84話 桜が“誤判断を確信する瞬間
――京・近衛邸の一室
夜。
灯りは最小限。
桜は膝の上に帳面を置き、商人から届いた報告を順に見ていた。
内容は――
拍子抜けするほど、平穏。
・酒の流通、滞りなし
・不審な荷止め、なし
・商人への圧、なし
・京の裏での動き、静穏
桜は、ふっと息を吐いた。
「……見てる、けど触らない」
その一言で、全てが繋がった。
確信①
“調べているのに、動かない”という異常
忍びは「疑わしければ切る」。
それが風魔の流儀。
なのに今回は違う。
「様子見、じゃない。
切らない理由を探してる」
桜はそう判断した。
確信②
“公家の盾”が、効きすぎている
近衛前久。
主上への献上。
修繕費用。
「これを“罠”だと認めた瞬間、
風魔は“朝廷に刃を向けた”ことになる」
それを彼らは恐れている。
桜は、筆を止めて呟いた。
「……風魔は、自分が影であることを忘れてる」
確信③
“子供”という存在を軽んじている
最も致命的な誤判断。
「十歳の私が、
朝廷・商い・酒・修繕を
一つの線で繋げると思ってない」
その油断を、桜ははっきりと感じ取った。
そして、確信する。
「──もう、網は見えてない」
伊賀がその誤判断をどう利用するか
桜は、その夜のうちに
伊賀への短い文を書いた。
宛先は――百地三大夫。
内容は、簡潔だった。
桜の指示(要点)
風魔には一切触れない
→ 動かない敵は、誤判断を深める
“表の仕事”だけを増やす
酒の護送
商人の安全確保
公家屋敷の警備補助
※すべて「忍びらしくない仕事」
若い忍びを“見える位置”に置く
→ 風魔に「素人が混じっている」と思わせる
情報は必ず“遅れて”流す
→ 正確だが、半歩遅い情報
百地三大夫の反応
文を読んだ百地は、静かに笑った。
「……これは、戦ではないな」
「相手に“考え違い”を育てさせる策だ」
伊賀の強みは
速さでも、数でもない。
「“待てる”ことだ」
百地はそう判断した。
伊賀の若い忍びの変化
若い忍びの一人が言った。
「風魔は、俺たちを見下してます」
百地は頷く。
「だからこそ、お前たちは“見える場所”にいろ」
「影に戻るのは、
相手が間違いに気づいた“その後”だ」
忍びたちは、その意味を理解した。
桜の独白
桜は、まな姫の隣で静かに言う。
「風魔は、
“これは罠じゃない”って判断した」
「だから次は――
“逃げ遅れる”」
まなは息を飲んだ。
「戦わない戦い、ですか?」
桜は、ゆっくり頷く。
「ううん。“負けたと気づかせない戦い”」
後書きという名のブックマークのお願い
よろしくお願いします




