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嫌われ王子、愛され護衛騎士として人生やり直します

作者: 日御碕 出雲
掲載日:2026/10/22

【第30作目】今回は、入れ替わり系のお話です。


---------------

第一王子エリックは、王国中で有名な人物だった。

もっとも、その評判は決して良いものではない。


容姿端麗。

剣術も優秀。

だが性格には大きな問題があった。

横柄。

わがまま。

自信過剰。

そして人の話を聞かない。


本人だけが、

「私は国民から愛される未来の名君だ」

と本気で信じていた。


そんな彼には二人の護衛騎士がいた。

一人は子爵家出身のキース。

もう一人は平民出身の騎士、ゴンザレスだった。

熊のような体格。

樽のような胸板。

毛深い腕。

無骨な顔。

だが中身は驚くほどお人好しだった。


エリックはよくゴンザレスを馬鹿にしからかった。


「おいゴンザレス」

「はい、殿下!」

「お前のその髪、本当に鳥が住めそうだな」

「ありがとうございます!」

「褒めてないぞ」

ゴンザレスはにこやかに笑った。

「人の話を聞け!」

周囲にいる取り巻き達は笑った。

エリックはゴンザレスを見下し鼻で笑った。

キースは、顔では笑っていたが、拳を握っていた。



エリックには想い人がいた。

学園の特待生マリー。

平民出身の努力家だ。

可愛く、愛嬌もあり、成績も優秀だった。

エリックは頻繁に誘った。

イザベラという許嫁の侯爵令嬢が居たにも関わらず。

高級レストラン。

高級菓子店。

高級喫茶。

そして延々と続く自慢話。

「私は将来名君になると思うのだ」

「へえ」

「国民からも絶大な支持を受けている」

「そうなんですか」

「たぶん」

「たぶんなんですね」

マリーは苦笑いした。

正直なところ苦手だった。

だが料理は美味しい。

しかも全部奢り。

貧乏な特待生には魅力的だった。

だから付き合っていただけである。

エリックだけは、脈があると思っていた。



その日の帰り道だった。


路地裏から黒装束が現れた。

「何者だ!」

ゴンザレスが剣を抜く。

キースも反応する。

だが。

シュッ。

吹き矢が飛んだ。

「なっ……」

キースの胸に刺さる。

そのまま崩れ落ちた。

「キース!」

エリックが叫ぶ。

黒装束達が一斉に襲いかかってきた。

「殿下!お下がりください!」

ゴンザレスが前に出た。

棍棒が振り下ろされる。

ゴッ!

肩に直撃。

普通なら戦闘不能だった。

だがゴンザレスは止まらない。

「おおおおっ!」

一人を吹き飛ばす。

さらに横から殴られる。

ゴン!

頬が裂ける。

腹を蹴られる。

膝に棍棒が入る。

それでも下がらない。

まるで城壁だった。


吹き矢が飛ぶ。

一本目。

エリックへ向かった矢を胸で受ける。

「ぐっ!」

倒れない。


二本目。

首を狙った矢。

肩で受ける。

「殿下には!」

膝をつく。

それでも立ち上がる。


三本目。

脇腹へ突き刺さる。

流石にふらついた。


襲撃者達が青ざめる。

「何なんだこいつ!?」

「まだ倒れないぞ!?」

ゴンザレスは血だらけの顔で笑った。

「殿下……ご無事ですか……」

エリックは呆然とした。

自分のために。

ここまで命を懸ける家来がいる、やはり自分は国の宝だと。


四本目の吹き矢が放たれる。

ゴンザレスは最後の力で飛び出した。

だが。

足がもつれた。

限界だった。

矢は肩をかすめる。

そのままエリックへ飛ぶ。

「殿下ぁぁぁぁっ!!」

吹き矢が刺さる。

エリックの意識が遠のいた。

後ろへ倒れる。

ゴッ。

嫌な音が響く。

後頭部が大石の角へ直撃した。

襲撃者達の顔色が変わった。

「まずい!」


護衛のゴンザレスと第一王子エリックは動かなくなった。



真っ白な空間。

エリックの意識は漂っていた。

どこかで声が聞こえる。

「あれ?」

「おかしいぞ」

「何で二人いるんだ?」

「こっちじゃない?」

「違う違う!」

「やばいぞ!」

「見つかる前に早く戻せ戻せ!」

慌てる声。

悲鳴。

何かがひっくり返る音。

訳が分からないまま。

意識が引き戻された。




次に目を覚した時、そこは城の医務室だった。

全身が痛い。

とてつもなく痛い。

起き上がろうとした。


激痛。

「ぎゃああああああっ!!」

キースが飛び起きた。

「おお!気が付いたか!」

「どこだ!?」

騎士長も近付いてくる。

「無理をするな」

「何があった!?」

「覚えていないか」

騎士長は落ち着いた声で言った。

「お前は殿下を守って戦ったのだ」

「?!」

「襲撃者にやられたのだ」

「肋骨にひびが入っている」

「吹き矢を三本受けた」

「三本!?」

「右足を骨折している」

「え?」

エリックは体を起こそうとした。

図太く毛深い右足が吊られていた。

「え?」

もう一度見た。

「待て待て待て!」

エリックは叫ぶ。

「何が起きているんだ!?」

「何って」

キースが首を傾げた。

「ゴンザレス落ち着け」

「意味が分からん!」

騎士長も頷く。

「普通なら死んでいたぞ」

「?!」

「だが生きている」

「なぜだ!」

「さすがゴンザレスだな」

「なんだその説明は!」


違和感を覚えた。

手を見る。

太い。

毛深い。

嫌な予感しかしない。

鏡を持って来させる。

そこに映っていたのは。

顔を腫らしたゴンザレスだった。

「ぎゃあああああああっ!!」

城中に悲鳴が響いた。


「私はエリックだ!」

誰も信じなかった。

「本物のエリックだ!」

「落ち着け」

「本当だ!」

「頭も打ったからな」

「人格は変わらん!」


結局。

ゴンザレスは、

『王子を守って重傷を負い、自分を王子だと錯乱している忠義の騎士』

という扱いになった。


数日後。

分けも判らないエリックは自分の葬儀に参加していた。

もちろんゴンザレスの体で。


棺には自分が入っている。

盛大な葬儀だった。


エリックは一周回って少し安心した。

(まあ当然だな)

(皆、悲しんでいるはずだ)

貴族達の会話が聞こえる。

「痛ましい事故でしたな」

「本当に」

(うむうむ)

「政治的には安定しますな」

「ですな」

(待て)


騎士達。

「気の毒だったな」

「本当に」

(そうだろうそうだろう)

「じゃあ今夜飲みに行くか?」

「いいな」

「ゴンザレスも誘ってどんちゃん騒ぎだ」

「賛成」

(私の葬儀中だぞ!?)


マリーの方を見る。

友人が声をかける。

「大丈夫?」

「何がです?」

「殿下のこと」

マリーは考えた。

数秒。

「これから誰が奢ってくれるんでしょうね」

「そこかぁぁぁぁっ!!」

周囲の騎士仲間が振り返った。

「ゴンザレス大丈夫か?」

「…」


まだ希望はある。

婚約者イザベルだ。

彼女は悲しんでいるはず。

イザベルは言った。

「お気の毒でしたわ」

エリックは少し安心した。

だが。

「先日、婚約解消のお話をされそうでしたの」

「え?」

記憶が蘇る。

そうだった。

マリーに夢中になりすぎて婚約破棄を切り出そうとしていた。

「結局聞く前に亡くなられましたけれど」

イザベルは優雅に微笑んだ。

「少し面倒事が減りましたわ」

「イザベルゥゥゥ!!」


最後の希望。

父王だった。

王は棺を見つめる。

「エリックよ」

「父上……!」

「お前のことは忘れん」

「ありがとうございます!」

「三日は」

「短ぇぇぇぇぇ!!」

アルフレドもいた。

「兄上……」

「アルフレド……!」

「これで胃薬を飲まずに過ごせます」

「お前までかぁぁぁぁぁっ!!」


その夜。

エリックは本気で落ち込んだ。

「誰も悲しんでないじゃないか……」

そこへキースが来る。

「ゴンザレス」

「何だ」

「殿下が死んで寂しいんだな」

エリックは顔を上げた。

ついに理解者が。

「そうだろう!」

「でも、私はお前ほうが生きてくれて嬉しかった」

「私よりゴンザレスなのか!?」

「?」



その後。

エリックは犯人探しを始めた。

復讐をするためである。


そして、新年の祝賀会にて王の前で叫んだ。

「エリックを陥れた首謀者はアルフレドです!」

場が凍った。


アルフレドが頭を抱えた。

王が天を仰いだ。

騎士長が目を閉じた。

キースが顔を覆った。

イザベラまで頭を抱えた。


本来なら死罪だった。

身分の低い騎士が王族を非難したからである。


だが。

騎士長が庇った。

キースも庇った。

イザベルも助命を願った。

そしてアルフレド本人まで言った。

「許してあげてください」


結果。

死罪は取り消し。

代わりに騎士解任。

門兵への異動となった。


その夜。

王から再び呼び出された。

執務室へ向かう。


そこには王。

アルフレド。

イザベル。

キース。

マリー。

騎士長。

全員が揃っていた。


王が静かに言う。

「本来ならもっと早く貴公へ伝えるべきだった」

「何をでしょうか」

「襲撃の真実だ」

そして語られた。

あの襲撃は暗殺ではなかった。

第一王子エリックを更迭し秘密裏に辺境へ送る計画だった。

王族としての名誉を保ちながら。

王都から遠ざける。

事実上の幽閉。

事前に計画を話せば嘘がつけないゴンザレスから計画が漏れる可能性があった事。

ゴンザレスがあそこまで抵抗するとは思わなかった事諸々。


エリックは絶句した。

「そこまで俺の評価は低かったのか……」

王は苦しそうに目を伏せる。

「王するには不出来だった」

アルフレドも言った。

「兄上を処刑するつもりはなかったのです」

イザベルも頷く。

「わたくしも賛成同意しました」

マリーも小さく頭を下げた。

胸が痛んだ。


全員が味方だと思っていた。

違った。

全員が自分を諦めていたのだ。


追い打ちが来る。


「それと門兵の件だが」

王が言った。

「表面上降格ではあるが実質はそうではない」

「……は?」


騎士長が説明した。

本来それは。

ゴンザレスへの褒賞だった。

長年の功績。

命を懸けて王族を守った忠義。

重傷を負った事への配慮。


危険が少ない。

休暇も増える。

給金は騎士と同額。

事実上の栄転である。


エリックは言葉を失った。


キースが笑う。

「お前の妹さん、大喜びだったぞ」

「妹?」

「兄ちゃんと一緒に過ごせる時間が増えるってな」

マリーも微笑んだ。

「確かに本当に嬉しそうでしたね」

イザベルも頷く。

王まで笑う。

「ゴンザレス。余はお前の忠義を誇りに思う」

騎士長。

「騎士の鑑だ」

アルフレド。

「真面目すぎるのが欠点なくらいだな」

誰も迷わない。

誰も言葉を選ばない。

自然に褒める。

それが本音だからだ。


エリックは理解した。

ゴンザレスは愛されていた。

自分とは比べ物にならないほど。



後日。

怪我が治りゴンザレスの家へ向かった。

妹が飛び出してきた。

「お兄ちゃん!」

笑顔だった。

心の底から。

「休み増えたんだよね!」

「……ああ」

「やったあ!」


その瞬間。

エリックは理解した。

ゴンザレスは愛されていた。

王にも。

騎士にも。

家族にも。

皆に。

自分よりずっと。


夜空を見上げる。

ゴンザレスだけは最後まで守ってくれた。

棍棒で殴られ。

吹き矢を受け。

骨を折り。

それでも最後まで自分を庇った。

本来生き残るべきだったのは。

自分ではない。

ゴンザレスだった。


「……すまない」

初めて。

心から誰かに謝った。



その頃。

天上の神殿。

神様が死んだゴンザレスにチート能力を与え異世界に送り出そうとしていた。

使徒が叫ぶ。

「すみません、間違って魂を別の体に戻してしまいましたぁぁ!」

「えええええっ!?」

本物のゴンザレスが絶叫していた。

「殿下が俺になってるんですかぁぁぁぁ!?」

神も叫ぶ。

「何でじゃぁぁぁぁ!?」

そして転送魔法が発動した。

「説明してくださぁぁぁぁぁい!!」

悲鳴を残し。

ゴンザレスは異世界へ消えていった。

神は頭を抱えた。

「……まずいのう」


こうして。

ゴンザレスの体で人生をやり直す元王子エリックと、

異世界へ飛ばされた本物ゴンザレスの物語が始まったのである。


ちゃんちゃん。

----------------

前回に続き、また投げっぱなしの終わり方です。


5分程度で読める話を書いています。 もしよければ以前書いた話も読んでみてください。


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