70話 百地が「風魔を敵に回す覚悟」を条件に出す
――伊賀・奥の間
百地三大夫は、しばらく黙っていた。
囲炉裏の炭が、ぱち、と小さく鳴る。
その音だけが、部屋に残った。
条件を出す前の沈黙
「……よいか、桜」
百地は、名を呼んだ。
これは初めてだった。
「伊賀が動くということは」
「誰かを敵に回す、ということだ」
桜は、うなずく。
「承知しています」
百地は、視線を逸らさず続けた。
風魔の名
「北条の影――」
「風魔」
その名が出た瞬間、
部屋の空気が、わずかに張りつめる。
「奴らは忍びではない」
「戦でもなく、
交渉でもなく、
ただ“壊す”」
百地の声は、感情を含まなかった。
だからこそ、重い。
百地の条件
「伊賀が里見に与するなら」
「風魔は、伊賀を敵と見なす」
百地は、はっきりと言った。
「それでも、お前は進むか?」
桜は、即答しなかった。
百地は、その沈黙を責めない。
「今、答えよ」
「覚悟の話だ」
桜の理解
桜は、静かに口を開いた。
「風魔は」
「“勝てる相手”ではありません」
百地の口元が、わずかに動く。
「正しい」
「だからこそ」
桜は続けた。
「正面から戦わない」
「情報を奪い、
流れを断ち、
金と人の動きを止めます」
百地の核心
「それでも」
百地は、声を低くした。
「伊賀は血を流す」
「若い者も、
名もなき者も、だ」
「それを背負えるか?」
これは脅しではない。
責任の確認だった。
桜の覚悟
桜は、拳を握った。
「はい」
「だから私は」
「伊賀を“使う”とは言いません」
「一緒に沈む覚悟で、
一緒に残ります」
その言葉に、百地の目が細くなる。
百地の見定め
「……小娘」
そう言ってから、百地は笑った。
だが、それは嘲りではない。
「そこまで言うなら」
「条件を、はっきり言おう」
条件の提示
「伊賀は、里見に力を貸す」
「だが」
百地は、一語一語区切る。
「風魔と事を構える時、
伊賀は里見の盾にはならぬ」
「前に出るのは、里見だ」
「伊賀は、影で動く」
「それでも、いいか?」
桜の返答
桜は、迷わなかった。
「はい」
「それが、
忍びの戦い方ですから」
百地は、深く息を吐いた。
決断の瞬間
「よし」
その一言で、すべてが決まった。
「伊賀は」
「風魔を敵に回す」
百地三大夫は、そう宣言した。
それは、伊賀が
再び“時代の表”に出ることを意味していた。




