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悪魔達の生活  作者: 鍵宮 周
シャミの消失
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無力

 俺は魔王城に向けて全力で走っていた。周りの住民が「どうしたんだ?」という目線を俺に送っていたがそんなのは気にならない。俺の体中が苦しい、足を止めろなどと信号を出すが無視して走る。歩けば完璧間に合わないのだ。走っても間に合うか間に合わないかの瀬戸際なのだ。

「ハァ、ハァ……」

 体力の無さを知らされたな。

 魔王城についたと思ったらなぜか入り口を閉めていた。俺は滑り込めるかわからなかったがラストスパートをかけた。そして門を通り抜けようとしたとき

「止まれ!」

 もちろん門番らしきやつに止められた。門の両端にいる門番が持っている槍を×にさせて俺を強制的に止めた。

「俺は用があるんだ!通せ!」

「今度来るんだな」

「うるせぇ!こちとら急用なんだ!」

 俺と門番は言い争っていた。周りに野次馬が集まり始めた。

 しばらくの間言い争っていると、肩に手を置かれ

「落ち着け。あ、すんません、こいつ俺の連れなんで連れて帰ります」

「あん!?」

 振り向くとどっかで見たときのある男がいた。


 その男はあのショッピングでの例の事件の後に俺に声をかけた男だった。俺より身長が高い。……当たり前か。ファッションかなにかだと思うが頭にネックウォーマーみたいなのを着けている。なかなかのイケメンである。普通に女悪魔に人気がありそうだ。

 今は喫茶店にいる。

「どうしたんだ、あんなに怒って」

「ああ……それは……」

 俺はシャミという悪魔がいなくなったことを簡潔にわかりやすく説明した。イケメン悪魔はときどき相槌をしながら俺の話を聞いている。なんか話しやすい相手だ。

「そんなことがあったのか。……そんな話、俺は始めて聞いたな」

「例が無いのか……」

「ああ。俺たちに憑く悪魔は普通は主人に解雇を宣言されないとその家からいなくなることはないんだ」

 それは知っていた。リンもそれだったしな。

「はぁ」

 俺はため息をついた。自分が情けないからだ。

「落ち込むな。なんかの手違いということもあるかもしれないだろ」

「でも、えーっと……あんたは」

 そういえばイケメンの名前はわからない。

「あ、俺はジンだ。種族は堕天使」

「俺の名前はロイ。獣人な」

 ジンは「よろしくな」と言った。

「でも、ジンはそんな話聞いたこと無いんだろ」

「まあな」

 くそっ、どうすれば……。

「まあ、いざと言うときは呼んでくれ。力になるから」

「ああ、助かる」

 店員が俺たちが注文したものを持ってきた。俺は自分が頼んだコーヒーを飲んだ。そこでふと思ったことを聞いた。そんなゆっくりできる状況じゃなかったのにな。

「ジンの悪魔ってどこにいるんだ」

 周りにそれらしき悪魔はいない。

「ああ、買い物を頼んでる。俺も手伝うって言ったんだが譲ってくれなくてな。ここで待っているということだ」

「なるほど」

 俺はコーヒーを急いで飲み、席を立った。

「すまないが俺は帰る」

 ジンは「そうか」と言い、その他には何も言わなかった。

「あ、お金」

「そんなのいらねえよ。早く帰れ」

「ありがとう」

 俺は礼を言い、帰路についた。


 帰っている途中、俺は自分の力の無さにむしゃくしゃしていた。

「もう、シャミとは会えないのかな……」

 歩きながら空を見てつぶやいた。今日が恐らく最初で最後のチャンスであったのだろう。そのチャンスを逃してしまった。リックたちにこのことを話したら失望してしまうかな。それとも連れ戻してくるまで帰ってくるなとか言われて追い出されたりしてな。……リックなら本当にしそうだ。

「はぁ」

 これは何に対するため息だったのか俺にもわからない。


「ただいま……」

 日はすでに暮れ始めていた。

 俺はソファーに力なく座り、拳でソファーを殴った。しかし、それで何かが解消させるわけでもない。

「どう……だった?」

 リンが聞きにくそうに聞いてきた。俺はことのいきさつを下を向きながら話した。リンは俺の隣に座り、リックは俺の斜め前に立ったまま聞いてくれた。

 話し終わったらしばらく沈黙が続いた。怒鳴った声でもなんでもいいから言ってもらった方が楽だったかもしれない。

 リンは途中から俯いていた。やはり、俺に失望してしまったのだろうか。リックはじっと俺のことを見て聞いてくれていた。

 急にリンが立ちあがった。すぐに何かを焼く音が聞こえた。恐らく夕食を作り始めてくれたのだろう。

「リック、すまないな。俺、なにもできなかった」

 俺がそう言うと、リックは俺の前まで来て、座っている俺と同じ目線になるようにしゃがんだ。内心「ビンタでもされるかもな」と思っていたら

「ロイのせいじゃないよ」

 やさしく抱きしめられた。母親から抱きしめられているようなやさしさだった。

「すまん、本当に……すまん」

 そして俺は泣いていた。自分ががんばっている時に人からやさしくされてついウルッと来てしまうやつだ。

 俺はリックの肩に顔をくっつけ泣いていた(普通は逆だよな)。リックは無言で俺の頭を撫でてくれたいた。

 俺が泣き止んだ後、リックが

「がんばったね、ロイ」

 やさしく言われ、少し長いキスをしてくれた。そのキスはとてもやさしいキスだった。

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