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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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68話 百地が“条件”を出す回

――伊賀・山中の庵

囲炉裏の火が、静かに鳴っていた。

百地三太夫は桜を正面に座らせ、表情を一切崩さない。

「……面白い娘だ。だがな」

低く、乾いた声。

「伊賀は“情”では動かん。

お前を迎える理由がいる」

桜は即座に答えなかった。

視線を落とし、囲炉裏の火を見つめる。

百地は続ける。

「条件は三つだ」

一つ指を立てる。

「一、伊賀に災いを呼ばぬこと」

二つ目。

「二、忍びの掟を乱さぬこと」

三つ目で、少しだけ目を細めた。

「三、伊賀に“得”をもたらすこと」

その場にいた若い忍びたちが、わずかにざわめく。

得――それは金か、情報か、力か。

桜は顔を上げた。

「……全部、守れます」

即答だった。

若い忍びの一人――まだ二十にも満たぬ男が、思わず口を挟む。

「どうして言い切れる?」

その声には、疑いよりも焦りが混じっていた。

桜はその若者を見て、穏やかに微笑む。

「あなた達は、生き延びるために隠れてきた。

でも、もう“隠れるだけ”では足りなくなっている」

若者の目が揺れた。

百地は黙ったまま、続きを促すように視線を送る。

桜は静かに言葉を重ねる。

「伊賀は強い。

でも今は――」

一拍置いて、はっきりと言った。

「味方を選べないことが、弱点です」

その一言で、空気が凍る。

若い忍びの息が詰まる。

それは、彼自身が心の奥で感じていた不安そのものだった。

「敵か、無関係か。

その二択しか持てないから、利用される」

桜は百地だけを見て、続ける。

「だから私は、“選べる理由”を持ってきました」

百地の口元が、ほんのわずかに歪んだ。

それは笑みとも、警戒ともつかない表情。

若い忍びは、気づけば拳を握りしめていた。

この娘は、伊賀を見下しているのではない。

理解しているのだと。

百地はゆっくりと立ち上がる。

「……条件は一つ、増やそう」

桜を見る目が、初めて“試す側”から“見極める側”へと変わった。

「お前が言う“得”を、

言葉ではなく結果で示せ」

囲炉裏の火が、ぱちりと弾けた。

――伊賀・評定の間

里見に必要な事:風魔との戦いと情報戦

評定の間は静まり返っていた。

忍びたちは壁際に控え、百地三大夫は上座で黙している。

桜は一歩前に出た。

「里見が今、最も恐れているのは――」

言葉を切る。

「北条の軍勢ではありません」

忍びたちの視線が集まる。

「風魔です」

その名を出した瞬間、空気が変わった。

百地は眉をわずかに動かす。

「……続けよ」

里見にとっての“本当の敵”

「戦になれば、兵は見えます。

陣も、旗も、数も読める」

桜は淡々と語る。

「ですが風魔は違う。

来たのか、まだ来ていないのかすら分からない」

村に流れる噂

兵の士気の揺らぎ

物資の消失

内通の疑い

「戦う前に、心と仕組みが壊される」

忍びの若者が息を呑む。

「それが、里見が最も警戒している“戦”です」

なぜ伊賀なのか

桜は百地をまっすぐ見た。

「風魔は“荒事”に長けています。

だが――」

一拍。

「体系化された情報戦は、伊賀の方が上です」

ざわ、と忍びたちがどよめく。

「風魔は感覚で動く。

伊賀は、記録し、分析し、次に活かす」

桜は続ける。

「里見が欲しいのは、

敵を斬る忍びではない」

指を立てる。

「**敵が何を考え、次に何をするかを“先に知る力”**です」

具体策一:風魔の“動線”を切る

「風魔は、点で動きます」

里

宿

市

港

「伊賀がそれらを“線”として把握すれば、

風魔は自由を失う」

百地が低く言う。

「見張るのではなく、流れを縛るか」

「はい」

桜はうなずく。

「斬らずとも、動けなくなる」

具体策二:偽情報の主導権

「風魔は、噂を武器にします」

桜は冷静だった。

「ならば、噂の“先”を取る」

北条が攻める、という噂

里見が弱っている、という噂

ある城が危ない、という噂

「事実でなくていい。整っていればいい」

百地が、ゆっくりと笑った。

「風魔の土俵で勝て、と」

「いいえ」

桜は首を振る。

「土俵そのものを、伊賀が作る」

具体策三:里見の内部を守る

「最も恐ろしいのは、内です」

桜の声が少し低くなる。

「風魔は、疑心を植えます。

疑心は、勝手に増殖する」

そこで桜は、はっきりと言った。

「だから伊賀には、

里見の“信用の監査役”になってほしい」

忍びたちが息を呑む。

「誰が疑われ、

誰が守られるべきか」

「それを判断する影が、必要なのです」

百地三大夫の理解

長い沈黙の後、百地が口を開いた。

「……里見は、忍びを“使い捨て”にせぬな」

「はい」

桜は即答した。

「だからこそ、

伊賀にとっても“得”になる」

百地は、深く息を吐いた。

「風魔と戦うのではない」

視線を上げる。

「風魔の戦い方そのものを無効化する」

桜は、静かに頭を下げた。

「それが、里見の望みです」

そして同時に――

伊賀が時代の裏側を握る、最初の一手でもあった。

伊賀と桜の関係は、

この瞬間から――ただの邂逅ではなくなった。

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