物足りない生活
シャミがいなくなってすでに一週間が経っていた。正直言うと俺はいまだに立ち直れていない。
「…すぅ…すぅ」
リンが俺の膝で寝息をたてて寝ている。リンの寝顔を見ていると不思議と心が静まる。
「ロイー、なんか食べる?」
リックはお菓子が入っているところをガサガサ音をたてている。
「んー、じゃあ、なんかいる」
「わかったー」
あれ以降シャミの話は出していない。まあ、出されたところで困るのだが。なんか二人とも俺に気を使っているみたいだ。ありがたいようなそうでもないような。
「はい、これでよかった?」
リックは俺にチョコを持ってきてくれた。
「ありがと」
俺は礼を言い、テーブルの上に無造作に置いた。
「あれ、食べないの?」
「もうちょい経ってから」
リックは「ふーん」と納得したような声を出し、俺の隣に座り、持ってきたお菓子を次々と開け始めた。
「リック、太るぞ」
「太らないもーん」
「嘘つけ。多少ついてきただろ」
俺はリックの脇腹をつまんだ。
「ちょっ、触らないでよ。セクハラだよ」
「無理矢理キスするのはセクハラじゃないのか?」
「だって……ん?あれって無理矢理じゃないでしょ!」
「いや、無理矢理だろ」
「本当は受け入れてたくせに。だってロイの方から舌入れてきたじゃん」
「入れてねえよ!」
リックはなんか意味深な目線でこっちを見た後またお菓子を食べ始めた。
俺は無意識にリンの頭を撫でていたらあることに気がついた。
「あれ、耳とんがってる」
「当たり前だよ。エルフなんだし」
食べながらしゃべるのはやめてくれ。行儀悪い。
「そうか、エルフなんだよな」
なんだかわからん独り言を俺は漏らしていた。
「……ん、やめ…て」
リンが寝言を言い始めた。
「なんか言った?」
「リンの寝言」
リンがもそもそと動き始めた。
「…ごめん…なさい」
「リン、大丈夫か?」
少しゆすってみた。しかし、起きる気配なし。どうすればいいかわからないのでリックの方を見てみたらのん気にテレビを見ていた。
俺はリンの方に目線を戻すと、リンが泣いていた。
「…やめて」
本当に心配になってきた。俺は一回リンを起こすためゆすり始めた。
「リン、起きろ」
「……ん、ロイさん?」
リンが目を覚ました。しかし、まだ目には涙がある。
「大丈夫だったか?怖い夢でもみたか?」
と、俺がリンの涙を指で拭いながら聞くと、リンは俺に抱きついてきた。
「前の家にいるときの夢。叩かれてた」
どうやら虐待されていたときの夢を見ていたらしい。
「大丈夫だからな」
俺はしばらくの間リンの頭を撫でていた。
夕方、三人仲良く買い物をしていた。
「夕食何するのー?」
「俺に聞くな。リンに聞いてくれ」
「お魚」
夜は魚を使った料理らしい。
今、なぜかリンは俺の腕にしがみついている。あの夢が原因だろうか?リックは俺と手をつないでいる。カップルとかがよくやっている相手の指と指の間に自分の指を入れるというつなぎ方である。なんか異様にドキドキするのは俺だけだろうか。
そんな両手に花の状態で買い物をしたのであった。周りの悪魔たちに見られていたのは言うまでも無い。
すでに俺はベッドの中である。風呂にも入った。飯ももちろん食べた(とてもおいしかった)。リンとリックは恐らく歯を磨いているだろう。
「今日も終わったな」
天井を見ながらボソッとつぶやいた。
「あ、ロイ、もう寝てるの?じゃあ、私も寝る」
リックはそう言い、ベッドに一直線に来て、入ってきた。
「おやすみなさい」
リンもそういうとベッドに入ってきた。
「おやすみ」
俺は電気を消した。消したと言ってもリンのために豆電球はつけているのだが。
しばらく寝れなかったので起きていると
「ねぇ、ロイ」
「ん?」
「おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
「ちょっと、私と目合わせて言ってよ」
面倒くせぇ。でも、しょうがないしてやるか。
俺はリックの方に体ごと向けた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
リックは俺に満面の笑みを浮かべ、そして、目を瞑った。
俺はそのリックの寝顔(まだ寝てないかもしれんけど)を見ながら思った。このリックの今までに無かった行動をするのは俺を気遣ってしているのだろうかと。
俺はこの一週間で寂しい思いをしながらもシャミがいない生活に多少慣れていた。しかし、何かが足りない気もしていた。……その足りない部分はやはりシャミなのだろうか。




