張り込み
俺たちは早速家に帰り、リックとリンに話を聞かせた。
「へぇー、そんなことがこの町で」
「……」
リンは無言だが、たまにうんうん唸っているため、悩んでいるということだろう。しかし、リックは笑っており、考える気がないと見た。
「リック、考える気ないだろ」
「そんなことないよー」
リックは頬を膨らませて、怒っていることを表現している。……別に見とれたりしてないからな。正直あきれているだけだ。……俺は誰に言い訳をしているのだろうな。
「で、お兄ちゃん。いつからそのドロボウ探しするの?」
「そうだな……明日からでいいだろう。開店してからとか言ってたから、店が開いてから張り込んでいればいいだろう」
「そうだね」
リックの賛同も得た。
リンは「ドロボウ……犯人捜し……張り込み……」とか言いながら、悩んでいた。今の俺の話を聞いていたとは思えないが、後から言い直せばいいだろう。
「誰がどこに張り込むかとかも決めた方がいいですよね?」
「まあ、そうだな。盗まれる店も多くはないから、それぞれの店の近くに潜んでいればいいだろう」
「じゃあ、それも決めていこうか」
俺が言おうとしたことが先にリックに言われてしまった。
「……そうだな」
作戦、ってほどではないが明日の計画を話し合うことにした。
……リンは本当に聞いていたのだろうか?
次の日、いつもより早く起きて、飯を食ったり、準備したりしてさっそく犯人捜しをすることにした。
盗まれる店は数店で、その店通しの距離もさほど遠くない。そのため、張り込み中のお互いの姿もチラチラ見える。だが、お互いの姿が見えると言っても、コミュニケーションを取ることはできないため、なんとなくのジェスチャーでしか、お互いの状況を知ることができない。やっぱり、無線ってすごいんだな。と、考えていた。
ただいまの時刻9時。客はたまにしか来ない。この状況で盗むとは考えられないが、油断は禁物だ。
「張り込みってのも意外と地味なんだな」
張り込みを初めてさほど経っていないのだが、すでに嫌になり始めていた。
昼ごろまでこんなぐだぐだな張り込みが続いた。
昼食を各々近くの店でご馳走(俺は魚屋)になり、午後の張り込みが続いた。
全体の店をバランスよく見渡さないといけないため、いつもは使わない神経を使い、かなり疲れる。
俺は油断をすることもなく、全体を滞りなく見ていたつもりだったのだが、
「ドロボウ!!」
と言う、叫びが聞こえた。俺は叫びが聞こえた店の方を見ると、ドロボウらしき犯人がこちらに向かって走って来ており、いつのまにか横を通り過ぎていた。
「速っ!」
俺は少しビックリしながらも、飛び出し、犯人を追いかけていた。
走りながら「待てーーっ!」とか言うわけでもなく、俺は必死になって犯人を追いかけていた。なるべく、その犯人の特徴を一つでも多く見つけようとしていたが、黒ジャンパーみたいなのを来て、帽子をかぶっているため、特徴という特徴を見つけられない。身長も走っているため正確にはわからない。
犯人はT字路を左に曲がった。
「ん、確かその先は行き止まり」
俺は曖昧な記憶を呼び起こしながら、T字路を左に曲がった。そこは案の定行き止まりだったのだが、
「い、いない?」
どこを見てもいない。右、左、前、後ろ、上も下も隠れそうなところを隙間なく探しても見つからなかった。ゲームみたいに隠し扉があるかもと言う、どこから出たかもわからない考えも思いつき、壁を触りながら一回りしたが、怪しいもの何一つ探せなかった。
「くそ、見失ったか!!」
俺は自分に落胆していた。これ言ったら、みんなどういう反応するんだろうな。俺はそのことを想像し大きなため息を吐いた。
俺が商店街まで戻り、そこで待っていたみんなに何があったかを教える。ひどく落胆されるかな、と思っていたが、みんなの反応は予想に反し、
「いいよ、盗まれたのも大して高価なものでもねえしな。ハッハッハッ!!」
と豪快に笑って許してくれた。ついでに盗まれたのは野菜だ。上のセリフは八百屋のおっちゃんだ。
「ロイさん、特徴とか見つけた?……追いかけるのに必死で気づかなかった?」
リンに聞かれた。
「黒ジャンパーに帽子着用だからな。下も黒っぽかったから服装とか髪の長さとかも何にもわからなかった」
「……そう」
「だけど、犯人は女だ」
俺がそういうと、みんなはキョトンとしていた。
「俺の横を通り過ぎたときなんか、……なんだろう?……いい匂いっていうか、女らしい匂いがした。……ああ、香水だ。香水」
そう、香水のいい匂いがした。やさしい匂いだった。
「女の人だったんだ。てっきり、男の人だと……」
シャミが呟いていた。ドロボウ=男っていうイメージだもんな。普通。
「明日は頼むぜ、ロイ!」
八百屋のおっちゃんに言われた。
「ああ、次こそは捕まえられるように頑張るよ」
そして、俺たちは反省会などをするために家路についた。




