77話 桜がひかりの技量を一目で見抜く
城の外れ。
桜の配下たちが、新しく整えられた住まいへと荷を運び込んでいる最中だった。
「……あれ?」
桜は、ふと足を止めた。
まな姫のすぐ後ろ。
控えめに、だが一歩も距離を崩さず立つ小さな侍女。
年の頃は、十二ほど。
姿勢は低く、目線は決して主を追い越さない。
――だが。
(……歩幅が一定すぎる)
桜の脳内で、感覚が静かに回転を始める。
砂利の上。
他の侍女がわずかに音を立てる中、その少女だけが“音を残さない”。
足の置き方。
重心の移動。
衣擦れの間。
(忍び……それも、相当仕上がってる)
桜は、何気ないふりで近づいた。
「まな様、お疲れではありませんか?」
声をかける、その瞬間。
少女――ひかりの視線が、
一瞬だけ桜の腰元に落ちた。
刀ではない。
護身用に忍ばせた小さな薬包。
(見た……? いや、“感じた”)
桜は確信した。
この子は、
危険物の位置を無意識に把握している。
桜は、わざと荷の一つを落とした。
ガタン、という音。
その刹那。
ひかりの体が、半歩だけまなの前に出ていた。
ほんの指一本分。
誰にも気づかれない程度。
だが、完全な防護位置。
(……間違いない)
桜は、にこりと笑った。
「その子、いい子だね」
まなは少し驚いた顔で答える。
「わかりますか?」
「うん。
……この年で、その立ち位置は普通じゃない」
ひかりは、初めて桜を正面から見た。
視線が交わる。
その瞬間、桜の目がほんの少しだけ――鋭くなる。
「ひかり、だったよね」
「……はい」
「大丈夫。
ここでは、無理に“影”にならなくていい」
その一言に、
ひかりの喉が、わずかに鳴った。
(この人……見えてる)
百地でも、慈光尼でもない。
別の種類の“危険な人”。
桜は、心の中で結論を下す。
(この子は――
守るために生きる忍びだ。
そして、いずれ“選ぶ側”になる)
その夜、桜は脳内会議で一言だけ記した。
――
服部 星
戦力:高
性格:忠誠一点突破型
育成方針:壊さず、守らせよ
――
気づいた時には、
桜はもう“仲間として”ひかりを見ていた。
そして――
風魔は、まだ何も知らない。




