2日目
瞼越しでもわかるまぶしい太陽の日差し。明るいを通り越して眩しいというのは魔界としていいのだろうか。なんか魔界っていつも暗いというイメージがあるからな。
ニワトリの「コケコッコー」という人間でいたときにすら聞いたこともない声まで聞こえてくる。
「あっ、起きました?」
声がしたほうを振り向く。シャミがエプロン姿で台所らしきところで料理をしている。ギザカワユス。
「もう少しで朝食作り終わるのでちょっと待っていてください」
いえいえ、シャミのそのカワイイ姿を見れるならいくらでも待っていましょう。
それにしてもいい匂いが家全体に広がっている。
そういや、朝食として出されるのは人間界の食べ物なのだろうか?魔界の食べ物と言ったら○○の目玉とかグロテスクなものしか思いつかない。……想像しただけでも嫌だな。
「おまたせしましたー」
ほほえみながら料理を持ってくる姿はまさに天使のようだ。天使じゃなくて悪魔だぞとかいうツッコミはいらないからな。
椅子に座りテーブルの料理を恐る恐る見た。
そこにはベーコンエッグらしきものをはじめ人間界の食べ物が並んでいた。一応昨日は何も食べてないのでよりおいしそうに見える。少し焦げてるものもあるけど。
「初めての食事なので下界の食べ物にしてみました。少し焦げてしまいましたけど……」
「少し焦げてるほうがおいしいから大丈夫だよ」
「ほ、本当ですか!?」
なんとかご機嫌を崩さないようにすんだようだ。わかっていると思うが下界というのは人間界のことな。
「それじゃ、いただきます」
「はい、どうぞ」
うむ、なかなかの腕じゃないか。
そして食べる仕草もかわいい。料理がうまいしかわいいってもう完璧だ。俺はなんといい悪魔さんに憑いてもらったのだろう。
「はい、ご主人様。あーん」
「ん、あ、あーん」
なんて新婚さんみたいなやりとりもあったということも付け足しておこう。
今日はいい天気だし探検がてら散歩にでも行きたいなーとか思っていると
「今日は魔王様のお城に行って転生が完全に終了したことを報告に行きますからね」
なるほどそんな面倒なことをしなければいけないのか。まあ、シャミと2人でいけるしいいとしよう。
「それではご主人様行きましょう」
「ちょっと待ってくれ、そのご主人様というのはやめてくれないか?」
「なんでですか?」
「なんか堅苦しいというか他人行儀というか……」
「わかりました。それでは……お兄ちゃんで!」
まさかお兄ちゃんで来るか。俺はてっきりロイさんとか来ると思っていた。個人的にはお兄ちゃんの方がうれしかったから別にいいんだけどね。こんな可愛い子からお兄ちゃんとか最高じゃないか。
「じゃ、お兄ちゃん行こっ」
魔界の街といっても特に人間界の街とたいして変わらない。
「魔王城ってどこなんだ?」
「ここをまっすぐ行ったところです」
ちなみに今シャミと手をつないでいる。なぜかは俺に聞かないでくれ。なんか流れだ。
今頃気づくのもなんだが背が小さくなっている。死ぬ前は175はあったのだがいまは160といったところだろうか。
「やっぱり身長とか気になりますか?」
「ん、ちょっと」
考えていることがわかったらしい。
のちのち聞いた説明によると種族によって身長が違ってくるらしい。俺の獣人族はたいして大きい種族じゃないらしい。
こういった説明を聞いていたらいつの間にか魔王城に着いていた。
手続きはほとんどシャミがしてくれ、俺は転生される前のことを記入したぐらいだ。
しかし、魔王の肖像画とかないのかね。一回見てみたい気もする。
城からの帰り途中食材の買い物に付き合った。ほとんどが荷物持ちだったがな。シャミのためと思えばこんなの軽いものだ。
買い物とかをしているうちに時間はすでに昼だ。
すこし腹が減ってきたな。
「そろそろ何か食べますか?」
「そうだな。腹も減ってきたし」
「外食でいいですよね。何が食べたいですか?」
「うーん、いまいちわからないからシャミの好きなところでいいよ」
「そうですか」
俺はシャミの手料理のほうがうれしいけど。まあ、シャミのどこに行こうか迷っている顔もまたかわいいのでいいとしよう。
向かった所はファミレスみたいなところだ。
「いらっしゃいませー」
この挨拶も魔界でも一緒なんだな。というか、挨拶系すべて一緒か?
「あっ、シャミちゃん。その子がシャミちゃんのご主人?」
「はい、ロイさんです」
「ふーん、初めてのご主人なんだからがんばりなさいよ」
「はい!」
なんだかシャミとこの店員さんは知り合いのようだ。それにしてもシャミが憑く悪魔は俺が初めてなのか。なんか意外だな。料理とかうまいし、すでに何人かに憑いてるのかと思っていた。
「あと、早く契約しておいた方がいいからね」
「あ、はい」
……契約?なんのことだ?
「それじゃ、シャミちゃんもロイちゃんもゆっくりして行ってね」
なんか元気いっぱいの店員さんだったな。
ここではなんかスパゲッティのようなものを食べた。
普通においしかった。もちろんシャミの料理には劣るけどな。
「「ただいまー」」
無事帰宅。なんか慣れない場所を歩いたせいか疲れたな。だらしねえな、俺。
時はすでに夕方。いろんなところをブラブラしているうちにこんなに時間がたってしまった。
そして今はソファーの上だ。
「夜ご飯作らないとなー」
疲れているのに俺のために夕食を作ってくれるとはいい子だ。ありがたい。
「少し休んでからでいいよ」
「えっ、お兄ちゃんお腹減らない?」
「大丈夫。疲れたまま夕食作って指でも切っちゃったら大変だからな」
「じゃあ、すこし休むね」
そのままソファーに横になって休むと思ったら、とことこと歩いて俺の隣に座った。そしてそのまま俺の膝を膝枕に使い始めたじゃないか。
「お兄ちゃんの膝の上は落ち着くね」
髪の毛の感覚が服を通して伝わりくすぐったい。
たまにシャミの耳を触ったり、頭をなでたりしているうちに気持ちよくなったのか寝てしまった。
寝てしまい夕食が遅くなるが、だいぶ疲れていたということだろう。ゆっくり寝させてあげよう。
何回も言うがかわいい。寝顔なんかもうかわいすぎる。キスの1つや2つしたくなるぐらいかわいい。いや、もちろんしないけどね。
しばらくしたらシャミは急にビクッ!っとして、起きた。すごいビビった。
「あ、ごめんなさい、寝てしまいました!早く夜ご飯つくらないと」
「いいよ、焦らなくて。あとよだれ拭け」
「あ」
よだれを拭いた後「ちょっと待っててください」と言い、急いで夕食を作り始めた。
大体30分ぐらいでできただろう。メニューは……なんか魔界らしい料理とだけ言っておこう。
「い、いただきます」
まずはスープ。目玉が入っていた気がするが、見てなかったことにしよう。
「うまい」
意外とうまかった。これは魔界の料理がうまいのかシャミの腕がいいのかはわからない。まあ、とにかくすべてうまかった。
そのあとはテレビ(おもしろいのかおもしろくないのかいまいちわからなかった)を見たり、風呂(久々で気持ちよかった)に入ったりと普通の日常だった。
「お休み」
「はい、おやすみなさ~い」
電気を消すと当たり前のようにシャミが俺のベットの潜り込んできた。
「やっぱりあったかいね」
と言い、俺にピッタリとくっついてさっそく寝てしまった。
「相当つかれていたんだな」
自分で言ったセリフだが今思えば当たり前だ。初めての作業ばっかりで疲れないほうがおかしい。しかし、昼寝してよくすぐ寝られるな。俺は昼寝してしまうと夜は寝れないからな。
こうピッタリとくっついてもらうとわかるのだが、少し寂しいと思っていた胸も意外とあるのだな。……何を考えてるんだ俺。
さっさと寝てしまおう。
そして俺は明日できるだけ手伝おうと心で決めて眠りについた。