52話 まなの決意
城下の集会は、
本来なら形式的なものだった。
浜の代表。
畑の名主。
城下の商人。
里見家の当主――
里見義堯が、領内の状況を聞き、
労いの言葉をかける場。
だがこの日は、
いつもと違っていた。
「……姫様も、お出ましになるそうだ」
その一言で、
ざわめきが広がった。
まなは、
父の一歩後ろに立っていた。
豪華すぎないが、
きちんと整えられた装い。
視線が集まる。
(……怖い)
正直な気持ちだった。
だが、
逃げる理由はなかった。
桜の顔が、
端の方に見える。
頷くわけでも、
合図を送るわけでもない。
ただ、
「いる」。
それだけで、
背中が伸びた。
義堯の話が終わる。
例年なら、
ここで解散だった。
だが――
「一つ」
義堯が言った。
「今日は、
姫の言葉も聞いてもらいたい」
空気が、張り詰める。
まなは、
一歩、前に出た。
声は、
まだ高い。
だが、震えてはいなかった。
「……里見まなです」
「皆様に、
お願いがあります」
視線が集まる。
浜の男も、
畑の女も、
商人も。
(この人たちが、
私の国を作っている)
「私は――」
一瞬、
言葉に詰まる。
だが、
はっきりと続けた。
「この地を、
離れません」
ざわっ、と
空気が揺れた。
「姫様……?」
誰かの声。
まなは、
一人ひとりを見る。
「私は、
嫁ぐためだけに
生まれた姫ではありません」
「皆様と同じように、
この土地で生きてきました」
「畑の土を知り、
浜の風を知り、
城下の声を聞いてきました」
深く、頭を下げる。
「どうか、
ここにいさせてください」
「里見の姫として、
この国を支えさせてください」
沈黙。
誰も、すぐには声を出せない。
やがて。
浜の代表が、
ゆっくりと頭を下げた。
「……姫様がいてくださるなら」
「俺たちも、
やりやすい」
畑の名主も、
続く。
「姫様の名で、
通った話も多い」
「お戻りになるなら、
ありがたい」
商人が、
慎重に言った。
「姫様が残られるなら……
腰を据えて商いができます」
一人、また一人。
言葉は少なく、
だが確かだった。
義堯は、
その様子を静かに見ていた。
(……決まったな)
夜。
義堯は、桜を呼び止めた。
「姫は、
自分で選んだ」
「お前の策か?」
桜は、首を振る。
「姫様の言葉です」
義堯は、
短く笑った。
「ならば――
守らねばならんな」
その夜。
まなは、桜に言った。
「……言えた」
桜は、
少しだけ笑った。
「残るって、
宣言できましたね」
まなは、
小さく頷く。
この日、
里見まなは“嫁ぐ姫”ではなく、
“ここに在る姫”になった。
そして――
誰にも命じられず、
誰にも縛られず。
自分の意志で。




