事件
シャミが家に戻って来てから一週間が経ち、魔王城の復興もほとんど終わっていた。俺たちにいる町にもいつも通りの活気が戻っており、俺は前と変わらない生活を送っていた。そんな時町に一つの事件が起きた。
その事件を知ったのは俺とシャミが買い物に出かけている時だった。
「あ、ロイさん!ちょっといいか!?」
俺に話しかけてきたのは魚屋のおっちゃんだった。いつも魚を安く売ってくれて、いつもお世話になっている。
「どうしたんですか?」
おっちゃんはいつもは優しい笑顔をしているのだが、今は深刻な顔をしている。
「ここ最近のことなんだが、よく魚が盗られるんだ」
「はあ、ドロボウ、ですか」
「ああ。時間があったらでいいんだが、話を聞いてくれるか」
「別いいですよ。その前に魚買いたいんだが」
「あ、どうも!」
おっちゃんは営業スマイルで元気よく答えてくれた。サービスで一つ多くもらってしまった。
「ここどうぞ」
俺は店の少し奥にあるイスを勧められ、そこに座った。隣にはシャミも一緒にいる。買い物をしてもらった方がよかったのだが「私も聞きます!」と言うので、これから一緒に話を聞くことにした。
「盗まれることなんだが、この店だけではなく、肉屋も八百屋もいろんな店の商品がよく盗まれるんだ」
「じゃあ、野良猫の仕業ではないか……」
魚屋だけだと性悪猫が盗んでいくと言う可能性もあったのだが、肉や野菜は盗んでいかないだろう。
「いつごろ気づくんですか?」
シャミが聞いた。
「営業時間中なんだ」
白昼堂々盗むドロボウもいるんだな。
「盗んでいるところとかは見たときはないのか?」
「それらしい人物は見たときあるんだが、チラッとだけで特徴ひとつ見つけられなかった」
「そうなんですか」
これは犯人を捕まえるのは並大抵のことでは無いな。
「今までそういうことは?」
「……無かった……かな?猫に盗られるときは一回二回あったが」
おっちゃんは苦笑しながら答える。
「で、その犯人を捕まえてくれないか?」
「わかってますよ」
俺はいいながら立ち上がった。シャミも立ち上がる。
「特徴とかわかったら教えてくださいね」
「頼むぜ、ロイさん」
俺は買い物の続きと情報取集のため、店を後にした。
次に立ち寄ったのが肉屋。
「やっぱり、盗まれるのか」
「そうなのよ」
この肉屋は今日、おばちゃんが立っていた。この店は夫婦仲良く経営している。
「このガラスを壊されるのか?」
肉は俺たち客側から取れないようにガラスが張られているため、盗むにはガラスを壊すか、おばちゃん側から盗るしかない。
「それがガラスは壊されないのよ。ちょっと目をそらした隙に肉が盗まれているって感じね」
「特徴は?」
「一瞬しか見てないからわからないわ……」
「やっぱりか。……おばちゃん、この肉200gお願い」
「いつもご贔屓にしてくれてありがとね」
「ここの肉ほどうまい肉屋なんて知らないから浮気なんてできないよ」
「ありがとう。じゃあ、サービスして50g追加してあげる」
なんかサービスしてもらった。
「おばちゃんも何か情報掴んだら教えてね」
俺は肉をシャミに渡し、野菜を買いに八百屋に向かった。
「おっちゃん、今日も元気いっぱいだね」
「おう、ロイか!今日もおいしい野菜あるぞ」
「じゃあ、おっちゃんのおすすめのもの詰めてくれ」
「まかせろ!」
おっちゃんはけっこうな量を俺に渡し、
「特別サービスで400円だ」
「いいのか?明らかに赤字だろ」
「いいんだよ!いつもがんばってくれるお礼だ!」
「んじゃ、ありがたくもらうよ」
400円を渡し、その野菜の詰め合わせをシャミに渡した。
「で、おっちゃんもその犯人を見たときないか」
「見えるのは一瞬でな。どうしてもそのドロボウを見れねえ」
「そうか。何盗まれるかわかるか?」
「いろいろだが、ネギとかキャベツとかがけっこう盗まれる気がするな」
「そうなのか。……話をずらすがあそこはなんで今日閉まってんだ?」
俺は果物屋を指差して聞く。
「なんか体調不良で休むんだとよ。で、代わりに売ってくれないかと言うことで少し果物が入ってる」
なるほど。だから桃とか八百屋には無いようなものがあるのか。
「じゃあ、うまそうだからみかんもくれ」
「まいど!」
俺は個人的に食べたかったみかんを買った。
その後も情報を聞いた後、家に帰ることにした。
「なんで盗んでいくんだろうね」
シャミは少し悲しそうな顔をする。
「世の中には生活も苦しい奴とかもいるからな」
魔界にも貧富の差はやはりある。
「だけど、やっぱりドロボウはよくないよ」
「まあな」
話を聞くと盗むのは「人」のようなので魔物の仕業ではないだろう。ゴブリンとかの人型の魔物の可能性も考えたが肉屋の盗み方を見ると、魔物ではないだろう。魔物ならガラス壊すだろうがな。
「はあ、捕まえるのも大変そうだな。魔界にはギルドとかいう便利なものはないしな」
「うん。魔王様も何回か考えたことがあるらしいけど、やっぱりいろいろと手続きがあるみたいで断念してるみたいだよ」
だからこそ私たちがいるんだけど、とシャミは付け足す。
確かに、俺たちのような悪魔達、自警団みたいなのが無ければ治安はこんなに良くないだろう。
「よし、町のためにも早くドロボウ捕まえないとな」
俺は家にいるリックやリンに話を聞かせるため、急いで家に帰った。




