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悪魔達の生活  作者: 鍵宮 周
日常
13/80

過去

 この前見た夢。詳しくは思い出せないがとても大事な記憶だったと俺の頭の中の奥底がそう叫んでいた。そして、それから一週間ぐらい俺は人間のときだと思われる夢ばっかり見ていた。


 これは俺の姿を見たところ小学4、5年と言ったところのころだと思う。壁の向こうから物をぶつけられる音が聞こえる。

「お前は俺にそんなに不満を持っているのか!」

「当たり前じゃない。子供のことなんかどうでもいいとか思ってるんでしょ!」

「思っているわけないだろう!」

 夫婦ゲンカであろう。普通に考えれば俺の親だろうな。声も何も覚えていない。

 俺は自分の部屋と思われる場所の隅っこで小さい女の子らしき子と身を寄せ合い、丸くなっていた。前回書いた夢とは違う光景である。前回は夫婦ゲンカの声とか聞こえなかったからな。

「OO、怖いよ」

「大丈夫だよ。俺も一緒にいるからな」

「う、うん」

 OOの部分は何といったか聞こえなかった。夢とはいえ俺もなんとなく恐怖を感じる。記憶は忘れていても体は覚えているということだろう。結局そのケンカは朝まで続き、それまで俺とその子(恐らく妹だろうな)はずっと体を寄せ合っていた。


 急に今までの風景ががらりと変わった。まあ、夢なんてそんなもんか。

 その風景は俺と妹と思われしき子と仲良く2人で家に帰る最中だった。その子の格好はまだ幼稚園の格好であり、だいぶ歳が離れていたということがわかる。

 家に着きドアを開けようとすると鍵がかかっていたらしく鍵で開け、家の中に入っていった。そして、その先では親と思われる男女が見事なくらいに死んでいた。1回見ただけで死んだとわかった。なぜなら、心臓に包丁が突き刺さっていたからな。小さい子は泣いていた。俺はなぜだか知らんが冷静に電話で救急車を呼んでいた。


 また、風景が変わった。今度は葬式の場面だ。もちろん死んだ男女のだ。

 そこからはいたって普通の葬式であった。そして、その後俺たちをどうするかという相談らしきものを親族がしていた。

 結果は俺たちを引き取ろうとするやつはいなくて、俺たち2人だけで住むことになった。たまに親族の誰かが見に来るらしい。料理をはじめとする家事などできなかったが、親戚のコックのおっちゃんがいろんなことを教えてくれた。この人については少しばかり覚えている。悪魔となってしまった今でも感謝している。


 またしても場面が吹っ飛んだ。俺は中学生。小さい子は小学生くらいになっていた。次は俺たち2人で街中を歩いている風景だった。

 小さい子の持っているものを見ると、恐らくオモチャでも買った帰りのようだった。その子の誕生日とかだったんだろう。

 しばらく歩いていると横断歩道が赤だったので止まった。そして、青になり。当たり前のことだが横断歩道を渡った。その子ははしゃいでおり走っていった。

「転ぶなよ」

「転ばないよー」

 そして、ここからは一瞬であった。俺からは大型トラックの影で見えなかったが、車がすごいスピードで信号無視をしてその子をはねた。その子は10メートルほど飛ばされたと思った。ボールのように吹っ飛んでいった。俺はかなり焦った。その車はパトカーに追いかけられていた。そして、すぐ捕まっていた。しかし、俺はそんなのには目もくれず、その子の元に行き、泣いていた。オモチャなどすでに壊れていたがその子はしっかりと持っていた。

 誰かが救急車を呼び、その子が運ばれていった。俺も乗った。


 次の場面は再び葬式。その子の葬式だ。

 親族がまた集まり。刻々と葬式が終わった。遠くのほうでおばちゃんたちが「あの子の家族次々と亡くなっていってしまうわね」と言っていた。

 俺は泣いてなかった。いや、恐らく泣けなかったのだろう。すでに涙は枯れていた。

 誰もが俺を見捨てていた。俺もすぐ死んでしまうとかそのおばちゃんたちが言っていた気がする。しかし、コックのおっちゃんだけが俺を見捨てないでいてくれた。いろんなことをしてくれた。俺の親のように接してくれた。俺は嬉しかった。俺の唯一の家族であった。


 そして、場面は高校2年のあの場面だ。

 俺は一人で帰っていた。そしたら中学時代俺の好きだった子が友達と帰っていた。俺と好きだった子は同じ高校にいっていた。好きという気持ちはすでに消えていた。

 その好きだった子は小さい子と同じように横断歩道を歩いていた。うきうきしているようだった。彼氏でもできたのだろうか。その子が横断歩道を渡っている時、車にはねられそうになった。俺はもう目の前で人が死ぬのは嫌だったのだろう。俺は考える前に走り出し、その好子を突き飛ばした。そして、俺がはねられた。はねられた後もなんとなく意識があった。その子はなぜか俺を見て泣いていた。「死なないで」とか言っていた気がする。俺の意識は消えた。


 終わりかと思ったがまた場面が吹っ飛んだ。

 俺の記憶の奥底にも眠っていない。ここはいったいどこだ?葬式だということはわかる。誰の葬式だ?……どうやら俺のようだ。写真がかざられている。

 遠くでおばちゃんが「死んじゃったわね」とか言っていた。俺を含め俺の家族はこれで全滅だ。

 ほとんどのやつが泣いていなかった。むしろ哀れみの目で見ていた。しかし、2人だけが泣いていた。1人はあのコックのおっちゃんだ。一人身の俺を家族のようにしてくれた人。親戚も家族も超えた人だった。声をこらえながら泣いていた。夢で見たその姿だが俺も泣いてしまった。俺をこんなに思っている人がいるとは思ってもいなかった。

 もう1人は意外なことに葬式に来ていた俺が助けた子だ。高校代表で来てくれたらしい。彼女も声をこらえて泣いていた。なぜだかは俺も知らない。なぜ泣いてくれるのだろう。最後に俺にキスまでしてくれた。なぜ俺のためにそこまでしてくれるのかがわからない。


 俺は自分の葬式のことなど知るはずもない。当たり前だ。だからこの風景が嘘のことかもしれない。しかし、俺は心のそこからこう思えた。これは本当のことであると。

 おっちゃんも彼女も俺を思っていてくれた。誰も信じられなくなっていた俺を。この光景は絶対忘れてはいけないと思った。特におっちゃんと彼女を。その後の2人を俺は知るはずもない。だけど、2人は今でも元気に暮らしてると思う。なぜだかは知らないがそう思える。


 これらの夢は俺に何かを伝えようとしていた。しかし、それがなんなのかはわからなかった。そんな自分がたまらなく嫌だった。

 起きた後もずっと考えていた。俺はこの夢を忘れることは無かった。

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