シャミの心情
時は少し遡る。
「お兄ちゃんたち行っちゃったね」
「そう…ですね」
つい先ほどお兄ちゃんとリックは依頼のために出かけていった。おまけに2、3日帰ってこないらしい。正直に言うと寂しい。2日も2人がこの家からいなくなってしまうなんて。なんか急に静かになった気がする。
「私…お昼ご飯作りますね」
「あ、リンちゃん私も手伝うよ」
「シャミさんは…休んでて…いい」
おとなしい性格のためかあまりしゃべるのが得意じゃないらしい。『…』という部分でわかるだろう。
「じゃあ、お願いね」
シャミはリンに昼食の準備を任せた。何しようかなと考えながらソファーに座ったらテーブルの上に置いていた自分宛ての手紙に目が入った。
「読んでみようかな」
シャミは手紙を読んでみることにした。
「え!?」
つい驚いてしまった。当たり前だろう。その内容はこの家に憑くのを止め、新しい悪魔に憑けという内容だったからだ。けっこう大きな声を出してしまったが、リンは料理に集中しているためか気づいていない。包丁のトン、トンという音が心地よく聞こえた。
リンは手紙を読んだ後のシャミの様子が変だとすぐに気がついた。前憑いていた所があれだったために人の表情などをよむのが得意になっていた。リンも気になるのだがシャミにそれを聞いてはならない気がしてたので聞いていなかった。シャミが家を出て、ロイとリックがケンカしているときに実は後悔していた。あの時聞いていればこんなことにはならなかったかもしれないと。そんな後悔をするのはまだ後のことであるが。
「どうしようかなー」
自分で自分に聞いていた。魔王様からお手伝い悪魔への命令(手紙)は絶対である。無視した場合はなにかしらの罰則がある。だから必ず新しい悪魔の元に向かわなければいけない。
「みんなと離れちゃうのか…」
嫌だ。離れたくない。お兄ちゃんともリックさんともリンちゃんとも離れなくない。でもいかなきゃいけない。シャミの頭の中でこういう葛藤が行われている。誰かに相談してもどうにかなる問題でも無いのだが誰かに聞いてもらいたい。相談したい。
シャミはロイとリックが帰ってきたら相談しようと思っていた。もちろんリックに。
もちろんそんな願いはかなわなかった。2、3日で帰ってくるとは書いていたがまだ帰ってこない。魔王城に向かう日は遅くても明日だ。今日中に帰ってこないと相談ができない。昨日リンにも相談しようかと思ったがやっぱりやめていた。なぜかは知らないがリンには心配させたくなかったのであった。あの店員さんにも相談しようとしたのだが他人まで巻き込むことをしたくなかったのだ。シャミは自分の頭の中で答えが出ないものを考えていたのであった。
リンは手紙を読んでからずっと上の空だったシャミをずっと気になっていた。かと言って、シャミの目を盗んで手紙を読もうとはしない。
「シャミさん…どうしたのかな?」
リンはシャミのことをどこまでも心配していた。しかし、シャミの方から相談が来ないということは自分で解決ができるかとなのだろう。と、自分の中でそう結論を出していた。
とうとうロイたちが帰ってくることは無かった。今日は魔王城に向かわなくてはいけない日だ。シャミはすでに荷造りを終えていた。まだリンは寝ている。リンに心配をかけないためにもリンが寝ているときに出発しようと昨日の夜にすでに決めていたのだ。
「せめて、手紙書こう」
シャミは手紙を書き始めた。書いている途中涙が出ていた。なぜ泣いているかは自分でもわからなかった。
手紙を書き終えたシャミは荷物を持ち玄関に行った。
「じゃあね。みんな」
シャミは恐らく戻らないであろう家にさよならを言い、家を出た。