第8話 やんちゃ畝の実験開始と土職人・初登場
城からの紹介状を受け取った翌日。
屋敷の縁側に座る 椿(母)・綱胤(父)・志乃(祖母)・綱吉(兄)。
その中心で桜は紙束を抱えていた。
「姫はまだ寝ておるのか?」志乃
「朝稽古で疲れてそのまま二度寝してる」桜
「木刀を振り回すからじゃ」綱胤
「でもそれが姫の強さでしょ?」桜は笑いながらも、目はどこか遠く。
(強さは才能。管理は技術。才能は伸ばす、技術は作る)
◇ やんちゃ畝の宣言
桜は庭の棚——先日こしらえた三段棚の前に立ち、手のひらを広げた。
「棚は分けるためのもの! そして畑も分けるためのもの!」
「また始まったぞ」綱吉
「今日は止めないわよ」椿は腕を組みながら微笑む。
桜は裏の農地を指差した。
「畑の一番端に “やんちゃ畝” を作る! そこだけは失敗しても怒られない畝!」
椿が眉を上げる。
「怒られない畑って、怒られない姫みたいね」
「それは姫の特権!」
「特権が多いなぁこの屋敷は」綱胤が笑う。
◇ 土職人・平蔵との出会い
屋敷の門が叩かれた。
「正木様のご紹介で参りました。土を扱う 平蔵 と申します」
入ってきたのは日に焼けた手を持つ男。背は低いが目は鋭い。年は40手前ほど。
「桜姫?」
「桜でいい! 姫はあっち!」桜は即答。
「桜でいい…?」
「うん!」
(この時代の敬称は重い。でも動かすなら軽くていい)
平蔵は吹き出した。
「噂以上に面白いな」
「噂以上に土は変えられる?」
「やってみねぇとわからんが、型があるなら動ける」
桜は紙束から一枚取り出し、畝の見本図を差し出した。
「これ! 畝の幅は今の倍! 端っこは実験用! 失敗OK!」
「失敗OKか…大胆だ」
「大胆じゃなくて計算!」
「どっちも大胆って言うんだよそれは」綱吉
平蔵は紙を棚の一段目に置いた。
「区画の札と同じだな」
「そう! 棚の思想=畑の思想!」
「等号で結ぶな」綱胤が笑う。
◇ 畑での実験スタート
姫が寝ぼけ眼で現れた。
「…桜、なんか始まってる?」
「畑改革!」
「改革はわかったけど…畑で振るのは?」腰の木刀に手をかける姫。
「振らない!」
「じゃあ見る!」
二人は並んで畑へ向かった。背丈はほぼ同じ、結んだ髪が風で揺れる。
平蔵が畝を踏みしめる。
「幅を倍にすれば作業は楽になる。だが水が足りねぇと割れるぞ」
「だから水路も太くする!」桜
「紹介はできても一日じゃ太くならんぞ」
「一日で太くならないものは計画で太くするの!」
(インフラ整備の前倒しと優先度設計)
姫がぽつり。
「桜の頭の中っていつもそんな感じ?」
「そんな感じ!」
「なんかさ…かっこいいね」
椿(母)が後ろから見守りながら呟く。
「姫と桜…これから大変なことを始めるのね」
「始めるのは桍…じゃない、桜!」姫
「始めるのは姫!」桜
「もうコンビ芸じゃな」志乃
◇ その夜の団らんと感想
夕餉の席。畝の土を爪に残したままの桜。
「城の庭は綺麗だったけど、畑の土の方が面白い」
「面白さで選ぶなと言っただろう」父
「でも選んじゃった!」
「じゃあ責任持ちなさい」母
「持つのは棚と台帳と制度!」
「だから自分のことも持て」綱吉
「…持ってる! ただ今は設計図の方が声がでかいだけ!」
姫のことを尋ねる声。
「姫との関係はどうなると思う?」椿
桜は箸を止め、少し考えた。
「…私は考える人。姫は動く人。
でも、私は姫の動きを “戻ってこれる形” にする人。
姫は私の思考を “形にできる速度” にする人。
つまり…片方だけじゃ倒れる。二人なら倒れない」
屋敷が静まり、家族は深く頷いた。
「倒れない二人、か」父
「倒れたのは一回で十分じゃ」祖母
「でもまた倒れたら?」姫がにやり。
「その時は——支えるのは棚!」桜
「お前だろうが」全員ツッコミ




