絶体絶命
あちらこちらで銃声が聞こえる。叫び声も聞こえる。こう思うとやはりここは戦場なんだなと改めて思い知らされる。
「お兄ちゃん、リンちゃんとリックさんは?」
「リンは6階。リックは4階にいる」
「じゃあ、ひとまずリンちゃんのところに」
「わかってる」
俺とシャミはリンのところに向かうため、急いで階段まで走って行った。
「怯むな!相手は小娘一人だ!」
リンは孤軍奮闘している。周りにいた悪魔はすでに殺されているか、戦意喪失して部屋の端に集まっている。このフロアでまともに戦っているのはリンだけだ。
「……弾が」
銃の弾がまた一つ底に尽いた。一人で戦っているものなので弾の消費が激しい。残っている銃はリボルバー式の拳銃とアサルトライフルだけだ。アサルトライフルは中距離の敵との銃撃戦を予想して作られているので接近戦では分が悪い。そうすると残っている拳銃だけなのだが、リボルバー式なのでリロードに少し時間がかかってしまう。そのためリンは少し苦手意識を持っていた。
「でも……文句言っている暇なんてないしな」
リンは拳銃に持ち替え、近くの敵の眉間を正確に撃ち抜いた。
「一人で行くな!大人数でかかれ!」
特撮ヒーローの敵みたいに一人一人かかってこない。
「……ハァ」
小さくため息を吐き、一発で確実に敵を倒せるように素早く構え、急所に当てていく。
リボルバー式のため6発しか弾が入らない。撃ち尽くしたら素早くリロードを行う。
しかし、天使達はリロードの隙を見逃さない。ここだとばかりに一斉にかかってくる。
「チッ」
リンは似合わない舌打ちをした後、前方の敵に向かって回し蹴りを決めた。そして、軸足を変え、勢いを殺さずに後方にいた敵に向かっても回し蹴りを決めた。その後素早く装弾数が多いアサルトライフルに持ち替え、倒れていた天使を撃っていき、呆然としていた天使にも容赦をせずにとどめをさしていった。
このあっという間の内にこの階にいた天使は全滅したのだった。
「…………おぉ」
悪魔の一人が感嘆の声をあげた。
本当はここは喜ぶ場面なのだが、リンは一つ考え事をしていた。それは「なぜ、あの時回し蹴りなどをしたのだろう」と言うことだ。その理由は今着ているのがミニスカートなのだ。そうすると回し蹴りをすると普通にパンツが相手に見えることになる。もしかしたらさっきの「おぉ」という声は自分のパンツのことだったのかもしれない。そう思うと少し、いや、かなり気持ちが落ち込む。あの悪魔も殺していいだろうか。
「動くな」
背中に銃を突きつけられた。天使を全員殺したつもりだったのだが、一人生きていたのか。
「死んでもらう」
引き金を引く気配を感じる。リンは自分の不甲斐なさを悔やみながら目を瞑り、死を覚悟した。
「おいおい、どうした!?」
男が叫ぶ。
「くそっ、なんだあいつ」
悪魔の一人が呟く。男が呼んだ援軍はしばらくは抵抗したもの、すぐに悪魔たちにやられていた。その後、悪魔が総掛かりで男に挑んだが、かすり傷一つ負わせていなかった。
「お前らに用はない。俺が戦いたいのはそこの娘だけだ」
指差されたのはもちろんリックだ。
リックは黙って二刀の短剣をを構える。
男はリックが武器を構えるのを見た後、リック目掛けて大剣を振りかざした。
リックはそれを避け、装甲が薄いと思われる腕の関節に短剣を突き刺した。
「……っ!?」
硬い。普通は曲げやすいようにと関節は薄いはずなのだが男のその部分は他の場所と同じように厚かった。
「狙いはいいが、わしのには通用しないな」
男は素早く剣の柄でリックの腹を刺し、全力で顔を殴った。
「がっ……」
リックは飛ばされ、壁に激突した。
「飛んだな」
男はニヤッと笑い、ゆっくりとした歩きでリックのところに歩いてきていた。
「……私も……終わりかな」
体が動かない。指一本も動かない。
リックが体を動かそうとかんばっている時にも男は向かってくる。途中何人かの悪魔が斬りかかったが、すぐやられた。
そして、男はリックの目の前まで来た。
「じゃあな。楽しかったぞ」
男は落ちていたリックの短剣を拾い、リックの喉元を狙い振りかざした。




