂上がりすぐ寝るのは寝苦しいのだがここで断るわけにも行くまい。

 俺はシャミとリックの間のスペースに入っていった。

「お休み」

 と俺が言うと。

「「お休みー」」

 と、2人も返してくれた。

 やはり寝苦しい。おまけに俺以外に2人分の体温があるのでさらに寝苦しさUP。まあ、疲れて眠いのですぐ寝られそうだが。

 その後、リックはすぐ寝た。寝息が首に当たるのでわかる。お礼の言葉言うの忘れてたな。まあ、今はシャミにだけでも伝えるか。俺の胸でモゾモゾ動くのでおそらくまだ起きているだろう。

「シャミ、起きてるか?」

「ん、何?お兄ちゃん」

「ありがとな」

「何?急に」

「いや、なんでもない」

 2回も言うのは恥ずかしいのでとっとと寝ることにした。

 本格的に寝る寸前にシャミが

「こちらこそ今日はありがとね」

 と言ってくれたのは絶対忘れないであろう。

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