88話 南蛮技術者が里見に入る初日
――最初に見えた「壁」
里見の港は静かだった。
しかしその静けさは、迎えの準備が整っているという意味ではない。
沖合に停泊する南蛮船は、港に入れなかった。
水深が足りない――ただそれだけの理由だが、里見にとっては現実を突きつけられる事実だった。
「……入らぬ、か」
善兵衛の低い声に、誰も返事をしない。
小舟を出す
里見はすぐに判断した。
港から数艘の小舟を出し、南蛮船へと向かわせる。
櫓の音が一定のリズムを刻む。
小舟に乗るのは、迎えの使者と通詞、そして護衛数名。
南蛮船の甲板から、技術者たちがこちらを見下ろしていた。
彼らは状況を理解したのか、無言で梯子を下ろす。
最初に降りてきた年配の技術者が、海と港を一瞥し、首を傾げた。
「……港が浅いな」
通詞が訳す前に、その言葉の意味は伝わっていた。
“歓迎”のはずが
里見側に悪意はない。
だが、これは明確な「不便」だった。
技術者たちは小舟に揺られながら、岸を見て、船を見て、再び岸を見る。
彼らの視線は、すでに測量のそれになっている。
「大きな船は、毎回こうするのか?」
「現状では、そうなる」
通詞の訳に、技術者たちは小さく息を吐いた。
歓迎の初日でありながら、
同時に限界を見せる初日でもあった。
桜の沈黙
桜は浜にいない。
少し離れた高台から、港全体を見下ろしていた。
南蛮船、浅瀬、小舟――
その並びは、一つの答えを示している。
(技を呼ぶ前に、器が足りない)
衣も、食も、住も整えつつある。
だが「海」は、まだ整っていない。
技術者の一言
岸に着いた直後、年配の技術者が穏やかに言った。
「この港、
直せば“宝”になる」
善兵衛が思わず顔を上げる。
「直せる、のか」
「時間と、人と、覚悟があればな」
それは叱責ではない。
だが明確な指摘だった。
この日、里見は南蛮技術者を迎え入れた。
同時に――
自分たちが越えるべき最初の壁を、はっきりと見せられた。
皆さんは正解しましたか?
当時の南蛮船はガレオン船かなり大きな船です
そりゃ入港出来ないですよね
それでは次回もお楽しみに
後書きという名のお願い
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